2話 ポチャンナ様の憂鬱 後編
ロザンナが目を覚ますと、自分のベッドの上だった。
「ぼくは……」
「あ、起きた」
「うわっ! ビックリしたぁ!」
ニュッとロロが顔を出したので、ロザンナは身体がビクッとなった。
ロロはベッドに乗っかって、ロザンナの顔を真上から見下ろしている状態である。
「えっと……ロロ?」
「んー?」とロロが首を傾げる。
「近い。近いから。あと、ロロの顔がそこにあると、ぼく起きられないから」
ロザンナが言うと、ロロは「なるほど!」みたいな表情をしてから、顔を引っ込める。
そしてベッドの上に女の子座りした。
ロザンナは一度小さく深呼吸してから、上半身を起こした。
実は太ったのは夢で、本当はいつものスレンダーで可愛い自分なんじゃないか、と思ったけど現実は無情だった。
そう、ロザンナは今もちゃんとポチャンナである。
今度は溜息を1つ吐く。
「ところでロロ、何してるの?」
「……えっと……魔王様を見てる」
「あ、うん。そうだね。なんで見てるの?」
「アッスーが……見てろって」
気を失っていたロザンナは知らないけれど、アスタロトがロザンナをここまで運んだのだ。
その時に、なぜかロロも一緒に付いて来たのだった。
「……そっか。なんとなく思い出した」
「ロロは……いつまで見てればいい? 一生?」
「一生は嫌かな!」
「でも一生なんて……」ロロが少し大人びた雰囲気で言う。「瞬く間」
原初から存在するロロにとって、生命体の人生など文字通り瞬く間なのだ。
「あ、うん……」
(ロロって本当、何者なんだろう?)
ロザンナはロロについて『アスタロトがスカウトしたかなり強い魔物』としか知らないのだ。
(八岐大蛇をペット扱いしてたり、なーんか神っぽいけど……気配は神じゃないし……)
まぁ深く考えるのは止めよう、とロザンナは思った。
ロロの正体より大事なことが今はある。
「おお! 気がつきましたかロザンナ様!」
乱暴に扉を開けて入室したアスタロトが、大きな声で言った。
「ノックぐらいして欲しいかな!」
「え? 我はいつも……いえ、失礼しました」
「ねぇいつもって何? 今、いつもって言った? そんな頻繁にぼくの部屋に来てないよね?」
ロザンナが問いただすと、アスタロトが天井を見詰めた。
「ネビロス! ネビロース!」
ロザンナが呼ぶと、ネビロスが颯爽と登場する。
「ねぇもしかしてアッスーってぼくの部屋に勝手に入ったりしてる!?」
「……それは……」
ネビロスの視線が床へと向く。
あ、これ、入ってるわぁ、とロザンナは思った。
セキュリティを強化しないと、と心に決める。
「それより真剣な話ですがロザンナ様」キリッとした表情でアスタロトが言う。「無茶なダイエットは終わりにしましょう」
「……それはまぁ、ぼくもそう思ってたとこ」
ロザンナが肩を竦める。
「ここはもうアルト殿に頼んで、サッと痩せましょう」
「え?」
「安心してください。アルト殿はどんなロザンナ様も好きだと言っていました」
「……そ、そう?」
ロザンナが頬を染めてチラチラとアスタロトを見た。
「もちろんです。我がロザンナ様に嘘を吐いたことはありません」
「……というのも嘘ですが……」
ボソッとネビロスが言った。
もちろんロザンナには聞こえないように。
「アルト殿はロザンナ様のためなら、いつでも手助けすると! そのように言っておりましたよ!」
アスタロトが身振り手振りを交えて力強く言った。
「そ、そっか……。アルトがそこまで言うなら……恥ずかしいけど、頼んじゃおうかな……楽して痩せられるし……」
正直、ダイエットはもうやりたくないロザンナだった。
「そう言うと思って、すでに手配済みです! ビビが!」
「ええ!? 手際よすぎぃぃ!」
ロザンナは驚いて仰け反った。
そしてまたネビロスが誰にも聞こえない独り言を呟く。
「本当はビビが勝手にアルト様を呼んで事情を話してしまったので、なんとしてもロザンナ様を説得する必要があっただけですが」
「ささっ! それではアルト殿! お願いします!」
アスタロトが言うと、アルトがおっかなビックリ入室した。
「そこにいたの!?」
ロザンナはまたまた驚いて仰け反った。
◇
いやぁ、ロザンナがデブったって聞いたけど、本当に太ったなぁ。
しかも無理なダイエットで倒れるとか、ダメなパターンの典型だな。
俺はロザンナの部屋に入って、マジマジとロザンナを見てそう思った。
ちなみにロザンナの部屋は全体的に黒っぽい装飾が多く、薄暗いので居心地がいい。
そしてなぜかロザンナのベッドでロロが寝ている。
なんでだ?
一緒に寝てたのか?
「アルト……久しぶり……」
ロザンナがちょっと緊張した様子で言った。
なんだ?
怒られるとか思ってんのかな?
まぁちょっと怒ってもいいけど……いや、止めておこう。
「ああ。久しぶりだな。ビビから聞いたんだけど、【身体最適化】を使って欲しいって?」
「うん……お願いできる?」
「いいけど、2つ伝えることがある」
「何?」
「1つは、【身体最適化】はすっげぇ痛いってこと」
「そうなの!?」
ロザンナが言って、俺は強く頷く。
「身体を再構築するからな。普通に痛いぞ。俺も昔1回だけ試したけど……別に太ったとかじゃなくて、実験的にな?」
「あ、うん……」
「とにかく痛いけどいいか?」
「大丈夫! ダイエットよりマシ!」
ロザンナが元気にガッツポーズ。
本当に痛いんだけど、ロザンナは魔王代理だし大丈夫か。
「そんでもう1つ」俺は人差し指を立てて言う。「こっちのが大事なんだけど、今後はちゃんと節制すること」
「あ、はい……」
「運動もだぞ?」
「あ、はい……」
ロザンナは怒られた子供みたいな表情で返事をしていた。
しかしよく考えたら俺も運動不足だな。
散歩ぐらいしかしてねぇぞ。
「今度一緒に走るか?」
「え? アルトと一緒に!?」
「ああ。走って世界一周ぐらいすればいい感じの運動になるだろ?」
「大陸一周!? それはちょっとしんどいかも……」
いや、大陸じゃねぇけど。
大陸だと狭くねぇか?
「アルト殿と走るのは難しいでしょうね」アスタロトが肩を竦めつつ言う。「とりあえず【身体最適化】をまずやりましょうか」
なぜ俺と走るのが難しいのか、と突っ込みたかったけど止めておこう。
「そうだね」ロザンナが頷く。「アルト、お願い」
「分かった」
俺は右掌をロザンナに向けて【身体最適化】を発動。
そうすると、ロザンナの身体がグニャグニャと変形を開始。
「ちょば! びぎぎぎぎい! あばばばっばあ!」
ロザンナが謎の悲鳴を上げ始める。
骨が折れる音や肉が軋む音が室内に響き、アスタロトとネビロスが真っ青になる。
いやぁ、この魔法、害はないってか身体にいいんだけど、見た目がグロいんだよなぁ。
あとすっげぇ痛い。
しばらくロザンナがグニャグニャして、そうしてシュッと以前のロザンナの体型に変化した。
いや、以前よりやや引き締まって見えるな。
ロザンナは「ゼーハー、ゼーハー」と肩で息をしている。
「だ、大丈夫ですか……?」
ネビロスが心配そうに声をかけた。
「死ぬかと思った……」ロザンナが半泣きで言う。「でも、今はすごく身体が軽い……」
「良かったな。前よりシュッとしたぞ」と俺。
「うん、分かる……」
ロザンナがロロを避けてベッドから降りる。
そして軽くピョンピョンと跳ねる。
「ぼく、かなり強くなったみたい……」
あれ?
そんな効果あったっけ?
戦闘能力は変わらないのでは?
いや、身体が最適化されるから、ちょっとは強くなるのか?
「すごい! すごいよアルト!」
ロザンナが俺に抱き付いた。
そしてギューギューと締め上がる。
痛い、痛いぞロザンナ!
確かに強くなってるな!
「よしよし、分かったから、分かったから」
俺はロザンナの頭を撫でた。
「我にも! 我にもギューッて!」
アスタロトが両手を広げた。
ロザンナは俺から離れて、アスタロトにパンチ。
ぶっ飛んだアスタロトが壁を突き破って隣の部屋へ。
ええええええ!?
なんでパンチ!?
ネビロスがパチパチと手を叩きながら言う。
「かなり強くなっていますね」
そうだと思うけど!
思うけど!
アスタロト大丈夫!?
壊れた壁の方を見ると、アスタロトが隣の部屋で幸せそうな表情を浮かべている。
俺と目が合うと親指を立てていた。
……大丈夫そうだな。
あ、そういえばエレノアも最近かなり丸くなってたような……。
ちょっと節制させるかぁ。
――あとがき――
来週はお休みします。




