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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
Short Story 盗まれたトライデントを追え

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4話 なんか出た


「な、なんだ貴様……」


 朱雀が後ずさった。

 どうやら羽々斬の恐ろしさが分かるらしい。


「は? さっき名乗ったでしょ? ばーか」


 羽々斬が澄まし顔で言った。


「お、おのれぇ! オレをバカにするな!」


 朱雀が怒って火を噴いた。

 俺は【シールド】を張っているので、特に問題はない。

 俺にくっ付いている暗黒鳥とニナも大丈夫。

 だけど羽々斬は炎に飲み込まれた。


 やべぇ!

 まさかとは思うけど、羽々斬まで裸になるんじゃ!?

 俺はドキドキしながら炎が消えるのを待った。


 そうすると、ノーダメージの羽々斬が立っていた。

 あ、ノーダメージってのは服のことな?

 羽々斬の本体はマグマに落ちたって平気だから心配してない。


「?」


 羽々斬がキョトンとした顔で首を傾げた。

 炎の威力が弱すぎて、攻撃されたと理解してないっぽい。


「……さすが神刀ね」ニナが言う。「傷1つ、お焦げの1つも付いてないじゃん……」


「う、うむ」暗黒鳥が頷く。「ワシなら今の炎で焼き鳥よぉ」


「あんま美味しくなさそうね」

「失敬な! ワシは世界一美味い暗黒鳥! 食べてから評価しろ!」


「食べていいのかよ!?」と俺。


「はっ! しまった! 食べられたらワシ、死ぬじゃないか!」


 何をビックリしてんだよお前!

 ニナも「あはは……」と苦笑い。


「な……まともに当たったはず……」朱雀がまた後ずさる。「無傷だと……。オレは……フェニックスになったんじゃ……」


 それは勘違いだ!


「はぁちゃんパンチ!」


 羽々斬が目にも止まらぬ速度で朱雀の前に移動し、そのまま右の拳で殴った。

 まったく何の変哲もない普通のパンチである。

 こう、ぶぅんって感じで振っただけの、型もクソもない本当に普通のパンチ。


「ぐべぇぇぇぇ!!」


 朱雀は空にぶっ飛んでそのまま遙か彼方のお星様になった。

 いや、死んだかどうかは分かんねぇけど。


「って俺のトライデント!?」


 まさか朱雀と一緒に飛んでいったのか?


「これのこと?」


 羽々斬が右手でトライデントをクルクルと回していた。


「それ! それのこと!」


 俺は満面の笑みを浮かべた。


「なんか神物の気配が混じってたから、殴った時に分離させたぁ」

「原理はよく分かんねぇけど! すごいぞはぁちゃん!」


 俺が言うと、羽々斬が一瞬で俺の前に移動。

 俺はちょっとビクッとなった。


「ふふん? 今、はぁちゃんって呼んだ?」


 羽々斬が前屈み上目遣いでニヤニヤしながら俺を見詰める。


「あ、ああ……ダメだったか?」


 俺が言うと、羽々斬は満面の笑みを浮かべる。

 かなり可愛い。

 羽々斬の見た目年齢がもうちょっと上なら惚れてたかも。

 いや、やっぱ刀と恋愛はないか。

 油断したら監禁されるしな。


「ダメじゃないよ。これからもはぁちゃんって呼んでね?」

「そうするけど、とりあえずトライデントを……」


 俺が手を伸ばすと、羽々斬がヒョイとその手を躱した。

 なんで!?


「欲しいの?」

「欲しい!」


「ところでその子」羽々斬はニナを見ながら言う。「なんか見たことある気がしないでもないけど、アルトの愛人?」


「違うが!? 近所の子だが!?」

「がーん」


 なぜかニナがショックを受けたようだ。

 なんでだよ!?

 お前、近所の子じゃねぇか!

 何も間違ってなくね!?

 あ、勇者って紹介して欲しかったのか!?


「ふぅん」ニヤニヤと羽々斬が言う。「これをアルトにあげると、はぁちゃんにはさ、どんないいことがあるの?」


 クルクルーっとトライデントを回しながら羽々斬が言った。

 なんか演武みたいで綺麗だな、と俺は思った。

 いや、そんなこと思ってる場合じゃないけども。

 朱雀よりも羽々斬の方が厄介なんだが!?

 俺はコホン、と咳払い。


「お手入れ3日でどうだろうか?」

「ちょぉっと少ないと思うなぁ」


 俺は再び咳払い。


「5日」

「乗った!」


 羽々斬がトライデントを俺に差し出す。

 やったぜ!

 俺はトライデントを受け取る。


「俺もクルクル回したいから、ちょっと離れてくれ」


 俺が言うと、暗黒鳥がパタパタと飛んでニナの肩へ。

 ニナと羽々斬が少し下がった。

 俺はクルクルとトライデントを回した。


 槍先から水が生成され、陽光でキラキラして綺麗だった。

 何度か回したあと、空に向けて突きを放ってみる。

 そうすると、凄まじい水の渦が槍先から放たれて空を割った。

 比喩でも何でもなく、本当に空が割れてしまった。



「うへぇ!?」とニナが驚く。


 俺も驚いた!

 裂けた空から何かがこちら側を覗いている。

 誰だあれ?


「さすがアルトね」羽々斬が淡々と言う。「次元を割っちゃうなんて」


「んんんんんん!?」


 俺のせい!?

 トライデントが神性能なだけじゃね!?

 いや、それを何も考えずに振り回した俺も俺だけども!


「出て来てる! ねぇアルト、出て来てるよ!?」


 ニナが空を指さして叫んだ。

 裂けた空から巨大な黒い手が出てきて、次元の裂け目を更に開こうとしていた。

 あれこれヤバくね?

 出てくる前に帰ってもらった方がよくね?

 次元の裂け目が広がり、そこから悍ましい顔が出て来た。


「こわっ!」と俺。


 俺も顔が怖いとよく言われるけど、こいつに比べたら可愛いもんだと思う!


◇


 ニナは思った。

 これ出て来たら世界が滅ぶやつだな、と。

 羽々斬は思った。

 歯ごたえがありそうね、と。


 世界に散らばっている強者たちも、この異常事態に気付いて震えた。

 ケイオスは「マジか、異次元の神だと……」と戦慄。

 エクスは「これは全世界で対応した方がいいぞ」と冷や汗を流しながら言った。

 ロキは「まさか……神々の始祖なのかい?」と呟いた。

 サビナは「地下帝国に隠れていれば……助かる……かな?」と引きこもる気満々である。


 グリムは「一体なぜ……他次元の神が……」とその出現理由が気になっていた。

 ルシフェルは「誰だこんなヤバい奴を招き入れたアホは! やっていい悪事とそうでない悪事があるだろうが!」とぶちキレていた。

 ロザンナたち魔王軍は「どうしてこんなことにっ!」と慌てふためいた。


◇


「なんとかするのだアルト!」


 暗黒鳥がバタバタと羽を動かしながら言った。

 めっちゃ焦ってるなお前!

 俺も焦ってるけど!

 空を裂いて異次元の存在を招くとか、色々な人に怒られそう!

 とりあえずトライデントでどうにかできるだろ!


「我は……」


 全世界に響き渡りそうなほどの声で、謎の顔が自己紹介を始めた。

 始めたのだけど、俺はもう攻撃態勢に入っていた。

 悪い!

 自己紹介を聞いてやりてぇけど、止まらないんだ!


「ていっ!」


 俺は再びトライデントで空に向けて突きを放った。

 今回の突きには俺の魔力も混ぜた。

 そうすると、漆黒の濁流が槍先から生まれ、裂け目から出て来ていた顔に命中。


 そのまま顔を次元の向こうに押し戻した。

 お? 見た目は怖いけど、あんま強くないなこいつ。

 俺は次に、古い空間魔法で次元の裂け目を塞いだ。

 確か、空間を正常な姿に戻すという魔法だったか。


 空間魔法で色々といじって、訳が分からなくなった時に使うやつ。

 生まれて初めて危機的状況で使ったけど、上手くいったようだ。

 知ってて良かった古代魔法!


「こ、怖かったぁぁぁぁぁ!」


 ニナがヘロヘロと座り込んだ。


「大丈夫か? 心配しなくても、あいつ見た目だけでそれほど強くないぞ、たぶん」

「……アルトにはそうかもね……」


 ニナは引きつった表情で言った。


「あーあ、はぁちゃんも斬りたかったなぁ」


 羽々斬はいつの間にか刀の姿に戻っていた。

 そうだよなぁ、仮にあいつが実は超強い存在でも、この世界には羽々斬がいるのだ。

 よく考えたら別に焦らなくても良かったのでは?


 自己紹介ぐらい聞いてやれば良かった。

 実はいい奴の可能性も……いや、それはないな。

 あんな悍ましい奴が善人ってことはねぇ。


「アルトよ」暗黒鳥が真面目な様子でトライデントを指さす(羽で)。「それは封印してはどうだ?」


 なんでだよ!?

 苦労して手に入れたトライデントを封印とか!

 安易に空に向けて突きを放たなければ大丈夫だって!


「ま、まぁ帰ろうぜ」


 俺はとりあえず、話を逸らすのだった。

 それはそれとして、ニナには今度プレゼントでもしよう。

 空の旅で吐きそうになって、朱雀に服を燃やされ、謎の存在に怯え、踏んだり蹴ったりだもんな。


――あとがき――

これで『盗まれたトライデントを追え』編は終わりです。

来週からはまた1~2話の短い話を投稿していきます。

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