3話 VS朱雀
「くはは! 見ろ! これが神物だ!」
地面に突き刺したトライデントの隣で、朱雀が胸を張って言った。
「ほう……すごい……いいなぁ」
涎を垂らしながらトライデントを見ているのは、白い大きな亀である。
この亀は玄武という種族で、朱雀と似たような存在だ。
「オレはこの神物を吸収し、神の鳥フェニックスへと昇華するのだ!」
朱雀はひっくり返りそうなぐらいに胸を反らして自慢気に言った。
「はぁ……ぼくも神物で……空を飛び、火を噴く神の亀になりたい……」
「くはは! 貴様はオレがフェニックスになるのを見ていればいいのだ!」
「……はぁ……やっぱり自慢するために呼んだのか……嫌な奴」
玄武は小さく首を振りながらボソッと言った。
「それにしても青龍と白虎め。オレの呼びかけを無視するとは許せん」
「ぼくも次から無視しよ……」
玄武はまたまたボソッと言った。
「オレがフェニックスになった暁には、青龍と白虎は半殺しの刑だ! くはは! 玄武、貴様はオレの下僕にしてやる! 嬉しいだろう!?」
朱雀が高笑いして、玄武はやれやれと首を少し引っ込めた。
朱雀は翼を大きく広げ、フェニックスになった自分を妄想してニヤニヤし始めた。
玄武は空を見上げ、「今日もいい天気だなぁ」と思った。
その瞬間、何者かがゲートアウトしてきた。
(【ショートゲート】? ぼくらを……【アクティブサーチ】してきた? どこから?)
玄武はとってもビックリした。
なぜなら、臆病な玄武はこの周辺をくまなく【サーチ】して、安全であることを確認していたのだ。
そう、周辺に強い存在はいなかったはずなのだ。
「お? めっちゃ赤いな! あれが朱雀か! 隣にトライデントあるし!」
黒い男が言った。
髪も服も黒いし、なんだか雰囲気も暗いように見える。
見た目は弱そうだが、その秘めたる魔力量を玄武が見誤るはずもなく。
(ま……魔神だぁぁぁぁぁ!)
玄武はブルブルと震え始める。
黒い魔神の肩には黒い鳥が威風堂々と佇んでいる。
そして、魔神の愛人なのか何なのか、人間の女がキョロキョロしていた。
「玄武もいるじゃん! リクたちならきっと喜ぶだろうなぁ!」
人間の女は、魔神と違って明るい雰囲気だった。
「貴様、オレに神物を貢いだ鳥ではないか」
朱雀が黒い鳥を見ながら言った。
「貢いだのではない。お前が強奪したのだ」と黒い鳥。
(あー、強盗したのか朱雀……)玄武は苦い表情を浮かべる。(巻き込まれる前に……ぼくは逃げよう……)
「ちなみにそれ、俺のなんだ。返してくれ」
魔神がトライデントを指さした。
(うっそーん! 朱雀、魔神から盗んだの? お仕舞いだ……殺される……ぼくは隙を見て逃げなきゃ……)
「ふ、ふざけるな! 誰が返すか! 魔神だか何だか知らないがっ! 勝手なことを言うな!」
「いや勝手なこと言ってるのお前じゃね!?」
魔神がビックリしたように言った。
ごもっとも、と玄武は思った。
「あと誰が魔神だよ! 俺は見ての通り、普通のヴァンパイアだ!」
魔神が右手を自分の胸に当てながら言った。
(何の冗談!? 確かに元はヴァンパイアかもしれないけど……)
玄武は魔神の真意が理解できない。
「でもこっちは勇者だぞ!」
自分よりはるかに弱いであろう人間の女を、魔神が手で示す。
「あ、ども、勇者やってるニナだよー! 無職じゃないよー!」
人間の女ことニナは、とっても明るい笑顔で言った。
玄武も朱雀も、勇者については『話に聞いたことはあるけど、詳しくは知らない』という感じである。
「勇者だか無職だか知らないが!」朱雀が言う。「神物はオレの物だ! 誰にも渡さん!」
朱雀は即座にトライデントを吸収。
朱雀の魔力が膨れ上がる。
「お、俺のトライデントが……」
魔神が酷く悲しそうな顔で言った。
(今だっ!)
玄武は即座に自分の巣へと転移した。
◇
(え? あたしこれと戦うの? 半神とまではいかないけど、かなーり強くない?)
ニナは異次元巾着からライトニングを出して構えた。
構えたけれど、ちょっと腰が引けている。
なぜなら、朱雀がさっきの倍ぐらい大きくなっているから。
それに雰囲気もなんだか神々しいうえ、その身に炎を纏っていた。
ニナがチラッとアルトの方を見ると、アルトは少し下がって【シールド】を張っていた。
(絶対手伝わない構えだぁぁぁぁ! スパルタ過ぎるぅぅぅぅぅ! あたしこれ、頑張らないと死ぬんじゃない!?)
うぅ、ちょっとゴロゴロしてダラダラしていただけなのに、とニナは泣きそうになった。
「くはは! これが! フェニックスとなったオレか! 素晴らしい!」
朱雀が大きな翼をはためかせると、燃えさかる突風が発生。
「ひぃぃぃ!」
ニナは半泣きで炎の突風をライトニングで斬った。
◇
朱雀がなぜか温風を発生させ、ニナがそれを斬った。
あの温風は何だったんだろうか。
鳥類の考えることは分かんねぇな。
しかもこの朱雀、自分のことをフェニックスだと勘違いしているようだ。
俺は苦笑い。
そんな簡単に神鳥になれてたまるかっての。
この世界に神はいねぇんだぞ?
半神のサビナがもっとも神に近いわけで、それだって万年を生きた上でニルヴァーナに到達してやっとなんだぞ?
数百年生きた程度の鳥類が、武器を吸収したぐらいで神になれるわけねぇって話。
俺が心の中で朱雀をディスっている間も、ニナと朱雀が戦っている。
主に朱雀が火を噴いたり、炎系の魔法を使ったりしている。
ニナはライトニングでそれを防御したり斬ったり、雷で相殺していた。
なんかニナの動きが悪いな。
やっぱダラダラしてたから、腕が鈍ってんのかな?
「なんて激しい戦闘……」暗黒鳥が言う。「これが勇者と……半神になりかけている朱雀の戦い……」
「え?」
「あ、アルトには物足りないだろうが」
ふっ、と暗黒鳥が身を竦めた。
まぁ確かに、俺は羽々斬とエクスカリバーの戦いとか見てるわけで。
ニナと朱雀の戦いはちょっと見劣りするよな。
「しかしアルトよ」
「なんだ?」
「勇者死ぬんじゃないか?」
「ええ!?」
そんなまさか、と思いつつしっかり観察すると、ニナが押されていた。
おおおおおい!
ニナァァァァァァ!
いくらなんでもサボり過ぎだぁぁぁぁぁぁ!
動き悪いとかのレベルじゃなかったぁぁぁぁ!
ってか、これなら普通に俺の方が強くね?
おかしいな……いくらサボっていたからって、勇者が俺より弱いとかある?
ぶっちゃけ朱雀も大したことない気がするし……。
いやいや、きっと俺の目が肥えているだけだ。
俺の実力は平均的なヴァンパイアだ、傲慢になっちゃダメだ。
ヴァンパイアたちは自分の実力を過信して喧嘩売りまくって自滅したからな。
俺はその轍は踏まないっ!
「助けてやらんのか?」
「……その方がいいな」
俺はとりあえず羽々斬を呼んで、右手を伸ばした。
「やっほー! はぁちゃんだよぉ!」
羽々斬が空中でクルクルと縦回転。
羽々斬の柄を掴もうと思っていた俺の右手が寂しいぜ。
そして羽々斬が地面に落ちる頃には人間の姿に変身していた。
久しぶりに見たけど、やっぱ綺麗だな。
闇を思い起こす黒い瞳に、カラスの濡れ羽色の髪が最高だ。
「叢雲っちとさぁ」羽々斬がパンチを繰り出しながら言う。「人間のやる喧嘩の練習したんだぁ!」
なんで!?
それ必要ある!?
てか叢雲と羽々斬で殴り合ったってこと!?
人間の姿で!?
それはあんまり見たくねぇな!
「アルト、誰を殴る?」と羽々斬。
相変わらず物騒な刀だけど、今日はありがたい。
「あそこの赤い鳥」
俺はスッと朱雀を指さした。
「もう無理ぃぃぃぃ! 助けてぇぇぇぇ!」
服が燃えてほぼ全裸のニナがこっちに走って来た。
俺はとりあえずニナに【ヒール】を使用。
次に異次元ポケットからマントを出してニナの身体を包んだ。
そうだよなぁ、普通の服は燃えるよなぁ……。
てかニナっていつも裸か半裸になってね?
「さぁそこの鳥!」羽々斬が仁王立ちして朱雀を指さす。「最強無敵のはぁちゃんが相手よ!」
朱雀、終わったな、と俺は思うのだった。




