2話 勇者というかニート
「うえーい……」
ニナのクッソ眠そうな「うえーい」頂きましたぁぁぁ!
もう昼前なんだが?
「生活乱れすぎだろ……」
俺は苦笑いしつつ言った。
ここはニナの家の客間。
俺はソファに腰掛けていて、ニナは部屋に入って来たばかり。
暗黒鳥はなぜか俺の肩に止まっている。
お前、自分をワシかタカだとでも思ってんの?
「夜はアルトと乱れちゃう?」
ニナは両手で自分の胸を挟んで押し潰すようにしたけど、元が小さいのであんまり意味がないという悲しい結果に終わった。
あと、俺と乱れるってどういう意味だよ。
俺はちゃんと寝るぞ。
「バカ言ってんじゃないよこの子は」
ニナの母が部屋に入って来て、右手でスパーンとニナの尻を叩いた。
ちなみに左手にはお盆を持っている。
「痛っ!」
ニナが飛び跳ねる。
「領主様、粗茶ですが……」
言いながら、ニナの母が俺の前のテーブルにお茶を出してくれた。
「ありがとう。頂くよ」
俺は笑顔を向けてから、お茶を飲む。
うん、普通に美味い。
「ちょっとママ……手加減してよ……。割れちゃうでしょ」
ニナは自分の尻を撫でながら言った。
「なぁに言ってんのよ」ニナの母が呆れた風な表情で言う。「ちょっと身体強化しただけでしょ?」
「……ちょっと?」暗黒鳥がボソッと言う。「ワシなら死んでいるが……?」
だろうなぁ、と俺は思った。
暗黒鳥、ガラス戸は突き破るくせに割とひ弱なんだよな。
「領主様からも言ってやって欲しいんですけどね」ニナの母がやれやれと肩を竦める。「この子ったら、もう19歳にもなるのに、毎日ゴロゴロ……ゴロゴロと」
ああ、ニナってば19歳なのか。
確か、旅に出るって村を飛び出したのが15歳の時だったはず。
そして勇者になって、俺と再会したのが17歳。
そっか、あれから2年も経過したのかぁ。
うーん、昨日のことみたいだな。
「ちょっと止めてよママ!」
「だいたいねぇ、あんた、19歳にもなって勇者だなんだって、いい加減、定職に就きなさいって」
いや勇者は割と大事な役割だぞ!?
今のところ世界は平和だけども!
「あんたの仲間の子たちは、みんな定職に就いてるでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
ん?
武闘家ロジャーって仕事してんの?
永遠に修行の旅とかしてそうなイメージだった。
「ほらみなさい。それにあんた、そろそろ結婚も考えなきゃだしねぇ?」ニナの母が右手を頬に当てて溜息を吐く。「あーあ、孫の顔はいつ見られるのかしら?」
「ぐぬ……」
ニナが助けを求めるように俺を見た。
「まぁまぁ」
俺はニナの母を宥めるようなジェスチャをした。
「てか、アルトがあたしと結婚すれば解決! あたしは領主夫人!」
「やーね、領主様があんたと結婚してくれるわけないでしょ? ママだって領主様には10回も振られたんだから」
そんなことあったっけ!?
存在しない思い出が溢れてねぇか!?
「まぁまぁ」俺は再びニナの母を宥める。「とりあえず、俺の話を進めてもいいか?」
話題を変えよう。
ニナのためにも、俺のためにも。
ニナとニナの母が俺をジッと見詰める。
「ちょっとニナに手伝って欲しいんだ」
「ええ」ニナの母が頷く。「どうにでも使ってやって」
「もういいからママはあっち行ってて!」
ニナがニナの母の背中を押して部屋から追い出して、バタンと戸を閉めた。
「ご、ごめんねアルト……ママ口うるさくて」
えへへ、と笑いながらニナが俺の対面のソファに座る。
俺はコホンと咳払い。
「実は……」
◇
(アルトの荷物を盗むなんて命知らずな……)
話を聞いたニナは、引きつった表情でそう思った。
「つーわけで、朱雀を探しに行くんだけど、戦闘になった時に助けて欲しいというか、戦って欲しいわけだ」
ああ、これはアレだな、とニナは察する。
(あたしが日々ダラダラして腕が鈍ってるから、朱雀を相手にして勘を取り戻せってことね?)
朱雀は確かに強敵だが、アルトなら指先1つで倒してしまえる。
だが今のニナなら、ちょうどいい感じの激闘になるはず。
(そういえば最近、お腹のお肉が気になってたし……いっちょ朱雀の焼き鳥を……って食べたらまた太るじゃんあたし! って、朱雀って半分精霊だから食べられないっけ!?)
食っちゃ寝、食っちゃ寝の生活をしているニナ。
たまにアルトの家に遊びに行ったり、親の仕事を手伝ったりもしてはいるけれど、おおむね引きこもりである。
「どうだ? 無理そうなら……」
「んーん!」ニナが首を横に振る。「大丈夫! あたしに任せて! 朱雀なんてライトニングの錆にしてやるんだから!」
「お? そりゃ助かる。早速、行こうぜ?」
「うん、ちょっと着替えてくるね」
ニナは急いで自室へと向かい、久々に戦闘服を着用した。
ちょっとキツかった……。
◇
「死ぬぅぅぅぅぅ! アルト!! もっとゆっくり飛んでぇぇぇぇ!!」
ニナはアルトの背中にしがみ付いて、激しく涙を流しながら叫んだ。
怖くて泣いているわけではなく、風が目に当たって自然に流れ出たのだ。
「風の音で聞こえてなぁぁぁい! アルトォォォオ! 怖いよぉぉぉぉ!」
どうやら恐くて泣いていたようだ。
こうなったのは暗黒鳥のせいだ、と消失しそうな意識の中でニナは思った。
アルトが「よぉし、とりあえず南方を片っ端から調べるぞ」と言った時に、暗黒鳥のやつが「ワシ、飛行速度には自信がある」なんて言うから。
それでアルトが「お、じゃあ飛んで行くか」と応えて現在に至る。
さてその暗黒鳥はというと……はるか後方、すでにその姿すら見えていない。
◇
ニナが思いっ切りしがみ付いてくるんだが?
両手両足でガッチリホールドしてるんだが?
しかも何か言ってるようだけど、風の音で聞こえない。
もしかして怖いのか?
いや、まさかな。
ニナは勇者だし、このぐらいの速度が怖いってことはない。
もしかして子供みたいに「もっとスピード出して」とか言ってるのかもな。
そんなことを考えていると、南方最初の島国に到着。
俺は速度を徐々に緩め、そしてゆっくりと滞空。
周囲を見回すと、暗黒鳥がいない。
なんでだよ!?
あいつどこ行ったんだよ!?
俺はキョロキョロと首を振ったが、マジで暗黒鳥がいない。
嘘だろ、あいつ迷子になったのか?
知能エレノア並か?
いや落ち着け俺、普通に考えてエレノアの方が賢いはずだ。
そうだよなぁ、暗黒鳥って鳥だもんなぁ。
「アルト……吐きそう……」とニナ。
「マジか! ええと、【ヒール】で治るか!?」
俺は急いでニナに【ヒール】した。
「ふぅ……落ち着いた……」
ニナが俺をホールドしていた手足を解いた。
いや、解いたらお前、落ちるんじゃね?
そして案の定、ニナが落下。
とってもビックリした表情で。
俺の方がビックリだって!
俺はサッとニナの下に移動し、ニナを受け止めてお姫様だっこ。
「あ、ありがと……力がその……抜けちゃって」
ニナは恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染めながら言った。
「そうか。気を付けろよ」俺は笑顔で言った。「とりあえず【サーチ】して朱雀を探すか」
言葉の通り、俺は【サーチ】を使用。
島国を隅々まで調べたけれど、朱雀の姿は見えない。
「ここにはいねぇな。もっと南の大陸まで行くか」
俺が呟いた時、全身で息をしながら暗黒鳥がヘロヘロと飛んで来た。
「アルト……速すぎる……ぞ……」
暗黒鳥が俺の頭の上に着地し、そのままグッタリした。
いや、俺全然、本気じゃねぇぞ?
そりゃ、暗黒鳥が飛行速度に自信があるって言うから、少しは急いだけども。
「もう【ゲート】で次の大陸まで行った方が早いな」
俺は苦笑いしながら言った。
「そ、そうしてくれ……」と暗黒鳥。
「ニナもそれでいいか?」
「もちろん!」
ニナは空の旅の方が楽しいかな、とか思ったけどそうでもないみたいだ。
俺は更に南方の大陸へと【ゲート】した。




