第3章 すれ違う三人
時系列の調整のため、学年と年齢を訂正しました。
俺がこの街に引っ越してきたのは、小学二年生のときだった。
最初はクラスのみんなになかなか馴染めず、休み時間も一人で過ごすことが多かった。
そんな俺に声をかけてくれたのが、浩太だった。
浩太がきっかけで、俺は少しずつクラスのみんなと遊ぶようになった。あいつには感謝してもしきれない。
そして、浩太のそばにはいつも花子がいた。
俺を含めた三人で、この公園でもよく遊んだものだ。
思い返せば、楽しかった記憶ばかりが浮かんでくる。
もちろん、喧嘩をしたことだってある。でも、どんなに激しく言い合っても、いつの間にか仲直りしていた。
お互いを信頼していたからこそ、そんな関係でいられたのだと思う。
……それなのに。
中学生になった頃から、俺は次第に浩太のことを疎ましく感じるようになっていた。
理由は分かっている。
俺はいつの間にか、花子のことを好きになっていたのだ。
だが、花子と浩太は物心ついた頃から一緒にいる幼馴染だった。
二人の間には、俺にはどうしても入り込めない何かがあるように思えた。
そんな思いを抱えながらも、俺は少しずつ花子にアプローチしていった。
そして中学3年生の頃、花子も俺のことが好きだと言ってくれた。
あのときは、本当にうれしかった。
ようやく自分の気持ちが報われた。そう思った。
浩太も、俺たちの間に流れる雰囲気を感じ取っていたのだろう。
それでも、あいつは何も言ってこなかった。
俺たちに遠慮していたのか。それとも、花子のことをそこまで好きではなかったのか。
今となっては、確かめようもない。
ただ、あの頃から、俺と浩太が一緒に過ごす時間は少しずつ減っていった。
それが、俺たち三人の関係が変わり始めた時期だったのかもしれない。
* * *
私は、物心ついた頃から浩太と一緒にいた。
家が近所だったこともあるし、親同士も仲が良かった。だから、まるで本当の兄妹のように過ごしてきたと思う。
小学二年生のとき、一二三がこの街に引っ越してきた。
最初はクラスに馴染めず、一人でいることが多かった一二三に、浩太が声をかけた。
それをきっかけに、私たちは三人で遊ぶようになった。
いろいろなことをして遊んだ。
その中心には、いつも浩太がいた。
でも、いつからだっただろう。
一二三のことを、ただの友達ではなく、一人の男の子として意識するようになったのは。
気づけば、私は一二三のことが好きになっていた。
そして中学三年生の頃、私たちはお互いの気持ちを確かめ合った。
それでも、浩太のことを嫌いになったわけではない。
話しかけられれば、いつもどおり笑って話したし、一緒にいるときだって楽しかった。
ただ……。
一二三と一緒にいる時間が増えるにつれて、浩太と過ごす時間は少なくなっていった。
今になって思えば、浩太は私たちに遠慮していたのかもしれない。
私たちの関係を気遣って、自分から距離を置いていたのだろうか。
もし、そうだったとしたら……。
ごめんね、浩太。
私は、あなたがそんな気持ちでいたことに、気づいてあげられなかった。
* * *
私は二人から話を聞き終えると、今日のところはそれぞれ家に帰すことにした。
二人の話を聞く限り、表面上は、互いに強い恨みを抱いているようには見えなかった。
しかし、それだけで何もなかったと判断するわけにはいかない。
浩太君は、二人の関係を見て疎外感を抱いていたのだろうか。
それが今回の死につながったのだろうか。
……いや、仮にそうだったとしても、こんな結末が正しいはずがない。
浩太君。君は、本当に自ら命を絶ったのか?
私は改めて、これまでに分かっていることを頭の中で整理した。
今朝六時頃、この公園の周辺を日課のジョギングで走っていた人が、倒れている浩太君を発見し、119番通報した。
救急隊によって死亡が確認され、その後、警察が現場に到着。私たちが捜査を進め、現在に至っている。
亡くなったのは、佐藤浩太君、17歳。
近くにある大和高校の2年E組に在籍している生徒だ。
死亡推定時刻は、昨夜の二十二時頃。
発見されるまで、およそ八時間が経過していたことになる。
夜間で公園が暗かったこともあり、誰にも気づかれなかったのかもしれない。
遺体の周囲には、複数の靴跡が残されていた。
ただし、公園という場所柄、もともと多くの人が出入りしている。
靴跡の数も多く、現時点では、それらが誰のものなのかを特定するのは難しい。
さらに、遺体のそばからは、薬が入っていたと思われるタブレットケースが見つかっている。
指紋は浩太君のもののみ検出された。
そして、もう一つ。
地面に残されていた、謎の数式。
【50+50+20+3】
計算すれば、答えは123。
その数字は、浩太君の親友である鈴木一二三君の名前と一致する。
一二三君と浩太君は、小学二年生の頃からの親友だった。
そして、もう一人。
現場に駆けつけた田中花子さん。
彼女は浩太君の幼馴染であり、一二三君とは中学三年生の頃から互いに好意を寄せ合っていたという。
浩太君も、そのことには何となく気づいていたらしい。
その関係が、今回の死と何か関係しているのだろうか。
だが、今の段階では、何も断定できない。
そもそも、あの数式は本当に一二三君を指しているのか。
単なる偶然という可能性もある。
それに、浩太君が服用したと考えられる薬についても、まだ分かっていないことが多い。
いったい、何の薬だったのか。
どこで、誰から手に入れたのか。
そして、なぜ死の直前に、親友の名前と一致する数式を書き残したのか。
自殺なのか、それとも――。
「亀山さん、そろそろ撤収しますよ」
鑑識の担当者の声が聞こえた。
周囲では、現場に残っていた警察官たちも、次々と引き上げる準備を始めている。
浩太君の遺体は、すでに司法解剖のため警察署へ搬送されていた。
「おう、分かった」
私は最後にもう一度、公園を見渡した。
そしてあの数式が書いてあった地面を見た。
123――。
その数字が意味するものは何なのか。
答えが分かるのは、もう少し先のことになりそうだな。
私は現場を後にした。




