第七話
サンクタム連邦 禁区:ロスト・セクター
ロスト・セクター
サンクタムの中で、唯一何人たりとも立ち入りを禁止している区域。
600年前の怪物大量発生事件。
魂災戦争
それの主な戦場となった場所だ。
この場所では、未だに怪物が生まれてきている。
と言われている場所。
「ロスト・セクター…」
思わず呟いた。
歴史の教科書や伝承でしか聞いたことがなかった。
周囲を見回す。
建物の残骸が散らばっている。
草木が歪な形で生えている。
空間そのものが、微かに揺れているような気がした。
首都にいた時とは、空気が全然違う。
重い。
息をするたびに、何かが纏わりつくような感覚がある。
「600年前の魂災戦争を知っているかな」
「まぁ、学術院の生徒ならば知らないわけがないよね」
デミラスが歩きながら、静かに話し始めた。
「原因不明の事件によって、世界中で大量の怪物が生み出された」
「その戦争の残滓が、今もここに残っている」
「空間異常が発生しており、一般市民の立ち入りは禁止されている」
「普通の人間が足を踏み入れれば、魂に異常をきたす可能性がある」
「本来であれば、各国の禁区は政府が管轄することになっているのだが…」
「サンクタムでは魂守りに一任されているのだよ」
「だから、魂絆選定の会場として使っているのだよ」
「危ない地域だってわかっているのに、なぜここを使い続けるのですか」
金髪の女子生徒が口を開いた。
冷静な声だったが、目が微かに警戒を示していた。
「いい質問だね」
「理由は二つある」
デミラスは立ち止まった。
四人を順番に見回した。
「一つ目は、君たちの魂がここでどう反応するかを見たかった」
「不安定な環境に置かれた時こそ、その人間の本質が見えてくる」
「二つ目は」
デミラスは少し間を置いた。
「ここが、人間が一番境地に陥りやすい場所」
「だからだよ」
ラヴェンツァが眉をわずかに動かした。
「そのような反応をするのも無理はないさ」
デミラスが歩き出した。
「性格が悪いのも、自覚はしている」
廃墟の合間を抜けると、開けた場所に出た。
そこに、古びた石造りの装置が四つ並んでいた。
それぞれ違う方向を向いている。
体内の魂が反応して、微かに力が増幅されているようだ。
「これが転送装置だ」
「それぞれ、禁区のランダムな場所へと転送されるようになっている」
「魂絆選定の詳細なルールを説明しよう」
デミラスが四人の前に立った。
「ルールや選定方法は至極単純だ」
「禁区の中で、最初に出会った者が君たちのコンビになる」
「終了条件は一つ」
「二人で禁区から脱出すること」
「それだけだ」
「怪物は出ますか」
ラヴェンツァが続けた。
「間違いなく出るだろうな」
デミラスは静かに答えた。
「しかし、それも試練の一つだと思いなさい」
「君たちなら問題ないだろう」
誰も何も言わなかった。
「質問は?」
しばらく沈黙が続いた。
アリスが口を開いた。
「時間制限は?」
「ない」
「ただし」
デミラスは少し笑った。
「いつまでも禁区の中にいるのは、あまり体に良くないね」
「他に質問がなければ、始めよう」
四人は黙って、それぞれの装置に向かった。
一番左の装置の前に立った。
光が強くなる。
魂が激しく反応した。
この装置、ただの転送装置じゃない気がした。
隣でラヴェンツァが装置に乗るのが見えた。
目が合った。
彼女は何も言わなかった。
「健闘を祈る」
「期待しているよ」
デミラスの声が、遠くなった。
光が、全てを塗り潰した。
目を開けると、一瞬の間に転移していた。
一人だった。
周囲は廃墟のようだ。
しかし、壁が黒に近い紫色になっている。
先ほどいた禁区の場所よりも、空間の歪みが強い。
建物の残骸が積み重なっていて、視界が狭い。
まるで霧のようだ。
空は木々が邪魔で見えない。
「…どこだ、ここ」
魂が激しく反応すると共に、鼓動が激しく脈を打つ。
場所はよくわからない。
だが、空間異常が特に強いことはわかる。
手袋を外した。
念のため、いつでも魂の武器を出せるようにしておく。
方向がわからない。
どっちに進めばいいのかもわからない。
しかし、進まなければなにも始まらない。
とりあえず歩き出した。
廃墟の合間を縫うように、慎重に進む。
しかし、違和感を感じるほどに静かだった。
音がない。
風の音も、虫の声も、何もない。
ただ、空間が微かに揺れている音だけが、耳の奥に響いていた。
「…誰かいるか」
声が、廃墟に吸い込まれた。
返事はなかった。
しばらく歩き続けた。
廃墟のような建造物を三つ越えた。
内部も探索したが、特に何もない。
ふと、足が止まる。
木々の間に、違和感を感じた。
明らかな違和感を感じている。
何かが、近くにいる。
直感的にそう思う。
息を殺し、忍足で進む。
周囲を見回す。
廃墟の影が、動いた。
一つ。
二つ。
三つ。
「…多いな」
思わず呟いた。
姿が見えた。
通常の怪物のようだ。
三体。
それぞれが、こちらに向かって歩いてくる。
「これくらいなら…」
両手に剣を顕現させる。
赤いオーラが、廃墟を染めた。
三体が一斉に動いた。
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