第六話 入学
それからの一週間はあっという間だった。
「行ってきます」
「頑張れよ」
サンクタム連邦 首都:セントラル・サンクタム サンクタム学術院
入学式は、学術院の大ホールで行われた。
天井が高い。
壁に沿って窓が並んでいて、朝の光が斜めに差し込んでいる。
自分と同じような新入生が整列している。
全員が制服を着ていた。
着ているものは同じのはずなのに少し、浮いている気がした。
キョロキョロ。
思わず周囲を見回してしまう。
田舎者の癖が抜けていない。
「前を向きなさい」
隣から、静かな声がした。
振り返ると、灰色のロングヘアの女子が立っていた。
背が高い。
姿勢がいい。
制服とは違い綺麗なドレスを着ているのに、なぜかここに馴染んでいた。
どこかの令嬢。
そんな雰囲気を感じた。
こちらを見る目が、鋭かった。
「…すいません」
「整列中はきちんとしていてください」
「はい」
前を向いた。
なんだか怒られた。
式が始まった。
デミラスが壇上に立って、話し始めた。
いつもの穏やかな口調だった。
しかし俺の意識は、隣の女子に向いていた。
あの目。
値踏みするような、しかし感情を乗せない目。
どこか癪に障るような人だ。
式が終わって、列が解散した。
隣の女子が歩き出そうとした瞬間、思わず声をかけた。
「あの」
女子が振り返った。
「さっきは、すいませんでした」
「別に謝らなくていい」
「ただ、式典中くらいはきちんとしなさいということです」
「…はい」
「あなた…」
「もしかして、学長推薦の飛び級の子?」
唐突だった。
「…よく知ってますね」
「首都では話題になっていたから」
「どうりでマナーがなっていないわけね…」
「…すいません」
ぐうの音も出ない。
「名前、聞いてもいいですか」
女子が足を止めた。
少し間があった。
「ラヴェンツァ・ヴェイル」
振り返らずに答えた。
「あなたは」
「キース・ラヴェントです」
「そう」
それだけ言って、今度こそ歩き出した。
俺はその背中を見送った。
灰色の髪が、朝の光の中で揺れていた。
一癖も二癖もある人。
しかし、悪い人ではなさそうだ。
「キース君」
廊下を歩いていると、後ろから話しかけられた。
そこにいたのはデミラスだった。
「どうだい?入学したと言う実感はあるかい?」
「正直、実感って言われるとまだまだです…」
「そうか」
「って、そんなことは一旦どうでもいいんだよ」
「少し時間あるかい?」
「問題ないですが…」
「少し、用事があってね…」
言われるがまま連れられて、中庭の一角に移動した。
木陰にベンチが並んでいる、静かな場所だった。
周りは各棟に囲まれており、その窓から生徒たちがこちらを見てきている。
少し居心地が悪い。
気づけば、自分以外に三人がいた。
さっきのラヴェンツァ。
金髪のショートヘアの女子。
黒髪のウルフカットの、やけに背の高い男。
誰も口を開かなかった。
「さっきぶりね」
ラヴェンツァが話しかけてきた。
「はぁ…」
困惑が抜けない。
「これ、なんの集まりですか…?」
「何にも知らないのね…」
「全く、呆れるわ」
「学長はなんでこんなのを…」
「はぁ…まぁいいわ」
「今から始まるのは、学長が独断と偏見で特に優秀と判断された生徒を選び、その者たちによって行われる伝統行事」
「魂絆選定よ」
「ラヴェンツァ君、丁寧な説明をどうもありがとう」
デミラスが続ける。
「まずは、集まってくれてありがとう」
「皆、知っての通り」
「魂守りは原則として、二人一組で行動することが義務付けられている」
「もちろん、魂守りを育成する学術院でも例外ではない」
「そして、新入生の初のコンビ誕生を、学術院の伝統行事として魂絆選定と呼んでいるのだよ」
「しかし、魂絆選定の選定方法は完全に秘匿情報として扱われている」
「君たちは、情報を漏らさないと、誓えるかね?」
数秒間の沈黙が続く。
「はい」
ラヴェンツァが最初に言った。
それに連なるように、自分含め三人が承諾した。
「いい子たちだ」
「では、場所を変えよう」
「これを」
デミラスから簡易の転移装置が手渡される。
他の三人にも渡された。
「これは?」
簡易転移装置、だと言うことはわかる。
だが、行き先が言われていない。
「行けばわかるさ」
なんとも適当な。
デミラスが手元にある装置のボタンを押す。
すると、ホログラムのようにその場にいた人が消えていく。
自分も例外ではない。
目を開けると、見たことない場所にいた。
「ここって、まさか…!」
ラヴェンツァが最初に話し出した。
驚嘆したように、口を手で覆っている。
「どうやら、ラヴェンツァ君は知っているようだね」
「知っているもなにも…!」
「まずは、説明を」
「ラヴェンツァ君のように、知っている人も、来たことがあると言う人もいるかもしれない」
デミラスが周囲を歩きながら、説明を始めた。
「ここは、サンクタム禁区」
「ロスト・セクターだ」
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