2-1-19 近と遠
右から風が当たる。
それはアリーナ特有の生み出されたものではない。
「——来る!」
ラヴェンツァだけに聞こえるぐらいの小声で呟いた。
シュン。
空気を斬る音が聞こえると同時に、右側に刀を振り下ろす。
視線の先には光る何かが近づいてきていた。
カキンと軽快な金属音と共に、飛んできていた物質が空中で真っ二つに割れた。
当たった衝撃が腕に伝わり、指先が痺れる。
その物質が地面に落ちると、魂の残滓だけ残して消えていった。
刀にも同様の残滓が残っている。
「今のは……?」
少なくとも矢ではないことはわかった。
パイルバンカーやパチンコなどの飛び道具でもない。
「おそらく銃弾ね」
ラヴェンツァが地面の残滓を見てそう言った。
確かに、爆薬のような匂いがかすかに漂っている。
ラヴェンツァは地面の残滓を手に載せた。
その間も周囲の警戒を解くことはない。
「しかも現代で使われてる、先端が尖っている形状のものではないわ」
「丸い形状の物、いわゆる鉛玉が射出されてる」
彼女は両手を二回ほど打ち合わせて、残滓を叩き落とした。
「つまり、弓と銃の魂の武器ってことだよね」
「そうなるわね」
試合前に聞いた通り、どちらも遠距離に特化しているようだ。
しかも相手の場所がまだわかっていない。
なのにこちらの位置は視認されている状態。
グッと奥歯で食いしばった。
待っていたらジリ貧でやられる。
近づこうとしても軌道上に弾幕を張られて一筋縄ではいかない。
だが、
「どうするか……」
ぼそっと独り言が漏れた。
そう考えていると、茂みがゴソゴソと音を立てた。
マスケット銃の先端が出ている。
咄嗟に視線と二刀を向けた。
「遠距離でチマチマ戦うのは好きじゃないんでね」
そう言いながら、リシアが帽子に葉っぱを乗せながら出てきた。
そのすぐ横にフィリアもいる。
わざわざ姿を出すとは思っておらず、目を見開いてしまう。
それを見たリシアが少し吹き出した。
「最初に言ったろ?勝敗すら関係ないって」
「戦いをしにきてるんだよ、俺らは」
その言葉は低く響いた。
どこか狂気を孕んでいる。
フィリアはクロスボウを構えたまま言葉を発さない。
だが、リシアと同じような闘志が目の奥に燃えている。
「——殺ろうよ」
リシアがそう発した。
その瞬間に、リシアがトリガーに指をかけた。
同時にフィリアが後方に下がる。
バシュッ。
大きな音が響き渡ると同時に、銃口から鉛玉が発射された。
それが足元を狙って撃たれる。
咄嗟に横へステップをして、なんとか回避した。
しかし、そっちに注意が割かれると、一瞬で目の前から消えた。
間髪入れずに、左の木陰からバレル部分を持った状態で近づいてくる。
ストック部分で近接戦を仕掛けるつもりだろう。
ステップで一気に距離を詰めてきた。
それにラヴェンツァも気づいている。
ガキン。
顔面を狙って繰り出された攻撃を二刀で受け止める。
小さな鈍器とは思えない力が乗りかかった。
しかし、リシアは今回避することができない。
それを逃すまいと、ラヴェンツァがメイスをリシアの背中に叩きつけようと構える。
メイスが目掛けて振り下ろされた。
だが、リシアがさっきの反動を使って手の中でマスケット銃を回転させる。
吸い込まれるようにトリガー部分へ手がかかった。
バシュッ。
至近距離でラヴェンツァに向けて撃ち込まれた。
ラヴェンツァは途中で攻撃をやめており、鉛玉をメイスで受け止めた。
その銃撃の反動を使って、リシアはバックステップをした。
しかし息する間も無く、またバレル部分を持って近づいてくる。
次は横から矢が複数本飛んできている。
先に到達するのはおそらく矢だ。
一本目は足元を狙って撃たれている。
刀で斬ろうとするが、リシアとの反動で手がうまく動かない。
サーベルでも斬ろうとするが、もう間に合わない。
『まずい……!』
すると、ラヴェンツァがスライディングで足元に飛び込んできた。
足元を狙って撃たれた矢はメイスによって防がれる。
感謝を言っている場合ではなく、二本目が飛んできている。
同時にリシアも目の前に迫ってきている。
フィリアの弾幕を気にしていたら、リシアからの攻撃をあっさりと喰らってしまうだろう。
さっきの銃の回転を見せられたせいで、近接か銃弾か直前までわからない。
あれがまぐれだと言えばそれまでだが、それにしては動きが綺麗に整えられていた。
矢はまだ直前で回避や斬ることができるが、銃弾はそうはいかない。
矢は完全に割り切り、ラヴェンツァに任せることにした。




