2-1-18 開戦
アリーナに入ると、一試合目の時と同じような歓声が響き渡る。
この歓声を浴びるのだけは一生慣れない気がする。
両コンビの説明が終わり、中央まで歩いていく。
その間も相変わらず拍手喝采が降り注いでいた。
リシアが早速、手を差し出してきた。
握手を求めているようだ。
その手をしっかりと握りしめる。
隣でもラヴェンツァとフィリアが握手を交わしていた。
「こんなに早く戦えるなんて、夢にも思わなかった」
リシアは二人の間にしか聞こえない声量でそう言った。
こちらの顔を様子を伺うように覗き込んでくる。
「こっちのセリフだって」
そう言いながらさらに手に力を込めた。
それに気づいたのか、リシアの握る力も強くなる。
握手が終わる気配はない。
「確かに俺は君らの試合を見て、すげぇなって思った」
「でも、それは負けるって意味じゃない」
リシアがそのまま続ける。
「なんなら勝敗すら関係ない」
目を閉じながら首を横に振っていた。
そして、目元が髪と帽子に隠れて暗くなる。
こちらから見えるのは、口角が上がった口元だけだった。
また握る力が強くなった。
力比べのようになってきている。
「全力で、戦いを楽しもうぜ」
帽子の隙間から不敵な笑みが溢れている。
さっきまでの口元からさらに上がり、ギラリと白い歯が見える。
相手のテンションに釣られるように、鼓動が速くなっていく。
「もちろん」
『さて、両者揃いました!』
『そろそろ開戦と行きましょう!』
スピーカーからそう聞こえ、元の場所へと戻った。
すると、フィールドが徐々に変わっていった。
前回とは違い、沼地のような場所だ。
木々もところどころあり、高低差はあまりない。
「まずいわね……」
隣にいるラヴェンツァが、周りを見渡して言葉を溢した。
「なんで?普通のフィールドに見えるけど」
そう聞くと、一人で考える姿勢からこちらの視線を向けた。
「これは——」
何かを言おうとしてたが、もう試合が始まってしまう。
「転移したら説明するわ」
『勝つのは『サンクタムの栄光の初学者』か『ヴェルダントの狙撃の獣人か……』
『準決勝Cブロック、二回戦開幕です!!!』
そうアナウンスされると、視界が白くなっていく。
目を開けると、そこは森の中だった。
足元はぬかるんでいて、長時間の移動は厳しそうだ。
「んで、さっきの話ってどういうこと?」
隣にいるであろうラヴェンツァに聞いた。
彼女は周りを観察しながら話し始めた。
「元来、相手の種族であるルーファーって水辺に住んでいるのよね」
「学術院に合格してるってことは、昔と同じように生活してる可能性は低いのだけれど……」
彼女が手に顎を乗せ、考え込みながら話し続けた。
「そもそも水とゆかりのある国だから、水辺での戦闘はこちらが不利になってしまう」
「なんならこのフィールドは、彼女たちの国であるエーテリアスを準拠に作られているわ」
彼女の説明通りだと、相手に有利な状況ということだろうか。
確かに水辺での戦闘なんて数えるほどしかない。
「つまり、このフィールドで戦うだけで不利ってこと?」
「大体合ってるわ」
彼女がそう答えた。
でも、まだ何かあるようだ。
「それだけじゃないわ」
「私たちは相手の魂の武器を知らないわ。相手は試合を実際に見ているはずだから、こちらがどんな魂の武器を持っているのかを知っている状態なのよ」
そう言われると確かにかなり不利だ。
しかも、相手はおそらく遠距離主体の攻撃を仕掛けてくるはず。
それに比べ、こっちは基本的に近距離しか攻撃手段がない。
試合が長引けば長引くほど不利になっていく。
「じゃあ速攻か?」
彼女にそう聞いたが、また考え込むような仕草をした。
だが数秒で答えた。
「そうね、じゃあ——」
彼女が何かを言おうとした瞬間、矢が顔を掠めていく。
反応する間もないほどの一瞬。
矢はそのまま木に刺さった。
頬にはかすり傷ができる。
矢は魂の残滓だけを残して消えていった。
「話し合ってる場合じゃないね……」
そう言って二刀を顕現させた。
彼女もすぐにメイスを顕現させる。
互いに背中を預ける形になった。
「軌道って見えたかしら?」
何も見えなかった。
その場所に突然現れたとしか思えない。
「なにもわからなかった」
「……まぁ仕方ないわ、私だって見てなかったもの」
正面を見ながら彼女はそう言った。
「いずれにせよ、相手からはすでに視認されてる状態よ」
「警戒は解かずに移動しましょう」
小声でそれに了承した。
ラヴェンツァが前に進む。
彼女が前に進むと同時に、後ろ足で進んでいく。
時間をかけて少しずつ進んでいく。
「待って、止まって」
彼女がそう言い、ピタッと止まった。
同時に動きを止める。
「来る——」
彼女が低い声でそう言った。
後ろから正面に体の向きを変える。
前を見ながら、じっと森の奥を見る。
一秒も経っていない時間が、数分に引き伸ばされているように感じた。
その感覚の鋭さが、微弱な空気の震えを捉えた。




