2-1-4 入場
アリーナに足を踏み入れると、会場の歓声が聞こえる。
『さぁ、次の対戦、ホーム側はこちらのコンビ!』
解説らしき声が会場全体に響く。
それと同時に、歓声がもっと大きくなる。
『サンクタムの伝統行事、魂絆選定に選ばれた異例の一年生コンビ!』
『サンクタム生活圏ユニオンの党首の令嬢、ラヴェンツァ・ヴェイル!!!』
『まさかの学長が直々に推薦した飛び級天才児、キース・ラヴェント!!!』
会場の視線が集中する。
拍手が会場を支配している。
胸踊ってはいるが、どこか気恥ずかしさも感じる。
「すごいね、これ」
視線はそのまま前を向いているが、思わずラヴェンツァに共感を求めてしまった。
「それぐらい大切な大会なのよ、これは」
そう一瞥された。
この状況を見たことがあるなら、当然なのかもしれない。
『対するアウェイ側はこちらのコンビ!』
相手コンビの説明が始まった。
また歓声が広がる。
『グレイブボーン領、ベインフィールド学術院から、巨体の2年生コンビ!』
『学生の身でありながらも、怪物討伐の最前線に出ている筋肉男、ディアス・ラルゲイヌ!!!』
『由緒正しきアイアン家の現党首に若くしてなった戦略家、ノッチ・アイアン!!!』
また拍手が会場を支配する。
『さて、両者揃いました!』
『アリーナ中央までお越しください!』
中央まで続く道を辿っていく。
周りには魔晶で作られたカメラが何個も浮かんでいる。
歩いている最中、地面にわずかな振動を感じた。
これが観客による振動なのか、機械の振動なのかは分からなかった。
「ふん——」
正面に立つ筋骨隆々の男。
ディアス・ラルゲイヌ。
彼がこちらを見下すように見下ろしてくる。
「サンクタム学術院学長のお気に入りがどんな奴なのかと思ったんだが……」
「なんだか拍子抜けって感じだなぁ!」
ケラケラと会場内に響き渡るくらいの声量で笑い声を響かせた。
その煽りとも言える言葉に、会場全体から歓声が上がる。
「あまり煽るんじゃない、ディアス」
ディアスの隣に立つ、細身ながらも身長が高い男。
ノッチ・アイアン。
彼がディアスに諭すように言った。
感情の起伏を感じさせない、冷酷を感じさせる平坦な声だった。
「へいへい、相変わらず真面目だねぇ〜」
ディアスが思わず肩をすくめた。
「どちらにせよ勝つのはこちらだ、無駄な労力を使うのは無駄だろう?」
ノッチのその言葉には、迷いも気負いも存在しなかった。
ただ淡々と、事実のみを述べているような響きがあった。
「へ、そう来なくっちゃな」
ディアスが笑顔を取り戻し、鋭い眼光をこちらに飛ばしてくる。
隣にいるラヴェンツァが、耳打ちをしてきた。
「煽りに乗っちゃダメよ」
「言われなくてもわかってる」
そう即答した。
だが、それとは裏腹に手のひらには汗が広がり始めていた。
『さて、両者揃いました!』
『そろそろ開戦といきましょう!』
スピーカーからその声が聞こえると、地面が揺れ始めた。
思わず身構える。
地面のあちこちに走った亀裂から、まず土埃が舞い上がった。
次に、コンクリートの隙間が割れる。
そこから、太い木の根のようなものが這い出してくる。
それは瞬く間に幹となり、枝を広げ、緑を茂らせていった。
同時に、離れた場所では地面そのものが盛り上がる。
石造りの壁や崩れかけた柱のようなものが次々と姿を現している。
まるで、埋もれていた廃墟が地中から掘り起こされるかのようだった。
魔晶の光が、生成されたばかりの構造物の隙間からちらちらと漏れている。
この一帯の地形そのものが、フェスティバルのために作られた仕掛けなのだと、改めて実感させられる。
数秒も経たないうちに、目の前には見知らぬ遺跡群が広がっていた。
岩場、崩れた柱、生い茂った木々。
足場は一様ではなく、視界を遮る障害物もいくつも存在する。
隣で、ラヴェンツァが素早く周囲を見渡しているのがわかった。
このフィールドなら、正面からの力比べは避けられるだろうと言う安心感がグッと緊張感を緩和させる。
頭の中で、無意識にそんな計算が働いていた。
二人を真正面から受け止めるより、この地形を活かして立ち回る方が分があるだろう。
そう考える一方で、あの巨体がこの障害物をものともせず薙ぎ払ってくる可能性も、拭いきれなかった。
緊張感が緩和されるが、それでも心臓が痛いくらいに脈打っている。
それでも、足は震えていない。
むしろ、楽しみという感覚も混在している。
『勝つのは『サンクタムの栄光の初学者』か『ベインフィールドの巨体の要塞』か……』
『予選Cブロック、一回戦開幕です!!!』
そう言われると同時に、腕の簡易ワープ装置が反応した。




