第三十一話 背水の陣
二人は同時に草むらへと姿を現す。
目の前には二人が静寂ながらも、異彩を放ちつつ立っていた。
彼女たちの魂の形が周辺に荘厳な空気を与えている。
「やっと出てきたね」
シャオの問いかけにルカが小さく頷く。
彼女らの表情は、どこか狂気を孕んでいるようだった。
「作戦会議は終わったのかな?」
シャオが煽り気味に嘲笑を飛ばしてくる。
「ええ。おかげさまで」
ラヴェンツァが軽く返す。
四人の間に、一瞬だけ沈黙が落ちた。
風が木の葉を揺らす音だけが聞こえた。
体の奥からは心臓の脈動が鼓膜を揺らし、首筋から汗が滴る。
手元が少し揺れる。
「そう…」
シャオが小さく口元を動かす。
「じゃあ、本気で行くよ」
彼女の言葉と同時に、空気が蠢く。
ボンッ。
小さな爆発音がした。
おそらく戦闘用の小道具だろう。
咄嗟に目を閉じた。
その瞬間、目の前にいた二人は突如として姿を消した。
「…キース」
ラヴェンツァが耳打ちをしてきた。
ぴとっ。
ラヴェンツァが背中を合わせてきた。
「互いに背中を預けましょう…」
「…了解」
静かに答えた。
これで死角が消えた。
後方からの攻撃はラヴェンツァが守ってくれる。
もし何かあっても、声をかけてくれるはず。
前方にだけ集中すればいい。
数秒が無限と思えるほど、ゆっくりと流れた。
その時だった。
右の木陰が一瞬動いた。
おそらくシャオだ。
気配を消したまま、真横からの奇襲を狙って来ている。
ガサガサ。
「右!」
反射的に叫んだ。
二刀を右に向けた。
同時に、背後でラヴェンツァが動いた。
予想通り、シャオがこちらに向かってきた。
獲物を刈り取るような野生味のある視線を感じる。
右、左、また右。
その間、約0.5秒。
ステップを絡めつつも、確実にこちらへと来ている。
『どうする……?』
しかし、悠長に考えている暇はないようだ。
彼女は思考の隙を逃すことなく一歩踏み込む。
そして、手に仕込んでいた砂を投げて視界を塞いできた。
「なっ…!」
咄嗟の出来事に呆気とられ、あとステップ一歩分まで近づかれる。
この距離では、一つの動きが負けに直結する。
『これしかない…!』
この時、この戦闘で初めて自分から仕掛けた。
右腕で砂埃を切り裂き、一歩踏み込む。
すぐ右に、シャオがいるのが見える。
そのままスピードを乗せ、もう一歩踏み込み左腕で空間を切り裂く。
その一撃は惜しくも空気を掠めた。
しかし、シャオの後方には木がある。
回避はできないだろう。
『このまま…!』
両腕に力を全身全霊で乗せ、木ごと切り裂いた。
しかし、血肉を切り裂くような生々しい感覚は感じない。
ガンッ。
「っ…!」
目の前には、シャオが魂の武器で両刀を受け止めていた。
シャオに手の甲には両刀が少し沈み込んでおり、刀身に血が滲んでいる。
しかし、不自然な笑みを浮かべている。
「いいね…飛び級君…」
「楽しくなってきた…」
背後では金属同士が擦れ合う音が聞こえた。
ラヴェンツァが対処しているようだ。
シャオはその状態から上空に飛び上がり、再び姿を消した。
ーーーー
背中を合わせると提案したはいいが、不安は残る。
こちらの連携はまだまだ未熟。
対して、彼女らの動きは噛み合っている。
しかし、何も陣形を組まないよりかはマシだろう。
キースの背中が、静かに体温を伝えてくる。
「信じなさい」
自分に言い聞かせる。
彼ならきっと大丈夫なはず。
数秒が、ゆっくりと流れた。
背後でキースが叫んだ。
「右!」
同時に、左からルカが来た。
キースの叫びと同時に読んでいた。
同じ方向から来るはずがない、と。
メイスを左に向け、空を切るように右上へ振り払う。
カキン。
ダガーは地面へ落ちた。
金属音が森に響いた。
ルカが舌打ちをした。
低い音だった。
「前回と同じ手は通じないわよ」
静かに言った。
ルカが森へと姿を消した。
気配がない。
「どこ…」
背後でキースとシャオが激突する音が聞こえた。
重い衝撃音だった。
キースは対処している。
前を向け。
自分の戦いに集中しなさい。
すると、ダガーが飛んできていた。
目視で確認できる限り、上と左から。
先に到着しそうなのは上からだ。
まずは上からのダガーから。
メイスの打撃部分をダガーに当てて対処する。
次は左からのダガー。
メイスを移動させていると確実に間に合わない。
回避行動をすると、キースと離れることになる。
それだけは避けなければならない。
しかし、考えている暇はない。
刻一刻とダガーは近づいてきている。
一か八か。
ダガーの軌道を注意深く見守る。
空気抵抗。
加わっている力。
今だ。
左手をメイスから離し、ダガーの持ち手の部分を目掛けて手を向ける。
目視を見誤ったら怪我どころでは済まない。
一瞬だった。
左手を見ると、手の中にはダガーが握られていた。
それをどうするか考えることもなく、ルカへと投げ返す。
「…っ!」
彼女は声にならない驚嘆を口に出していた。
ルカの顔には傷ができていた。
キースの現状は確認できないが、こちらは確実に押せている。
今しかない。
ダガーは二本未満のはず。
次が来るまでの間がある。
咄嗟に踏み込んだ。
ルカが左後ろへと後退した。
しかし、そのステップを読む。
「今度こそ…!」
しかし、予期せぬ事態が襲う。
木々が一斉に揺れる。
その拍子に落ちてきた、大量の木の葉が視界を覆う。
動きが制御され、攻撃ができない。
「またお預け、ね」
一度体制を立て直すために後退をする。
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