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【第一章】エンド・オブ・クロニクル 〜神話の世界に紡がれる、少年少女の叙事詩〜  作者: 百瀬 三月


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第三十話 作戦会議

「くっ…!」

シャオの攻撃が草むらから飛んでくる。


ギリギリで視線を向け、両刀で受け止める。

「っ…重い」

力を絞りだし、その拳を弾き返す。

それと同時に、地面に倒れ込む。


しかし、相手は待ってくれないようだ。

勢いを落とすことなく、こちらに向かってきている。

『まずい…!』

彼女はあっという間に目と鼻の先まで近づいてくる。

残っている力を使い、肘で地面に衝撃を与える。

「ふっ!」

その返ってくる反動で起き上がる。

起き上がった反動で足が浮き、その足で拳を蹴り上げる。


カンッ。

金属同士の軽快な音が響き、かろうじて攻撃を凌ぐことができた。

しかし、もう腕に力はほとんど入らない。


再び、絶妙な距離感での睨み合いだ。


戦況としては、かなり劣勢だ。

体力の消耗が激しすぎる。

汗が滴り、手には血が滲んでいる。

致命傷はかろうじて受けていないが、それでも軽微な傷が身体中にできている。

彼女の奇襲を何度も躱し続け、体力の底が見え始めていた。

魂の形(ソウルレムナント)も、さっきより揺れている。


「飛び級君、だいぶしんどそうだね」

シャオが笑った。

互いに戦闘が長期化しているはずなのに、ずいぶんと余裕がありそうな不敵な笑み。

先ほどから気がついていたが、こちらが消耗するほど、シャオの笑顔は深くなっていっている。

まるで狂気そのもの。

こうして会話に脳のリソースを取られるのも徐々に効いてきている。


「まだ…です」

「そう?」

「私にはそう見えないけどね」

その言葉を残し、再びシャオが消える。

相手の姿が見えない状況がイラつきを加速させる。

まただ。

「どこ…」

改めて周囲に意識を向ける。

だが、魂の形(ソウルレムナント)が見えない。


右か。

左か。

後ろか。


様々な方向に視線を向けていたが、彼女が来た方向は完全に意識外だった。

木々に囲まれている森という地の利を生かし、上から仕掛けてきた。

「なっ…!」

咄嗟に両刀を向けて受け止める。

着地の衝撃と素の力が合わさり、どんどん押し込まれていく。

足が震え、腕が悲鳴を上げる。


目の前には、狂気の笑みをこちらに向ける彼女の顔が迫っている。

「地の利を使う」

「戦闘において鉄則だよ?」

そんなこちらの状況は関係ないと言わんばかりに、また話しかけてくる。


「好きですね…その惑わし方」


その時だった。

茂みを掻き分ける音が、遠くから聞こえる。

どうやら敵ではないらしい。

別の気配。

馴染みのある足音だ。

とても速い。


奥の木々の間から、白いドレスが見えた。

「遅くなったわ」

ラヴェンツァだった。

ドレスの裾がところどころ切れており、顔には土と血が混じっていた。

息を切らしながらも、メイスをシャオの脇腹へと的確に攻撃していた。

彼女は咄嗟に回避し、鍔迫り合いの状況から解放される。

そのまま気配を消し、森の奥へと姿を消した。


「ラヴェンツァ…!」

「無事だったんだね」


「当たり前よ」

ドレスについた土を払い落としながらそう言う。

「状況は?」

周りを警戒しながらもこちらに聞いてくる。

「かなり不利寄り…だね」


彼女の能力の知っているところや、おそらくの見解を話した。


魂の武器(ソウルアーマメント)を顕現させながらも、魂の形(ソウルレムナント)を消す…か…」

「厄介ね…」

怪訝そうな顔をする。


「てか、そっちは相手さん倒したの…?」

ラヴェンツァはこちらに応援に来ているのだから、相手コンビの有無で今後の動きが左右される。

「…逃げられた…」

「え?」


「あと少しだったのよ〜…」

ラヴェンツァが頭を抱え、悔しそうに座り込む。

「今度こそは当ててやるのよ…!」

どうやら闘志に燃えているらしい。

彼女のあまり見たことのない人間らしさに、自然と笑みが溢れる。

「何笑ってるのよ」

厳しい目線が飛んでくる。


「まぁいいわ」

「一度作戦会議よ」

そう言って、さらに深いところへと退避した。


ラヴェンツァがルカの知り得た情報を聞いた。

魂の武器(ソウルアーマメント)の複製が能力…?」

にわかには信じがたい。


そして、それを聞いた瞬間に感じた。

『もしかしたら、自分も似た能力なのではないのか』

と。

まだ考察の域を出ない仮説だ。

しかし、妙な親近感が湧いてきた。


「どちらにせよ、両者とも同じような戦闘スタイルってことね」

「自分は身を隠し、相手を錯乱させる」

「その隙を逃さずに、すぐさま刈り取る」

「まるで『対人間特化』と言わんばかりね」

ラヴェンツァが何か考え込む。

だが、初見戦闘時とは違い相手の手の内がすでにほぼ割れている状態。


「勝機はあるんじゃないか?」

「相手が何してくるかはわかっているし、それを予測すれば…」

ラヴェンツァがこちらの発言を遮ってくる。

「それは相手も同じよ」

「しかもあの動き的に、すでに実践経験を豊富に積んでいるはずだわ」

「二度、同じ手で攻めてくるとは考えにくいわ」


「こっちも別の戦術を組むべき、ってことか?」

「そうするのが妥当ね」


「ただ、相手がそう易々と待ってくれるとは思えないわ」

「即興で思いつくかつ、勝機がある算段を組まないといけないわ」


だが、そんな戦術は思いつかない。

一度頭の中で整理をする。


シャオは特殊な拳法を使って魂の形(ソウルレムナント)を消せる。

しかも、単純な力量は互角かそれ以上。

戦闘時に余裕が見えていたことからも推測するに、おそらく本気ではなかったのだろう。


ルカも同様に、特殊な力を持っている。

戦闘したラヴェンツァから聞くに、力量はそこまでではないが彼女の咄嗟の判断力は実に厄介だ。

何本でも武器を持てるという性質上、時間が迫るほどこちらが不利になるのは明白。


しかも、二人に共通する部分がある。

それが『速さ』

単純な移動速度の話ではなく、予備動作や頭の回転。

戦闘中の咄嗟の機転が効きやすいのが特徴なのだろう。


さすが先輩と言ったところだろうか。


ふと隣を見ると、ラヴェンツァが苦悶の表情を浮かべていた。

どうやら彼女も思いついていないらしい。


すると、どこからか足音が聞こえる。

すごく微細な音だ。

枯れ葉を踏む音、地面が軋む音。

しかも、おそらく二人だろう。

ラヴェンツァもどうやら気がついたらしい。

相手が近づいてきていることに。


「…考えるのは一旦終わりらしいわね」

「いい。キース」

ラヴェンツァが真面目な表情でこちらを見てくる。

「相手は二人同時に攻めてくるはずよ」

「だから、こちらも連携しなきゃいけないの」

「わかるわね?」

首を縦に振る。

「私はルカの攻撃を受け止める。キースはシャオの拳を受け止めてちょうだい」


「基本的には受け身の体勢ってことで問題ない?」

「ええ」

「彼女たちも体力は無限じゃないわ」

「どこかで絶対に隙が生まれるはずよ」

「それを二人同時に叩く」


「よし」

呼吸を整える。

手を握る。

「行くわよ」

ラヴェンツァの合図で、草むらから飛び出した。


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