第二十九話 なるほど、ね
以前、文献で読んだことがある。
『魂を使用することによって、魂の武器の複製を行うことができる者がいる』
『だが、複製には形状によって魂の消費量や時間が大きく変わってくる』と。
小さめのダガー。
それが複数個。
全て合点がいった。
「複製ね」
ルカに聞こえるように呟く。
「しかも、小さいから複製にかかる時間も短い」
ルカの目が、わずかに細くなった。
正解、ということだろうか。
「だとすれば」
続きがある。
「複製には間隔がある」
「その隙間が、あなたの弱点ね」
ルカが動いた。
しかし今度は違った。
さっきまでの余裕が、わずかに消えていた。
ダガーが飛んでくる。
正面に二本。
足に一本。
正面をメイスで弾き、足のは跳躍で避ける。
今だ。
おそらく複製したばかり。
ならば、次が来るまでの時間ができるはず。
地面を踏み込み、一気に相手との距離を縮める。
間合いを一気に詰める。
その移動の隙を逃すまいと、ルカがダガーを一本放ってきていた。
苦し紛れ、といったところだろうか。
それも難なくメイスで弾く。
ルカが後退した。
しかし、それでも逃さない。
木々を掻き分け、メイスを連続で振り続ける。
右、左、また右。
木々に当たって木の葉が落ちてきて、視界が遮られる。
しかし、ルカの退路が狭まっていっているのも事実。
だが、ルカは前を向きながら後ろ向きにダガーを一本放ってきた。
「なっ…!」
早すぎる。
時間にして約10秒。
「もう複製できたの…!」
弾きながら後退する。
思ったより間隔が短い。
これでは、こちらが追いつく前に体制を立て直されてしまう。
一度、木に身を隠して仕切り直した。
しかし、時間が経てば経つほど相手が有利になっていく。
息つく暇もない。
一度、先ほどの状況を思い出す。
ダガーが複製された瞬間。
魂の形が大きく揺れていた。
つまり、複製の瞬間が一番の弱点なはず。
あの揺れ具合だったら、この場所からも視認できるはずだ。
数秒間、気配を消して待つ。
数秒なら、そこまで遠くにも行けないだろうと判断してのことだ。
すると、数十メートル先からピンクのモヤが出ている。
「そこね」
そこに至るまでのルートを完璧に抑える。
その地点までかかる秒数。
およそ1.8秒と言ったところだろうか。
『よし…』
一気に木陰から飛び出し、相手へと向かっていく。
視線の先からダガーが三本。
足、メイス、そして頭。
どれも確実に狙ってきている。
まず足のダガーが先に到着する。
これは難なく跳躍で回避する。
だが、問題はメイスを狙っているダガーだ。
頑丈とはいえど、武器同士が接触すると衝撃を受ける。
その衝撃を残すと、次のダガーが避けきれない。
だとすれば、その狙いを逆手に取る。
メイスに当てさせなければいい。
直前で魂の出力を断ち切り、メイスの顕現を一時的に抑圧する。
ダガーが空を切った。
その軌道を見切って、頭を狙うダガーを顔を横方向にずらすことで躱した。
三本全て、避けた。
ルカの目が、大きく見開いた。
初めて、驚いた顔をした。
そのまま勢いを殺すことなく踏み込んだ。
複製したばかりのところを直前に見ている。
次が来るまでの間がある。
その数秒が、全てだ。
メイスを振り上げる。
その動作に反応してルカが回避行動をする。
しかし、メイスは囮だ。
本命は足技。
足で脇腹を蹴り上げる。
だが、それは空を切る。
ギリギリで避けられていたようだ。
「二度も引っかかってくれるなんて、先輩は優しいですわね」
ルカが「ふっ」と風が抜けていくような声を漏らす。
今度は追いかけない。
回避先を予測し、退路だけを潰す。
左、右。
木々の間に追い込んでいく。
ルカの動きが、じわじわと狭まっていく。
あと一歩だった。
その瞬間。
薄いピンクのオーラが、一瞬だけ濃くなった。
複製している。
「させないわ」
メイスを横に薙いだ。
ガンッ。
ルカの腕に当たった。
複製の動作が、強制的に止まった。
「っ…!」
思わず声が出たようだ。
低い、短い声だった。
そのまま追撃した。
メイスを真っ直ぐ振り下ろす。
ルカが咄嗟に後ろに跳んだ。
しかし、木が背後にある。
逃げ場がない。
あと一歩。
その瞬間。
メイスに向かってダガーが飛んでくる。
手元に残っている一本のようだ。
最後の抵抗のようにも思えた。
だが、それは計算し尽くされた攻撃だった。
メイスにダガーが当たることによって、本来ルカに当たるはずだった力がダガーに分散される。
それが原因で勢いが殺され、ルカは間一髪で避ける。
ダガーは破壊され、魂の残滓が視界を覆う。
そのまま視界不良で、ルカを見失ってしまった。
目の前にいたはずのルカと薄いピンクのオーラが、全て消えた。
ルカの姿が、霧のように消えていた。
木々の奥に、気配だけが残った。
「…逃げられた…の?」
目の前で起きたことが信じられなかった。
メイスの顕現を解除する。
「さすが…だわ…」
息を整えながら、周囲を見回した。
気配はもうない。
完全に消えていた。
手のひらに、じわりと熱が残っていた。
追い詰めた。
あと一歩だった。
「次は、当てる」
静かに言った。
誰にも聞こえない声だった。
森の奥から、金属音が響いた。
キースの戦闘音だ。
まだ戦闘しているようだ。
「次はこっちね」
走り出した。
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