第二十八話 秘密を解いて見せる
右側の森に入った。
木々が密集していて、視界が狭い。
葉の間から差し込む光が、まだらに地面を照らしていた。
空間は訓練場のはずなのに、どこかから風を感じる。
メイスを構え直す。
紫のオーラが、静かに滲み出た。
「…どこにいるの」
呟いた声が、木々に吸い込まれた。
ざざっ。
左側から草木を切る音が聞こえてきた。
そっちに目線をやる。
その時だった。
右の木陰から、影が動いた。
「なっ…!」
音が聞こえた方とは逆から飛び出してきた。
わずかに反応が遅れる。
間一髪でダガーを避ける。
だが、予期せぬ事態が起きる。
二本目のダガーが頬を掠めた。
とてつもない速度だ。
しかし、速度よりも重要なことがある。
「二本目…?」
キースと同じタイプなのだろうか。
しかし、目の前に立っていたルカはダガーを一本しか持っていなかった。
「…あなた、二本目はどうしたの?」
ラヴェンツァはそう聞くが、ルカは不敵に微笑む。
その微笑みから出た八重歯に光が反射して、目を照らす。
もう一度彼女を見ると、ダガーが四本に増えていた。
「一体…?」
疑問が疑問を呼び、ルカの手元を凝視する。
しかし、ルカはそんな油断を許さなかった。
すかさず急接近し、懐に入り込んできた。
距離がない。
メイスは近距離では使いにくい。
「くっ…!」
咄嗟に柄で受け止めた。
ガンッ。
受け止めたつもりだったが、予想よりも重い衝撃が腕に伝わった。
思ったより力がある。
だが、武器の差で押し返した。
ルカが数歩下がった。
その瞬間、また手元が見えた。
いや。
おそらく敢えて見せているのだろう。
こちらに思考のリソースを使わせるために。
ダガーがまた増えている。
今度は六本。
「魂の武器で、複数の刃を…?」
通常、魂の武器は一種類のはず。
しかしルカは次々と刃を増やしている。
戦闘用の小道具のようにも見えるが、ダガーが出ている間は彼女の薄いピンク色の魂の形が出ている。
あれは間違いなく彼女の能力なのだろう。
相手の能力がわからないと話にならない。
戦闘の土俵にすら上がれないだろう。
そう考え、凝視しながら観察をする。
だが、そんな思考を回している暇はないようだ。
シュッ。
準備ができたと言わんばかりに、ダガーを飛ばしてくる。
「くっ…!」
ギリギリで躱すが、メイスに当たって思ったように動けない。
ドレスや長い白髪もダガーによって引き裂かれる。
ダガーを避け終わって、ルカが居た方を見やる。
だが、そこには誰も居なかった。
「…面白いスタイルだわ」
危機は乗り越えたが、依然として劣勢だ。
森の奥の方では、キースたちが戦闘をしている音が聞こえてきている。
数秒の沈黙が森を包み込む。
ルカは動きがない。
このままではジリ貧で負ける。
「ねぇ、いるんでしょ?」
声は返ってこない。
気配もない。
どこにいるかすら見当がつかない。
息を整えながら、周囲に意識を向ける。
木々の揺れ。
葉の擦れる音。
地面を踏む振動。
全てに意識を張り巡らせる。
何も感じない。
森の奥から、金属がぶつかる音が聞こえてきた。
キースの戦闘音だ。
どうやら苦戦しているようだ。
『早く合流しなければ…』
そんな焦燥感に駆られる。
だが、今は自分自身の戦いに集中するべきだ。
「…集中しなさい」
そう自分に言い聞かせた。
待っていては埒が明かない。
こちらから動いて、反応を引き出す。
地面を強く踏み込んだ。
メイスを構え直して、前に出る。
ざっ。
右後方で、草が揺れた。
振り返りながらメイスを横に薙いだ。
バンッ。
空を切った。
いない。
その瞬間、左肩に衝撃が走った。
しかし、物理的な痛みではない。
手でそっと触れるような、優しい肌触り。
首元にはダガー。
そして、耳元で囁かれるように息を吹きかけられる。
「私の秘密、解けるといいね」
それを聞いた瞬間、素手で真後ろに裏拳を繰り出す。
それと同時に足で地面を蹴り上げ、後方に回避する。
サッ。
クリーンヒットとはいかなかったが、頬を掠めたらしい。
かすり傷ができており、血が垂れてきていた。
ルカはその垂れてきている血を手で拭き取る。
そのまま口に含んだ。
「ふふっ…」
逃げる様子はなさそうだ。
急接近をし、メイスを振り下ろす。
ルカは回避行動を取っていたが、それはこっちも予測している。
回避すると読んで、そこには足技を繰り出す。
ガンッ。
メイスは地面を叩くだけだった。
だが、足技は運良く当たった。
ルカがその場で派手に転ぶ。
しかし、叩いた衝撃が逃げ場を失い、直接手に返ってくる。
痺れるような痛みが襲う。
仕方なくその衝撃をそのまま使い、メイスを通じて地面に衝撃を移して後方へ仕切り直す。
あのまま攻撃体制に移行していても、正体不明のダガーに突かれていただろう。
ルカの方を見ると、また不敵な笑みを浮かべていた。
手にはまたダガーが装填されていた。
『あの能力は一体…?』
ダガーが増える理屈が全くわからない。
ここまで一対一で戦闘をして観察をしていたはずなのにだ。
しかし、改めて見てもルカのダガーは手元で明らかに増減している。
まるで手品のようだ。
だが、服についている魂の残滓から推測するに物理武器でもないらしい。
あのダガーたちは、紛れもない彼女の魂の武器だ。
しかも、一度気配を悟られることなく懐に忍ばれている。
これが経験の差なのだろうか。
いや。
待て。
「なるほど、ね」
フォロー、感想、評価大変励みになります
読者の皆様の応援によって活動を維持し続けられているところもあります
どうぞ、これからもよろしくお願いします




