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【第一章】エンド・オブ・クロニクル 〜神話の世界に紡がれる、少年少女の叙事詩〜  作者: 百瀬 三月


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第三十二話 一人の戦い方

辺りを警戒する。

シャオが依然として気配がわからない。

『どこ…だ…?』

視線を様々な所に見やるが、結果としては変わらない。


すると、ラヴェンツァがいつの間にかいないことに気が付いた。

『まさか…?』

嫌な想像を掻き立てられるが、その心配は杞憂に終わる。

森の奥から、白髪の髪が見える。

すぐに元いた場所へと帰ってきた。


「ラヴェンツァ…」

「大丈夫よ」

息を切らしながらも、静かに答えた。

ドレスの裾がさらに切れていた。

木の葉もくっついている。

頬には、新しい傷ができていた。


「ルカは?」

「まだいるわ」

「見失った…わ…」

悔しそうに言った。


二人で背中を合わせた。

また同じ陣形に戻る。


「シャオは?」

「気配を消している」

「厄介ね」


静寂が戻った。

森が、静かすぎる。

どこにいるのかわからない。

ルカもシャオも、完全に消えている。


全身が限界に近かった。

腕が重い。

足が震えている。

体力も限界に近い。


「キース」

ラヴェンツァが小声で言った。

魂の形(ソウルレムナント)、かなり揺れてるわよ」

「わかってる」

「無理しないでね」

「ああ」

「本当に?」

答えなかった。


すると、上から物音がした。

「用意して…」

ラヴェンツァが小声でそう言った。

「言われなくてもわかってる…」

小さく答えた。


目線を上にやる。

二刀を頭上に向けた。

ラヴェンツァもメイスを構え直した。


バサッ。

二人が同時に降ってきた。

シャオはそのまま拳を突き出してぶつかってくる。

ルカは数本のダガーを同時に飛ばしながらきている。


「っ…!」

シャオの打撃を受け止めた。

ガンッ。

衝撃が全身を貫いた。

左の二の腕にダガーが擦れ、そこから血が滴る。

膝が折れそうになる。

足が地面に沈んでいく。


しかし、その衝撃はそれだけではなかった。

落下の勢いそのままに、二人が左右にソウルを解放した。

「なっ…!」

彼女らの圧力が加わる支点から衝撃波が出た。

そして、先ほどまで感じていた背中の体温が消えた。

それと同時に、彼女らの圧力も消える。


「ラヴェンツァ…!」

咄嗟に声をあげ、前に気を配りながらも後方を見る。

後方の地面にラヴェンツァが倒れ込んでいる。

ドレスには血がついており、苦悶の表情を浮かべている。

顔には泥がこびりついており、動けそうもない様子だ。


その瞬間、ラヴェンツァの腰に付いていた救急生命防御装置の光が失われる。

「ピー、ピー」

その腰の装置から、機械の警告音のようなものが垂れ流されている。


「ラヴェンツァ・ヴェイル」

バルガの声が空間に響き渡る。

「救急生命防御装置、作動確認」

「残念ながら、退場だ」


彼の声を聞いてもなお、ラヴェンツァが地面から起き上がろうとしている。

しかし、体が言うことを聞いていないようだった。

ゆっくりと、膝をついた状態で止まっていた。

「キース…」

「あとは…頼んだわよ…」

ラヴェンツァはその場から転移されていった。

ガラスのような破片だけがその場に残る。

先ほどまで背中に感じていた熱が冷めていく。

胸の奥に引っ込まれていた恐怖心が増大していく。


正面に視線を向けると、シャオとルカが目の前に立っていた。

「ここからは二対一だよ」

笑顔だった。

「残念ながら、ここまでだね。飛び級君」

少し期待はずれ。

そんな表情を浮かべている。

しかし、失望ではないようだ。


全身が悲鳴を上げていた。

膝が笑い、立っているのがやっとの状態だ。

手にもうまく力が入らず、先ほど受けた傷が酷く痛む。

体力の底も完全に見えており、この戦闘で消費できるソウルも残りわずかとなっていた。


「消化試合…とでも言いたげですね…」

彼女らは不敵な笑みを浮かべる。

その表情は苦笑に近いものがある。

「確かに、もう俺には勝ち目はないのかもしれない」

ラヴェンツァから言われた言葉を思い出す。

『あとは…頼んだわよ…』

ラヴェンツァは、俺がきっと勝てると信じているからこそ、この発言をしたのだろう。


確かに、勝ち目はゼロに等しいのかもしれない。

それでも…

「それでも…」

「勝つのを諦める理由にはならないっ!」

地面が割れるほどの力で一歩を踏み出し、彼女らに攻撃を仕掛けに行く。

猪突猛進のようにも見えるのかもしれない。


ダガーが一本、二本。

合計で四本飛んできている。

それぞれ右足、左胸、左腕、そして頭部から順番に到着するだろう。

どれも喰らったら致命傷は避けられない箇所だ。

狙いも完璧だ、無慈悲なほどに。


まずは、左足のダガーが目前に迫る。

これは跳躍し、軽々と超える。

しかし、問題は次のダガーだ。


この左胸を狙ったダガーは、跳躍中に刺さるだろう。

だから回避行動はできない。


ならばどうするか——


右手で再度、サーベルを握り直す。

その力でダガーを薙ぎ払う。

カキッ。

刀身同士がぶつかり合い、嫌な金属音が鳴る。

そのダガーはすぐ横の木に刺さった。


次は三本目のダガーだ。

左は傷の影響でうまく動かせない。

だが、やるしかない。

左の刀身でダガーとの軸を合わせ、進行方向をずらす。

それは体から逸れて、上空を掠めて後方へと飛んでいった。


そして間髪入れずに最後。

頭部を狙って飛翔するダガーが迫る。

すでに目と鼻の先に見えている。

ダガーの先端が、妙に恐怖心を煽る。

本能が警鐘を鳴らしている。

手足が小刻みに震え、筋肉が緊張している。


左の刀身がまだ動いているままで、刀身で弾くことは難しい。

体も動かすことが難しい。

考えている時間も惜しい。

ダガーは目前に迫っている。


これしかない——。


ダガーの先端を歯で噛み、刺さるのを回避した。

あと少しタイミングが遅かったら怪我では済まないだろう。

そのダガーをその場に吐き捨てた。


ダガーはもう来ていない。

彼女らも目と鼻の先だ。

この勢いを殺すことなく、刀身を的確に振り払う。


何度か振り払い、徐々に速度が上がっていった。

彼女らの防御も限界を迎えている。

『いけるッ!』

力強く一歩を踏みだし、その勢いのまま彼女らに刀身を突き上げるように向ける。


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