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第三話 僕が、ですか…?

「素晴らしい」

振り返ると、拍手をしながら近づいてきている人がいる。

こちらを値踏みするような目だ。

周囲の喧騒が嘘のように、その男が立っていた。


年齢は初老だろうか。

白髪混じりで、綺麗なコートを着ている。

気品がある。


「自分で言うのも趣味が悪いとは思うが、最初から見させてもらっていたよ」

「まさか、一人で事態を収束させてしまうとはね…」

「恐れ入った」

褒めているのか、試しているのか。

どちらとも取れるような言い方だ。


「…どなたですか」

警戒心が抜けないまま、聞いた。

男は微笑んだ。

嫌味のない、穏やかな笑い方だった。

「これは失礼。自己紹介が遅れたね」

コートの襟を軽く正して、男は続けた。


「私はデミラス・T・カイザー」

「サンクタム学術院アカデミーの学長をしている」


学術院アカデミー


大昔に魂守り(ソウルガード)を育成するためのみに設立された、各国に一校ずつしかない由緒正しき名門校。


この世界の人々は、子供の頃に一度は思ったことがある。


魂守り(ソウルガード)になりたい


と。


しかし、そんな夢は当の昔に消え去っていた。


「君、名前は?」

「…キースです」


「キース・ラヴェント」


「そうか、キース君」

デミラスはもう一度こちらを見た。

さっきと同じ目だ。

値踏みするような、しかしどこか温かみのある目。


「一つ、聞いてもいいかな」

「…何ですか」


「君の魂の武器(ソウルアーマメント)

「あれ、誰かに習ったのかい?」


思いがけない質問だった。

「…護身術として、叩き込まれただけです」

「習ったというよりかは、無理やり覚えさせられた感じで」


「なるほど」


デミラスは小さく頷いた。

何かを確かめるように。

「単刀直入に言わせてもらう」

「うちに来ないか」


唐突だった。

「…学術院アカデミーに、ですか」


「もちろん無理にとは言わない」

「しかし、君には少し気になるところがある」


「どうだい?話くらいは聞いてくれないか?」


少し怪しいところもある。

この男が本当に学術院アカデミーの学長なのかもわかっていない。

しかし、自分の魂の武器(ソウルアーマメント)に対して興味を持ってもらうのは、不思議と悪い気はしなかった。


「…話くらいなら」

そう答えながら、内心では戸惑っていた。

学術院の学長が、なぜわざわざ俺に声をかけてくるのか。


デミラスは満足そうに頷いた。

「ありがとう」

「では場所を変えよう。立ち話もなんだからね」


広場の外れにある喫茶店に通された。

革張りの椅子に、磨かれたテーブル。

田舎では見たことのないような、落ち着いた店だった。

向かい合って座る。


「すいません。いつもの」

デミラスは手際良く店員に注文をしていた。

「キース君も、何か頼むかい?」

「遠慮はいらないよ」


「いえ、大丈夫です…」

妙な緊張感で、飲み物を飲む気も起きなかった。


店員が素早くやって来る。

「ごゆっくり」

デミラスはコーヒーを一口飲んでから、静かに口を開いた。

「君の魂の武器(ソウルアーマメント)を見て、気づいたことがある」


「…気になるところ、というのはそれですか」

「そう」

デミラスの目が、真剣みを帯びた。

さっきまでの穏やかな雰囲気が、少しだけ変わった気がした。

「普通、魂の武器(ソウルアーマメント)は一人一つだ」

「これに例外はなく、刀を使う者もいれば、槍を使う者もいる。弓の者もいる」


「しかし、君の魂の武器(ソウルアーマメント)は二刀一対…」

「というのは、私も初めて見た」

「…変なんですか、俺の」


「変、とは少し違う」

デミラスは慎重に言葉を選んでいるようだった。

「むしろ、興味深い。非常にね」

窓の外で、広場の喧騒が遠く聞こえる。

さっきまであそこで戦っていたとは思えないくらい、この店の中は静かだった。

「キース君」

「…はい」

「君は自分のソウルが、普通だと思うかい?」

答えに詰まった。

普通かどうか、考えたことがなかった。

ただ、幼い頃から他の子供と何かが違う気はしていた。


うまく言葉にできないだけで。

「…わからないです」

正直に答えた。

デミラスはそれを聞いて、小さく微笑んだ。

「正直な子だ」


「だからこそ、うちに来てほしい」

「もちろん、君の戦闘能力のことも非常に高く評価しているよ」

「その年で、あそこまでの怪物バンキッシャーと渡り合える力を持つものは稀有だよ」

「だからこそ、君は才能を磨くべき…だと感じている」


「君のソウルのことを、もっとよく知るためにも、ね」


俺のことを、俺よりも知っている。

そんな口ぶりだった。

「…一つだけ聞いていいですか」

「もちろん」

「なんで学長が、自分で声をかけてくるんですか」

デミラスは少し間を置いた。

「自分以外にも、実力ある人っていると思うんですけど」


学術院アカデミーってなんで設立されたか、キース君は知っているかな」

歴史の授業で、幾度となく聞いている。

「過去の戦争が影響しているんですよね…」


「流石だね」

「600年前に起きた怪物バンキッシャー大量発生が原因で起きた」

魂災戦争カラミティウォー


「人類は二度と災害を起こさないために、魂守り(ソウルガード)を組織的に育成する場所を作った」

「それが学術院アカデミーの始まりだ」

知っている話だった。

しかし、デミラスの口から聞くと妙に重みが違った。

「つまり学術院アカデミーは、世界を守るために存在している」


「そこに集まる生徒たちは、相応の覚悟と才能を持った者たちだ」

「…それはわかります」

「でも、俺みたいな田舎者をわざわざ学長が、というのは…」


デミラスは静かに笑った。

「挑戦することを恐れた人間は、次第に成長しなくなる」

「殻に閉じこもったままでは、せっかくのダイヤの原石がただの石になってしまう」


「そんな生徒を探し出すのも、学術院アカデミーの学長としての責任なのだよ」


キーンコーンカーンコーン。

街のチャイムが鳴り響く。

18時を知らせるチャイムだ。


「おっと。時間なようだね」

学長はそう言い、机に紙を置いた。

「ここに、私の連絡先が載っている」


「覚悟が決まったなら、再度ここに連絡してくれ」

「また会えるのを、心より待っているよ」


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