第二話
手袋を外すと、異常な昂りを感じる。
まるで体の内部で連鎖反応が起きているようだ。
両手を強く握る。
全身の筋肉を強張らせる。
体の奥から、何かが動き出す感覚。
小さい頃から叩き込まれた、この世界の護身術の基礎。
魂の武器
皆はそう呼んでいる。
自身の魂を消耗させ、人間としての真の力を呼び起こす。
そして、身体能力を飛躍的に上げる。
それだけでなく、個人の魂を反映した“世界に一つしか存在しない武器“も顕現することができる。
らしい。
よくわからずに教え込まれた影響で、あまり理解せずに使っている。
しかし、怪物にはこれしか対抗手段がないことも事実。
魂を武器に変える、その感覚。
右手に、剣が現れた。
サーベルのような形状で、持ち手部分には刀のような鍔もついている。
左手にも、剣が現れた。
こちらは非常に長い刀身。
刀、と言った方が正しいだろうか。
二刀一対。
これが俺の魂の武器。
魂の武器を発動した瞬間、全身からオーラのような赤色の煙幕が滲み出る。
魂の形
魂の状態によって色や彩度が変わる。
らしいが、一度も赤色から変わったことはない。
怪物が老人に向かって腕を振り上げた瞬間、俺はその間に割り込んでいた。
ガキンっ!
金属同士がぶつかるような音が響き渡る。
「くっ!」
想像以上の怪力だ。
刀で受け流したつもりだった。
しかし実際は、腕ごと弾き飛ばされていた。
地面を二回転がって、ようやく止まる。
背中が痛い。
でも骨は折れていない。
「はっ!」
老人の安否を確かめるためにすぐに立ち上がる。
怪物がこちらを向いた。
どうやら、老人から興味が移ったらしい。
「おじさん、早く逃げてください!」
彼は返事を待たずに駆けた。
怪物とは絶妙な距離感を保ちながら観察する。
先ほどのように、正面からぶつかるのは得策じゃない。
体格差がありすぎる。
足を使って、右へ左へと位置を変えながら隙を探す。
幸いなことに、怪物の動きは鈍い。
しかし一撃一撃が重く、掠るだけでも洒落にならない威力がある。
腕が振り下ろされた。
ギリギリで横に跳ぶ。
腕が地面を叩いた瞬間、石畳が砕けた。
「…本気でやばいな、これ」
思わず声に出てしまった。
田舎で見ていた怪物とはわけが違う。
あちらは多くて人間の二倍程度の大きさ。
強さも、自分の格下くらいだったはず。
こいつは三倍以上ある。
強さも、同格以上だろう。
しかし、人間には知恵がある。
勝機は確実に見つかるはずだ。
ゴォォン!!
そう考えていると、怪物の腕がまた振り下ろされる。
悠長に止まって考えている場合じゃない。
回避に専念しながら、頭をフル回転させる。
回避を続けていると、転機がやってきた。
「一体いつまで…続くんだっ…」
体力もだいぶ消耗してきていた。
ゴォォン!!!
また腕を叩きつけてきた。
その瞬間、わずかだが怪物の動きが緩んだ。
その隙に、差し込んだ。
左の刀で牽制しながら、右の刀で踏み込む。
首元に一撃。
「どうだっ!!」
確かな手応えが伝わってきていた。
しかし、首から数センチほどしか刺さっていなかった。
深く入らない。
「チッ…」
舌打ちが溢れる。
怪物の皮膚を破るなら、もっと力がいる。
体の奥から、もっと魂を引き出す。
赤いオーラが濃くなる。
両手が熱くなる。
明らかに体に疲労が溜まって行き、消耗している感覚がある。
しかし、それとは裏腹にさらに気分が高揚して行くのも感じる。
でも今はそんなことを気にしている場合じゃない。
怪物が再び腕を振り上げた。
今度は逃げなかった。
「こいっ!!!」
真正面から、二刀を交差させて受け止める。
「がっ…!」
膝が折れそうになる。
足が地面と擦れ、地面が抉れていく。
それでも踏みとどまった。
しかし、押し返すことはできない。
力の差がありすぎる。
でも、止めることはできた。
一瞬だけ、動きが止まった。
今だ。
受け止めていた刀を一気に解放して、その勢いのまま体を回転させた。
遠心力を乗せた二刀が、怪物の胴体を薙いだ。
ズン、と重い感触が手に伝わった。
怪物が、よろめいた。
効いた。
「もう一回っ!!!」
息を整える暇もなく、再び踏み込む。
今度は深く、迷わず。
全身の神経を刃に集中させて、全力で振り抜いた。
怪物の胸に、深い切り傷が走った。
断末魔のような歪んだ音が響く。
その巨体が、ゆっくりと崩れ始めた。
黒色の霧のようなものが体から発生している。
しばらくすると、小さな爆発と共に消えた。
広場には静寂が戻った。
「…はぁ」
大きく息を吐く。
刀を消して、手袋をはめ直す。
両手が再び隠れた。
疲労が一気に襲いかかってくる。
その場に座り込んだ。
膝が笑っている。
体力も相当消耗している。
それでも、かすり傷程度で大きな怪我はない。
怪我人も、見たところいないだろう。
周囲を見回すと、逃げ遅れた数人が遠巻きにこちらを見ている。
誰も声を出していなかった。
ただ、呆然と立ち尽くしていた。
「…見世物じゃないんだが」
呟いた瞬間、背後から声がした。
フォロー、感想、評価大変励みになります
読者の皆様の応援によって活動を維持し続けられているところもあります
どうぞ、これからもよろしくお願いします




