第一話 始まり
サンクタム連邦 首都:セントラル・サンクタム
「あぁ、ここが…」
大きな建物が所狭しと並んでおり、道ゆく人々が次々と店内に引き込まれていく。
外も例外ではなく、自動車が車道を忙しなく交差し合っている。
流石、この国で一番栄えている場所といったところだろうか。
驚嘆するしか無かった。
生まれ育った故郷の景色とは全く違かったからだ。
「っと、頼まれていたのは…」
わざわざ田舎から出てきたのは他でもない。
買い物を頼まれていた。
ガサガサ。
ポケットからメモが書かれた紙を取り出す。
それと同時に、首都の地図も取り出す。
両手にそれぞれメモと地図を持ち、雑踏の中を歩き始めた。
キョロキョロ。
数歩歩くたびに、周りを確認する。
後ろを歩く人からぶつかられることもある。
側から見れば田舎者丸出しだろう。
しかし、そんな些細なことを気にしている場合ではない。
人目を気にすることなく、地図を頼りに先に進んでいく。
「えーと…ここを右に曲がって…」
地図と周囲を交互に見比べながら、ゆっくりと進む。
目的地まではまだ少し距離がある。
それでも急ぐ気にはなれなかった。
せっかく来たのだ。
少しくらい寄り道してもバチは当たらないだろう。
路地を抜けると、そこには大きな空間があった。
中央に大きな噴水がある。
その周りを、人々が歩いている。
おそらく、有名な広場のような場所なのだろう。
露店が何軒も並んでいて、いい匂いが漂ってきた。
鳥のような動植物もおり、自然豊かな空間だ。
都会の喧騒に疲れていたところもあり、ちょうどいい休憩地点だ。
噴水の近くにあるベンチに腰を下ろす。
ぐうぅぅぅぅ。
腹の虫が鳴く。
「…腹減ったな」
遠目から露店を見る。
パン、飲み物、伝統料理など様々なようだ。
「よし…」
そう決めて、露店の方に歩いて行く。
「そこのパン。一つお願いします」
露店の中にいる店主らしき男に問いかける。
「…あいよ…」
店主は愛想悪く、低い声で答えた。
パンを買って、先ほどまでいたベンチに戻る。
すると、隣に知らない人が座った。
「君、見ない顔だね」
「観光かい?」
「いや、買い物頼まれてて」
喋り方がやけに落ち着いている。
老人だろうか。
顔は…
帽子を深く被り込んでいて見えない。
「そうかい」
「どこから来たんだい?」
「サンクタムの…外れの方です」
「そうか」
「首都はどうだい?」
パンを食べながらも続ける。
「今住んでる田舎とは…だいぶ違って見えますね」
「まるで、同じ国とは思えないです」
「ははっ。まぁ感覚の違いってやつさ」
二人で噴水をしばらく見つめていた。
水の音と咀嚼音だけが聞こえる。
「君は、魂守りを目指しているのかい?」
老人が口を開いた。
突拍子のない発言に少し狼狽える。
「いえ、別にそんな大層な…」
「でも、なんで急に…?」
老人は考えている様子だった。
「なんとなく、さ」
パンを食べ終わった。
「ありがとうございました」
「礼を言われることなんてしてないさ」
「セントラルを楽しんでな」
老人と別れ、本来の買い物を続けることにした。
路地を二本抜けて、目当ての店を見つけた。
地図に記されていた雑貨屋だ。
外から見るより中は広く、棚が天井近くまで並んでいる。
「いらっしゃい」
店主らしきおじさんが顔を上げた。
愛想がいい。
田舎の店とそう変わらない雰囲気に、少し肩の力が抜けた。
メモを片手に棚を回る。
一つ、二つ、三つ。
必要なものを籠に入れていく。
「…あ、これか」
リストの最後の品を見つけて、手を伸ばした。
その時だった。
ドン。
地面が揺れた。
最初は小さな振動だった。
地震かとも思った。
でも違う。
これは地面の揺れじゃない。
空気が、揺れている。
何かが、乱れている。
「お、おい!何だ!」
店主が声を上げた。
店の外から、悲鳴が聞こえた。
一つじゃない。
いくつも重なって、広場の方向から流れてくる。
籠をその場に置き、店を飛び出した。
外は混乱の最中にあった。
建物の中から広場に人が溢れ、大混雑していた。
ただし、みんな同じ方向へ走っていた。
逃げていた。
人の流れに逆らうように、店の前で俺は立ち止まった。
逃げてくる人々の隙間から、広場の奥を見る。
そこに、それはいた。
熊や危険動物ではない。
人間でもない。
輪郭が歪んでいる。
体の各部位が、歪に組み合わさっている。
大きさは普通の人間の三倍はあるだろうか。
一歩踏み出すたびに、地面が沈み込むような重さがある。
怪物
怪物だ。
田舎にいた頃も、幾度と見たことがある。
でも、こんなに大きいのは初めてだった。
「逃げろ!早く!」
誰かが叫ぶ。
広場から人が散り始める中、一人だけ動けていない人間がいた。
噴水のそばで転んでいる女性だ。
周囲の人間は誰も気づいていないか、気づいていても立ち止まれなかった。
皆、自分の命を最優先で動いている。
怪物が、女性の方へ向き直った。
チッ。
俺は舌打ちをした。
「…厄介だな」
誰に言うわけでもなく呟いて、手袋を外した。
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