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【第二章開幕】エンド・オブ・クロニクル 〜神話へと続く旅路〜【2000PV突破】  作者: 百瀬 三月
第一章 学園編

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1-3-7 加速“した”世界

ラヴェンツァの構えは完璧だった。

しなやかな姿勢から放たれる気配は、ただの訓練とは思えないほど鋭い。

拳を軽く握った右手が、わずかに震えているのは、彼女なりの緊張の表れだろうか。


俺は両手を軽く構え直した。

魂の武器は使えない。

生身の体だけで、彼女と向き合う。

「……来い」

俺が先に踏み込んだ。

一歩、二歩。

距離を詰め、右の拳を斜め上から振り下ろす。


ラヴェンツァは軽く後ろにステップし、左手で受け止めた。

ガンッ、という重い衝撃が腕に響く。

「重い……!」

予想以上の反動に、俺の体が一瞬よろけた。

油断していたら簡単にやられる。


ラヴェンツァは受け流すと同時に反撃。

右の掌底が、俺の胸元を狙ってくる。

俺は左腕で払い、間合いを保とうとした。

しかし——


まただ。

彼女の動きが、一瞬だけ「遅く」見えた。


その隙を逃さず、そのまま拳を突き出す。

しかし、想定していたよりもかなり強い力で突き出してしまった。

「…っ…!」

このままの力で当たってしまうと、間違いなく怪我をさせてしまう。

咄嗟に軌道を横へずらす。


拳が空を切る。

ラヴェンツァの目がわずかに細くなった。

「今……何を…?」

彼女の声は低く、しかしはっきりと俺に向けられていた。


二人の間に時間が流れていたが、


再びラヴェンツァの拳が迫ってくる。

受け止めた。

ガンッ。

重い衝撃が腕に伝わった。

さっきのアリスとは違う重さだ。

技術と制御が凝縮された、無駄のない一撃だった。

「っ…重い」

「当然よ」

ラヴェンツァが連撃に移った。

右、左、右。

リズムが読めない。

防ぐのが精一杯だった。


「さっきの私への一撃」

連撃の合間に、ラヴェンツァが皆に聞こえないくらい静かに言った。

「あれは何だったの」

「わからない…」


「わからない?」

「気がついた時にはすでに…」

ラヴェンツァの目が細くなった。

攻撃の手は止まらない。

むしろ、少し速くなった気がした。


「じゃあ」

「もう一度、やってみなさい」

「やろうとしてできるものじゃない」

「いいから、再現してみて」

有無を言わさない口調だった。

踏み込んだ。

右拳を突き出す。

意識的に力を込める。

でも何も起きなかった。


ラヴェンツァが難なく受け止めた。

「できない…」

「そうね」

二人で距離を取った。

お互いに息を整える。

「さっきはどんな感覚だった?」

「無意識に、って感じで」

「体が勝手に動いたような」

「その時、ソウルはどんな状態だった?」

「よくわからない…」

「だけど、なんか…熱くなった気はして」

「熱く、か…」

ラヴェンツァが繰り返した。


また踏み込んできた。

今度は下から掬い上げるような軌道だった。

それを読んで躱す。


しかし、ラヴェンツァはそれの読んでいるようだった。

一度バックステップで距離を取る。

だが、ラヴェンツァが追ってくる。

速い。

どんどん距離が詰まっていく。

鋭い眼差しがこちらに飛んできている。


追い詰められた。

壁が背後に迫っていた。

「逃げ場はないわよ」

「…」

ラヴェンツァが踏み込んだ。

全力の一撃が来る。

受け止めようとした。

でも間に合わない。

あまりにも速い。


そう思った瞬間だった。

また、同じ現象が起きた。

ラヴェンツァの動きが、一瞬だけ遅くなった。

いや、彼女だけが遅くなったんじゃない。

周囲の全てが、スローモションのように遅くなった。

その限られた時間が、引き伸ばされているようだ。

その隙間の中で、体が動いた。


ラヴェンツァの軌道を読んで、横にずれる。

そのまま右拳を脇腹に当てようとする。


—まただ。

拳に徐々に力が溜まっていくのを感じる。

アリスの時と同じだ。

「っく…!」

このままでは、いくらラベンツァと言えど怪我をさせてしまう。 


寸止め、ギリギリのところで止めた。

時間の感覚が戻った。

ラヴェンツァが静止した。

俺の拳が、彼女の脇腹の数センチ手前で止まっていた。

訓練場が、静まり返った。

「…今の」

ラヴェンツァが息を呑んだ。


「今の動き、私には見えなかった」

「…」

「でも、今度は意識があったの?」

「…うん」

「どんな感覚?」


「世界が、一瞬だけ遅くなった気がして」

「その間に、体が動いて」

ラヴェンツァは何も言わなかった。

俺の右拳を見ていた。

それから、俺の目を見た。


「そこまで!!」

バルガの声が訓練場に響いた。

「キース!」

バルガが豪快に笑いながら近づいてきた。

「ラヴェンツァ相手に一本取るとは、大したもんだ!」

「見事な一撃だった!」


周囲から歓声が上がった。

「ヤベェな…」

「流石、学長推薦なだけはあるな」


俺は何も言えなかった。

右手を見た。

熱が残っていた。

「…キース」

ラヴェンツァが静かに言った。


声が、いつもより低かった。

「放課後、時間はある?」

「あるけど」

「二人で話しましょう」

「…わかった」

アリスが俺の隣に来た。


「さっきのと、同じやつね」

小声だった。

「多分」

「…あんた、自分で気づいてる?」

「なんとなく、は」

「なんとなく、か」

アリスが少し間を置いた。

「デイジーも気付いてるみたい」

「え」

振り返ると、デイジーが静かにこちらを見ていた。

本を閉じていた。

目が合った。

デイジーは何も言わなかった。

ただ、小さく頷いた。


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