第二十四話
あの話し合いから一週間が経った。
あれ以来、誰もその話題に触れることはなかった。
ただ、いつも通りの日常だけが続いている。
一年生の間でも、魂絆選定以外でコンビが出来始めている。
講義、訓練、食堂、寮。
変わらないはずの学園生活の中で、どこかだけが落ち着かない。
あの時の感覚──時間が歪むような違和感だけが、まだ頭の奥に残っていた。
理由は分からないまま、日々だけが過ぎていく。
そしてそのまま、朝の講義を迎えた。
魂象理学、魔骸学、刻魂工学。
いつも通りの三コマが流れていく。
ラヴェンツァが隣で正確にノートを取っている。
アリスが前の席で背筋を伸ばして聞いている。
デイジーが手元で本を開きながら、それでも黒板を見ている。
俺だけが、どこか上の空だった。
頭の奥に、あの感覚が残っていた。
一週間経っても、まだそこにある。
「キース」
「はい」
「ノート、止まってる」
ラヴェンツァが小声で言った。
「すいません」
急いでペンを動かした。
午前の講義が終わり昼になった。
四人で食堂に向かった。
いつも通りの昼食だった。
アリスが今日のメニューに文句をつけている。
デイジーは黙って食べている。
ラヴェンツァは品よくフォークを動かしている。
俺はそれを横目で見ながら、なんとなく落ち着いた気持ちになった。
こういう平和な時間が、好きだ。
そして、昼休みが終わりかけた頃だった。
「キース・ラヴェント、ラヴェンツァ・ヴェイル」
伝令役の生徒が近づいてきた。
「学長室まで来るよう、デミラス学長からの呼び出しです」
「二人だけ?」
アリスが眉をひそめた。
「珍しいわね」
「…また何かあるのかな」
デイジーが静かに呟いた。
ラヴェンツァがすでに立ち上がっていた。
「行きましょう」
「はい」
「後で教えなさいよ」
アリスの声を背中に受けながら、二人で食堂を出た。
学長室に向かう廊下は静かだった。
「心当たりはある?」
ラヴェンツァが前を向いたまま聞いた。
「ないけど…」
「そう」
「ラヴェンツァは?」
「ないわ」
「じゃあ、なんで…」
「行けばわかるわ」
学長室の前に着いた。
コンコン。
ラヴェンツァがノックした。
「どうぞ」
デミラスの穏やかな声が聞こえた。
扉を開けると、デミラスが窓際に立っていた。
昼過ぎの光を背に受けて、こちらを向いている。
「来てくれたね」
「はい」
「座りなさい」
二人でソファに腰を下ろした。
デミラスが向かいに座った。
「突然呼び出してすまなかった」
「用件を聞かせてください」
ラヴェンツァが静かに言った。
デミラスが机の上から一枚の紙を取り出した。
「ヴァンガード・フェスティバルを知っているかい?」
「名前だけは…」
ラヴェンツァが答えた。
「俺は初めて聞きます」
「毎年この時期に開催される、学院最大の祭典だよ」
「個人戦のトーナメントと、コンビ戦の総当たりリーグを同時に行う」
「他学術院の招待選手も参加する」
「一般客も入れる、なかなか華やかな催しでね」
「それに、私たちが出るということですか」
ラヴェンツァが静かに聞いた。
「そうだよ」
デミラスが頷いた。
「君たち二人に、コンビ戦への出場を打診したくて呼んだんだ」
「…一年生が出るんすか?」
「まぁ、異例ではあるがね」
デミラスが少し間を置いた。
「しかし、君たちなら問題ないと判断した」
ラヴェンツァは表情を変えなかった。
「わかりました」
「出ます」
即答だった。
デミラスがこちらを見た。
「キース君は?」
「…俺も、出ます」
「よかった」
デミラスが穏やかに微笑んだ。
「アリスとデイジーにも同じ打診をするよ」
「魂絆選定で選ばれた四人には、是非とも出てもらいたいからね」
「…一つだけ聞いていいですか」
ラヴェンツァが続けた。
「なんだい」
「なぜ私たちにわざわざ打診を?」
「ヴァンガード・フェスティバル自体、その学術院からの出場者は応募制のはずですが…」
デミラスは少し間を置いた。
「君たちには絶対に出て欲しいからだよ」
「あと…君たちが一番面白いからだね」
「面白い、ですか」
「そうだよ」
それ以上は言わなかった。
学長室を出た。
廊下に昼過ぎの光が差し込んでいた。
「面白い、か」
思わず呟いた。
「学長らしい言い方ね」
ラヴェンツァが静かに言った。
「何を考えてるだろうね、あの人」
「さあ」
「でも」
ラヴェンツァが少し間を置いた。
「負けるつもりはないわ」
「もちろん」
二人で廊下を歩いた。
学院のどこかから、生徒たちの賑やかな声が聞こえてきた。
フェスティバルが始まることは、もう学院全体に広まり始めているらしい。
フォロー、感想、評価大変励みになります
読者の皆様の応援によって活動を維持し続けられているところもあります
どうぞ、これからもよろしくお願いします




