第十七話
手袋を外す。
教室がどよめく。
言われた通り、魂の武器を顕現させる。
教室の視線が、全部俺に集まっていた。
深呼吸をした。
両手を握る。
体の奥から、魂を引き出す。
いつも通りの感覚。
右手に、刀が現れた。
左手にも、刀が現れた。
二刀一対。
赤いオーラが、体から発せられる。
しばらく沈黙が続いた。
教師が、俺の手元を見ていた。
表情が変わらない。
しかし目だけが、何かを観察するように動いていた。
「…なるほど」
静かに呟いた。
「皆、見たか」
教師が教室全体に向けて言った。
「これが、魂の武器だ」
「形は人によって全く異なる」
「同じものは、この世に二つと存在しない」
「そしてもう一つ」
教師が俺の方を見た。
「魂の形に注目しろ」
赤いオーラが、俺の全身から滲み出ていた。
「色だけで強さは変わらない」
「しかし、魂の状態は色に出る」
「健康な魂は澄んでいる」
「歪んだ魂は濁る」
「揺れている魂は不安定になる」
教師が俺のオーラを指差した。
「これらが、人と対する時に非常に大事な項目となる」
「しっかりと覚えるように」
「この生徒の魂の形は赤だ」
「赤だから強い、というわけではない」
「ただ」
少し間を置いた。
「少し揺れているのがわかるだろうか」
「これも、キース君の精神状態によるものである」
「おそらく、緊張しているのだろう」
笑いが起こる。
視線が痛い。
早く席に戻りたかった。
「戻っていい」
教師が短く言った。
「はい」
席に戻った。
ラヴェンツァが横目でこちらを見た。
何も言わなかった。
でも、少しだけ目が細くなった気がした。
アリスが小声で言った。
「…注目の的じゃない」
「やめてくれ…」
頭を抱える。
「あんたが指されるのが悪い」
「ひどくない?」
デイジーが静かに本を開いた。
「…まあ、お疲れ」
「ありがと」
教師が黒板に向き直った。
「では続けるぞ」
講義が再開した。
教室のざわめきが、少しずつ収まっていく。
俺はノートを開いた。
黒板に書かれた文字を書き写し始める。
魂象理学の講義が終わった。
「次は魔骸学よ」
廊下に出ながら、ラヴェンツァが言った。
「怪物に関する学問ね」
「あ、知ってるやつだ」
「実物と既に戦ってるしな」
「そうね」
ラヴェンツァが少し間を置いた。
「だからこそ、理論をきちんと理解しておく必要がある」
「経験だけでは限界があるわ」
「耳が痛い…」
講義室を移動した。
魔骸学の教室は、魂象理学とは違う棟にあった。
廊下を歩いていると、すれ違う生徒たちの視線を感じた。
「…まだ見てくるな」
「有名人だからね」
アリスが肩をすくめた。
「慣れなさい」
「慣れる気がしないよ…これは…」
教室に入った。
前の授業とは雰囲気が違う。
壁に怪物の図解が貼ってある。
解剖図のようなものもあった。
少し気持ち悪い。
教壇に立っていたのは、男性の教師だった。
名札にはガーツ・ロウェンと書いてる。
がっしりとした体格の教師だ。
腕を組んで、生徒が入ってくるのを黙って見ていた。
「着席」
低い声だった。
全員が素早く座った。
「私が担当するのは魔骸学だ」
ガーツが黒板に大きく文字を書いた。
『怪物の構造と弱点』
「お前たちの中には既に、怪物と戦ったことがある者もいるだろう」
「ただし、理解して戦っている者は少ない」
「この授業ではその話をする」
ガーツが壁の図解を指差した。
人型の歪んだシルエット。
各部位に矢印と文字が書かれている。
「怪物の体は、死者の記憶を核として構築される」
「姿形は、死者が生前に持っていた記憶や執着に依存する」
「だから、同じ怪物は二体と存在しない」
「強さはどこで決まりますか」
アリスが手を挙げずに聞いた。
ガーツが一瞥した。
「手を挙げろ」
「…失礼しました」
アリスが手を挙げた。
「どうぞ」
「強さはどこで決まりますか」
「死者の魂の強さと、生前の怨嗟や執着の深さだ」
「強い魂を持ち、深い怨嗟を抱えて死んだ者ほど、強い怪物を生む」
「じゃあ、弱点は?」
今度は俺が聞いた。
ガーツがこちらを見た。
「手を挙げろ」
「あ、すいません」
手を挙げた。
「どうぞ」
「弱点はどこですか」
「核だ」
ガーツが図解の胸の部分を叩いた。
黒く塗られた円がある。
「怪物の体は、死者の記憶が凝縮した核によって維持されている」
「核を破壊すれば、どんな怪物も消滅する」
「逆に言えば、核以外をいくら攻撃しても再生する」
「まぁ、その再生能力も個体差があるのだがな」
巨大怪物の時のことを思い出した。
あの巨大な体を斬っても、なかなか倒れなかった。
核を叩いた瞬間に消えた。
ラヴェンツァが手を挙げる。
「巨大怪物はどうなるのでしょうか」
「いい質問だね」
「通常の怪物の上位存在として、巨大怪物が存在する」
「長い年月をかけて怨嗟と憎悪を喰らい続けた個体が、進化・巨大化したものだ」
「核の構造も通常とは異なり、複数存在する場合がある」
教室がざわめいた。
俺はノートにペンを走らせながら、内心で思った。
…昨日のあれか。
隣でラヴェンツァも黙ってノートを取っていた。
視線は黒板から動かない。
でも、ペンを持つ手が一瞬だけ止まった気がした。
アリスも黙って聞いていた。
デイジーは本を閉じて、珍しく前を向いていた。
四人とも、何も言わなかった。
「一体で街一つを壊滅させる危険性があるとされている」
「魂守りの中でも、上位の実力者でなければ単独での討伐は困難だ」
「遭遇した場合は、即座に撤退することが原則となっている」
教室のざわめきが大きくなった。
「そんなのが本当にいるの?」
「怖すぎる」
「会いたくないわ」
俺はただ、ノートに文字を書き続けた。
会いたくない。
全くもって同感だった。
フォロー、感想、評価大変励みになります
読者の皆様の応援によって活動を維持し続けられているところもあります
どうぞ、これからもよろしくお願いします




