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第十六話

朝の光が、白い校舎の窓を淡く照らしていた。

学園の中庭には、虫や鳥などが集まってきていた。


「……眠い」

ベッドの上で体を起こしながら、思わず声が漏れた。


隣のベッドではデイジーが既に起きていて、本を静かに読んでいる。

ページをめくる音だけが、部屋の中に落ちていた。


「起きたか」

「…随分と…早いっすね」

「早起きは三文の得だって言うだろ?」

「三文程度の得なら、そのまま二度寝したいっすけどね…」


デイジーは本から目を離さずに短く頷く。

ぼやきつつ、まだ重い体をベッドから持ち上げる。


俺はぼんやりと天井を見上げながら、昨日の戦闘の疲労を確かめるように指を握った。


バァン!!!!


そんなことを思っていると、部屋の扉が勢いよく開いた。

「いつまで部屋にいるのさ!?!?」

大声を上げながら部屋に飛び込んできたのはアリスだった。

「今日から通常講義なの忘れたの!?」

「ほら!デイジーも!本読んでる場合じゃないっての!」


「…わかった」

デイジーが静かに本を閉じた。

「キースはいつまでぼーっとしてんのよ!」

「今起きたんだって…」

「関係ない!!!」

「のんびりしてる場合じゃないの!」

「わかった、わかった…」


体を起こして、足を床につけた。

まだ少し重い。

でも動けないほどじゃない。

「制服は届いたの?」

アリスが俺を見た。

「昨日の夕方に届いたよ」

「なら早く着替えなさいよ!」

「わかってる」

「五分で来なさい!私たちは先に行ってるから!」

アリスは後ろにいるラヴェンツァの腕を引いて部屋を出て行った。


「…先出てるわ」

怪訝そうな顔でデイジーがこちらに言ってきた。

「うん…」

「鍵だけ、よろしく」

そう言うと、デイジーはこちらに部屋の鍵を投げてきた。

「じゃあ、また後でね」


制服に袖を通した。

思ったより着心地が良かった。

鏡を見た。

「うーん…」

どこか違和感がある。

制服を着ていても、どこか浮いている気がした。


部屋を出た。

廊下に出ると、少し先でラヴェンツァが立っていた。

壁に背をもたれて、腕を組んでいる。

「遅い」

「五分経ってないはずだけど…」

「四分五十八秒よ」

「…細か」

ラヴェンツァが俺を一瞥した。


「制服、着慣れていないわね」

「こんな正装、なかなか着ないし…」

「襟が曲がってる」

「え」

ラヴェンツァが一歩近づいて、俺の襟を直した。

手際が良かった。

あっという間だった。

「…ありがとう」

「別に」

ラヴェンツァが視線を逸らした。


「私のコンビであろう人が、だらしなかったら」


「さぁ、行くわよ」

「うん」

二人で廊下を歩いた。

階段を下りる。

一階に出ると、アリスとデイジーが待っていた。


「遅いっての!」

「お前らが早いんだって…」


四人で学院の廊下を歩いた。

生徒たちが各々の教室に向かっている。

賑やかだった。


「第一講義は魂象理学こんしょうりがくよ」

ラヴェンツァが前を見ながら言った。

「魂に関する学問よ」

「一応、少しだけは知ってる」

「どうせろくに勉強してないでしょう」

「…ご名答…」

「はぁ…」

ラヴェンツァはため息を出す。


「…正直なのは評価するわ」

アリスが横から割り込んできた。

「私は予習してきたわよ」

「当然ね」

「デイジーは?」


デイジーは少し間を置いた。

「…読んだ」

ラヴェンツァが驚嘆する。

「教本を」

「全部?」


「ああ」


「…変態ね」

「ラヴェンツァ、言い方わっる…」


四人で講義室の扉を開けた。

天井が高い。

階段状に席が並んでいる。

黒板の前に、教師が立っていた。

魂象理学担当のエルヴァ・ソーンだった。


「着席してください」

四人は横一列に席に座った。

俺の隣にラヴェンツァが座った。

その隣にアリスが座った。

デイジーはアリスの隣に静かに座った。


エルヴァ・ソーンが黒板に文字を書き始めた。

ソウルとは何か』

「では始めます」


「黒板に書いた通り、ソウルとはなにか」

教師がその言葉をゆっくりと繰り返した。


「君たちが当然のように扱っているそれは、“存在の根幹”だ」

黒板に、線が引かれていく。

人型の簡略図の胸の位置に、円が描かれた。

「肉体ではない。思考でもない」

「ましてや、魔力でもない」

「魂とは、“世界に対して自分を定義する情報”だ」


アリスが小さく眉をひそめる。

「……情報?」


「そうだ」

教師は淡々と頷いた。

「例えば、同じ腕を振るう動作でも、魂の性質が違えば結果は変わる」

「力になる者もいれば、刃になる者もいる」


黒板に二つの軌跡が描かれた。

同じ動きなのに、全く違う結果へと分岐していく図。


「魂は“出力装置”ではない」


「“解釈装置”だと思いなさい」


ラヴェンツァが小さく呟く。

「……なるほど」


その横で、アリスが腕を組む。

「理屈は分かるけどさ、それって結局才能ってこと?」


「いい質問だ」

教師の視線が一瞬だけアリスに向いた。


「才能ではない。“歪み”だ」

教室が静まる。


「魂は均一ではない」

「誰もが同じ形をしているようで、実際は全て違う」

「その差異こそが“力の個性”になる」


俺は無意識に、自分の手のひらを見た。


あの時の、熱。

溢れるみたいな何か。


「では――」


教師が黒板を叩いた。


「実際に見せよう」


その瞬間、教室の空気が一段階重くなる。

黒板の文字が、ゆっくりと歪んだ。


「簡易実技だ。全員、席を立て」


アリスが目を細める。

「初日から実技って、結構無茶ね」

ラヴェンツァはすでに立ち上がっていた。

「むしろ分かりやすいわ」


デイジーも無言で立つ。

そして俺も、遅れて席を離れた。


「キース・ラヴェント」

不意に、エルヴァが俺を呼んだ。


「君は前に出ろ」

一瞬、教室の視線が集まる。

「え、俺っすか?」


「そうだ」


短く、逃げ道のない声だった。


アリスが小声で呟く。

「いきなり目立つやつじゃん……」

ラヴェンツァは何も言わない。

「かわいそうに…」

デイジーがそうぼやく。


俺はゆっくりと前へ歩いた。

黒板の前。


教師が淡々と続ける。


教室の空気が一段沈む。


「では――」

魂の武器(ソウルアーマメント)を顕現させてみろ」


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