第十五話
少し中庭に出て、昼下がりの日差しにあたる。
暖かな風が肌にあたり、とても気持ちが良い。
暖かな日差しに目を細めていると、ふと、視界が遮られた。
「……何、抜け殻みたいになってるのよ」
見上げると、そこにはラヴェンツァが立っていた。
制服のプリーツを揺らし、相変わらず隙のない佇まいだが、その手には二つの紙コップが握られている。
「ラヴェンツァか…」
知人なことにそっと胸を撫で下ろす。
「…散歩?」
「手続きの帰りに喉が渇いただけよ。……ほら」
差し出されたコップからは、甘い果実の香りがした。
「……ありがとな」
「別に、お礼なんていいわ」
「貴方がまた倒れて、私の休養時間が削られるのが嫌なだけだから」
彼女は俺から少し離れた位置に腰を下ろし、優雅に飲み物を口にする。
昨日とは打って変わって、非常に平和な時間だ。
そう思ったのも束の間だった。
「ちょっとぉ! 二人でこっそりサボりなんて、いい度胸じゃない!」
背後から突き刺さるような叫び声。
アリスが、不機嫌そうなデイジーを無理やり引き連れて歩いてきた。
「サボりじゃないわ、休憩よ」
「貴女こそ、その……何、その荷物の山は」
ラヴェンツァが眉をひそめてアリスの手元を見る。
アリスの両手には、購買部のものと思われる袋が溢れんばかりに握られていた。
「女子寮の備品が全然足りないのよ! 」
「あんたが『石鹸の香りが気に入らない』だの『枕の高さがどうの』だの注文つけるから、私が買い出しに行ったんでしょうが!」
「私が頼んだのは私の分だけよ」
「貴女が自分のスキンケア用品まで買い込んだのは自業自得でしょう」
「な、なんですってぇ!?」
また始まった。
二人の口論をBGMに、デイジーが俺の隣に無言で座った。
「……デイジー。あんたも大変だな」
「……同室が、あの騒音の主じゃなくて良かったと思っているところだ」
デイジーは俺が持っていた紙コップを一瞥し、短く付け加えた。
「……キース」
「それ、昨日お前を運んだ医務員が言ってた『魂の安定剤』入りのジュースだな」
「ラヴェンツァがわざわざ買いに行ってたぞ」
「えっ」
思わずラヴェンツァを見ると、彼女は顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がった。
「な、何言ってるのよデイジー! 私はただ、ついでに、売店で余ってたのを……!」
「ラヴェンツァ、あんた意外とマメなのね。……ニヤニヤ」
「アリス、貴女は黙りなさい!」
騒がしい。
けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
昨日まで名前も知らなかった四人が、今、同じ日差しの下にいる。
「……実は同室なんだよな。俺とキースって」
「えっ」
「そうなの?」
「ほら」
そこには『305号室』と印字されていた。
「えガチやん」
「こりゃあ心強いな」
知らない人と相部屋はやはり厳しい。
一度共闘している中ともなると、安心感は物凄い。
「とりあえず」
「デイジー、よろしくな」
俺が手を差し出すと、デイジーは少しだけ驚いたような顔をして、それから小さく鼻で笑ってその手を握り返した。
「……ああ」
「お前が寝言で二刀を振り回さない限りは、歓迎するよ」
空を見上げると、青い空に白い雲がゆっくりと流れていく。
喧嘩している二人を他所目に、デイジーと共に寮へと向かった。
「そういえば」
寮までの道で、デイジーに話しかける。
「昨日、助けてくれてありがとな」
「当然のことをしたまでだよ」
「礼をされることなんてしてないさ」
キィイ。
寮の扉を開けた。
廊下が続いている。
305号室は、三階だ。
階段を上りながら、ふと思った。
昨日の朝、田舎を出た時には想像もしていなかった。
こんな場所で、こんな人たちと過ごすことになるなんて。
「着いたな」
305号室の扉の前に立った。
デイジーが扉を開けた。
二つのベッド。
二つの机。
窓から、午後の日差しが差し込んでいた。
「こっちが俺の方だ」
デイジーが左側のベッドを指差した。
「じゃあ、右っすね」
部屋には、すでに荷物が運ばれてきているようだった。
片付ける前にベッドに腰を下ろすと、ふかふかだった。
思ったより良いベッドだ。
「デイジー」
「なに」
「よろしくな」
「…ああ」
窓の外で、風が吹いた。
木の葉が揺れる音がした。
ガチャ。
廊下から足音が聞こえてきた。
扉が勢いよく開いた。
「二人ともいたっ!」
アリスだった。
荷物の山を抱えたまま、息を切らして立っていた。
「ちょっと聞いてよ!」
「ラヴェンツァったら、枕の高さが気に入らないから交換しろとか言い出して!」
「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ!」
「私はメイドさんでも家政婦でもないっての!!!」
「……お前の部屋はどこなんだよ」
「304号室よ!お隣!」
頭を抱えた。
「アリスとラヴェンツァって、もしかして…」
最悪の事態を想像した。
「同!室!よ!!!!」
こんなうるさいのが、隣なんて。
二人は仲良くなれるのだろうか。
デイジーが静かに本を開いた。
俺は窓の外を見た。
これが、学院生活か。
なんだか、思っていたのと全然違う。
でも、悪くはないな。
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