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第十四話

全身を、万力で締め上げられているような鈍痛で目が覚めた。

「……う、ぐ……」

シーツを掴む手に力が入らない。

視界に映ったのは、見慣れない白い天井と、規則的に点滅する魔導式のモニターだった。

「目が覚めたか」

低い声に顔を向けると、そこには副学長のラウェイが椅子に座り、端末を叩いていた。

「副学長……、俺、どうしたんすか…」

「…じゃなかった、どうしたんだっけ」

記憶を辿るように思い出そうとする。

しかし、禁区から出た後のことをいまいち覚えていない。


「禁区からの帰還直後に倒れたんだよ、君は」

ソウルの過剰出力による一時的な虚脱状態だ」

「……正直、あのまま廃人になってもおかしくなかった数値だがね」

「君は運がいいようだね」

ラウェイが淡々と告げる事実に、背筋が寒くなる。

「他の三人は……?」

「ラヴェンツァ君なら療養のために隣のベッドで眠っていたが、今し方帰って行ったよ」

「アリス君とデイジー君も無事だ」

「……君が一番、無理をしていたからな」

ラウェイは立ち上がり、俺の胸元にセンサーをかざした。


「……キース君」

「君のソウルは、今も激しく波打っている最中だ」

「昨日のように無理をしていては、体を壊してしまう」

無理をしていた…?

そのように言われたが、いつも通りソウルを使っていたはず。

無理をしていた記憶なんて…


「他の生徒に比べて、君は若いんだ」

「それを使いこなすには、君の体はまだ未熟すぎるのだよ」

「…分かっているな?」

「はい…」

言葉では了承したが、どこでそんなに無理をしていたのかがよくわからない。


「あ、そうだ」

「これを」

ラウェイからメモ用紙のような紙を渡された。

「昨日、魂絆選定セレクションに参加していたから自分の寮がわからないだろう?」

「そこに、寮の番号や学術院アカデミー内で行ってほしい場所が書いてある」

「口で言うよりも、効果的かと思ってね」


「退院の許可は出してあるよ」

「問題なく動けるはずだよ」

病床から立ち上がり、四肢の感覚を確かめる。

「おぉ」

確かに、痛みは完全に引いている。


「実際だったら、今日からもう講義が始まる」

「…のだが、学長が『魂絆選定セレクションに参加した生徒は翌日休みにさせなさい!』ってうるさくてね…」


「君含め、四人はお休みだよ」

「共闘したれっきとした仲間だからね。挨拶くらいは行っておきなよ」

「特に、コンビとなったラヴェンツァ君とは仲良くしておくべきだよ」


「それじゃ。私はこれで」

「学校生活、楽しんでね」


副学長が部屋を出ていくと、急に静寂が戻ってきた。

渡されたメモに目を落とす。

「共同寮、三階の三〇五号室。それと……」

メモの端には、丁寧な地図と共に『コンビ維持に伴う手続きのため、放課後までに学生課へ。ラヴェンツァ君を伴うこと』と追記されていた。

仲良くしておくべき、か。

昨日の今日で、あの高潔なラヴェンツァとどう接すればいいのか、正解が全く見えない。

「……とりあえず、一度寮に行くか」

着替えを済ませ、医務室を後にする。

学園の敷地は広く、白亜の建物が並ぶ光景は、生活区の雑多な風景とはまるで別世界だ。

すれ違う生徒たちは皆、洗練された制服に身を包んでいる。

飛び級生の俺はまだ制服が届いておらず、支給された訓練服のままだ。

そのせいで、嫌でも周囲の視線が突き刺さる。

「……あれ?あいつって…昨日の魂絆選定セレクションに選ばれたって」

「しかも飛び級で学長推薦の入学なんだろ?前代未聞だぜマジで…」


突き刺さるような好奇の視線。

昨日の死闘を知る由もない生徒たちにとって、俺はただの好奇の的でしかないのだろう。

「はぁ…」

ため息を出す。


俯き加減で歩みを早めようとした、その時だった。

「ちょっと、そこの赤いの! ぼーっと突っ立ってないでよ!」

鼓膜を震わせる聞き慣れた勝気な声。

振り返ると、そこにはビシッと着こなした制服に身を包み、腰に手を当てたアリスが立っていた。

「アリス……。制服、似合ってるな」

「当然でしょ! あんたこそ、いつまでその格好してるのよ」

「……それより、聞いたわよ。あんた、医務室で担ぎ込まれたんでしょう?」

「全く、コンビ揃って何やってんだか…」

彼女は呆れたように溜息をつくと、俺の顔を覗き込んできた。

その瞳には、嫌味とは裏腹に微かな心配の色が見え隠れしている。


「そういえば、ラヴェンツァ見てない?」


「あー。あれでしょ、コンビの正式認定に行くんでしょ?」

「私とデイジーはさっきやってきたから!」


「んなことはどうでもいいんだよ…」

「ラヴェンツァはどこ って聞いてるんだよ」


「あはは…ごめんごめん」

「……ラヴェンツァなら、さっき学生課の方へ向かうのを見たけど」

「あんたを待ってるみたいだけど、あの様子だと五分遅れたら殴られるわよ」

「ほら、行きなさいよ!」

アリスに背中を突き飛ばされ、そのまま学生課の方へと歩いていく。


痛い。

アリスに突き飛ばされ、背中の切り傷たちがズキズキと痛む。


ガラガラ。

「失礼し…ます〜」


学生課の扉を開けると、ラヴェンツァが立っていた。

腕を組んで、壁にもたれかかっている。

こちらを見た瞬間、眉がわずかに動いた。

「遅い」

「医務室から来たもんで…」

「知ってる」

「知ってるんかい」

なら、少しくらい待ってくれたっていいじゃないか。


「アリスから聞いた」

そうか。

アリスはラヴェンツァにも話していたのか。

「体調は?」

「まぁ、なんとか」

「本当に?」

「本当に」

ラヴェンツァは少し俺の顔を見てから、視線を窓口の方に向けた。

「じゃあ、さっさと手続きをしましょう」

窓口に近づいた。


職員らしき女性が、にこやかに出迎えてくれた。

「コンビ正式認定の手続きですね?」

「はい」

「お二人の学生証をお願いします」

ラヴェンツァが素早く学生証を出した。

俺も慌てて取り出した。

職員が二枚の学生証をスキャンした。

端末を操作する。

「確認が取れました」

「キース・ラヴェント様とラヴェンツァ・ヴェイル様のコンビ登録が完了しました」

「おめでとうございます」


「ありがとうございます」

ラヴェンツァが静かに答えた。

学生証が返ってきた。

よく見ると、学生証の端に小さく「コンビ登録済」という文字が追加されていた。

学生課を出た。

廊下に出ると、急に静かになった。

二人で並んで歩いた。

妙な気まずさがある。

「ラヴェンツァ」

「なに」

「昨日は…ありがとう」

「何が」

「助けてもらったじゃないっすか。何度も」

「お互い様よ」

「でも、俺の方が多く助けてもらった気がします」

「…そうね」

あっさり認められた。

「精進しなさい」

「はい」

「私のコンビが足を引っ張るのは、困るから」

言い方がきつい。


でも、それがラヴェンツァなりの言い方なんだろうとわかってきた。

「ラヴェンツァ」

「まだ何?」

「よろしくお願いします」

「…コンビとして、ね」

ラヴェンツァは前を向いたまま言った。

振り返らなかった。


「あと」

「敬語」


「外してもいいわよ」


でも、その声は少しだけ柔らかかった気がした。

なんだか認められた気がした。

「よろしく」

廊下の窓から、朝の光が差し込んでいた。

学園生活が、今日から本当に始まる。



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