1.5 逃走の誓い
一歩外に出れば、そこはツノ付きを娯楽として狩り、それを普通の市民が笑顔で拍手喝采する狂った世界だ。
逃げ出した先に、どれほど理不尽な地獄が待ち受けているか、少年はその身に流れ込む悪意の質量を通して、痛いほど知っていた。
世界のルール、理不尽な偶然、そして残酷な運命。それらが無情に二人を包み込み、磨り潰そうとするだろう。
それでも――
言葉は何もなかった。
少年自身、自分がなぜこんな非合理な行動を取っているのか、脳内で説明がついていなかった。
ただ、気づいた時には人形のように冷たい少女の手を掴み、走り出していた。
カツカツ、と硬い床に鋭く響く二人の靴音。
長い廊下の影と光が彼らの影を細く引き伸ばし、角を曲がるたびに鉄格子からの月明かりがちらちらと揺れた。
少年はただ、握った手を離さなかった。
それだけが、今の彼のすべてだった。
扉の隙間から漏れる微かな機械の唸りが、追手の気配のように脳裏をかすめる。
角を曲がる瞬間、影が交錯し、視界がわずかに狭まる。息を整える暇もなく、少年はさらに速度を上げた。
足音は廊下の静寂を裂き、規則正しく、しかし早まりながら響いていく。
光の揺れと壁の陰が交互に迫り、影の中に落ちる自分たちの姿が、加速する鼓動そのもののように見えた。
少年は一言も発さず、少女を連れて迷路のような実験棟を駆け抜ける。
二人の影は廊下の奥へ、静かに、しかし確実に逃走の軌跡を刻んでいた。
光と影、響く足音、曲がり角の瞬間――すべてが彼らの疾走を拒絶するように遮り、それでも少年は、前へ前へと泥を蹴るように足を運び続けた。




