147.閑話 南洋の翠海バカンス前編
# 閑話「南洋の翠海バカンス~大学生6人組の豪州旅行記(前編)~」
### 1.深夜23時の羽田空港と、6人の交差点
2025年2月、春休み。
真冬の冷たい風が吹きすさぶ羽田空港の第3ターミナルは、深夜にもかかわらず特有の熱気と静寂が入り混じっていた。
『――ご案内いたします。23時45分発、鳳凰国際航空(FIL)803便、豪州・翠海行きにご搭乗のお客様は、搭乗口112番へお越しください。深夜便につき、機内ではお静かにお過ごしいただきますようお願い申し上げます……』
落ち着いたトーンの空港アナウンスが響く中、搭乗ゲート前のベンチには、旅行サークルの仲良し6人組が集まっていた。
「よし、皆揃ってるな? 深夜便はゲートが閉まるの早いから気をつけていこう」
グループの中心で優しく声をかけるのは、**健人**。165cmと小柄で黒髪短髪、一見すると真面目な優等生だが、実は学生ながら株でしっかり稼いでいる頭脳派だ。サークルの頼れるリーダーである。
「健人、みんな揃ってるよー!航空券の準備もバッチリ!」
隣でテキパキと動くのは、健人の彼女である**結衣**だ。170cmの長身にサラサラの茶髪、涼しげな塩顔美人。真面目で面倒見が良く、健人とはサークル公認の「お似合いカップル」として周囲を和ませている。
「わぁぁ……! ついに南半球! 日本の冬服、早く脱ぎたーい!」
金髪のショートヘアを揺らして、長身をピョンピョンと跳ねさせているのは、ロシアからの留学生・**アンナ**。175cmというモデル体型と、まるで宝塚の「王子様」のような圧倒的美貌を持つ彼女だが、中身は可愛いものが大好きな乙女だ。
「あっ……!」
はしゃぎすぎたアンナの手から、パスポートと搭乗券がポロリと滑り落ちる。
「……おいおい。飛行機乗る前から何落としてんだよ、アンナ」
床に落ちたそれをサッと拾い上げたのは、**俊樹**だった。170cmの黒髪長髪で、鋭い三白眼の「いかつい顔」をしているが、実は運動神経抜群で誰よりも周囲を見ている気配りの男だ。
「スパシーバ、俊樹! えへへ、また助けられちゃった」
アンナがふにゃっと笑うと、俊樹は「落とすなよ」とぶっきらぼうに返しつつも、その視線はどこか優しく彼女を見守っていた。
「ねえねえ翔! 向こう着いたら、一番に写真撮ろうね! 見てこれ、翠海用に買った新しいネイル!」
「お! すげえ派手で似合ってんじゃん。でもまずは海だろ! 早く泳ぎてえ〜!」
そんな甘酸っぱい空気を笑い声で満たしているのが、最後の二人。
185cmの金髪で筋肉ムキムキ、歩くプロテインのような体育会系の**翔**。そして、彼に腕を絡ませているのは、155cmと小柄ながらも圧倒的なプロポーション(巨乳)で他サークルの男たちの視線を釘付けにするギャル系の**莉愛**だ。
莉愛は翔にベタ惚れで猛アピール中なのだが、翔自身は彼女の好意に「なんとなく」気づきつつも、今は特定の誰かというより「このサークルの6人でワイワイやるのが最高に楽しい」というスタンスの、良くも悪くもカラッとした男だった。
「おら、お前ら! 搭乗始まるぞー!」
健人の声で、6人は真冬の日本から、真夏の南洋へと旅立った。
### 2.大珊瑚国立公園と、絶品・南洋海鮮バイキング
翌朝午前5時。深夜便特有の寝不足と興奮が入り交じる中、翠海国際空港に降り立った6人を、むわっとした熱帯の夏の空気が包み込んだ。
彼らはホテルに荷物を預け、すぐに港へと向かった。
今日のメインイベントは、帝国が世界に誇る**『翠海大珊瑚国立公園』**の遊覧ツアーだ。
『――本日は環境省指定遊覧船「オーシャン・エンプレス号」にご乗船いただきありがとうございます。まもなく本船は、沖合の「緑の島」に到着いたします。大珊瑚国立公園は、帝国の厳格な自然保護法によって管理されております。珊瑚の上に立つこと、指定区域外での遊泳は法律で禁止されておりますので……』
船内アナウンスが流れる中、デッキに出た6人の目に飛び込んできたのは、信じられないほど透明なエメラルドグリーンの外洋だった。
「うおぉぉぉ! マジで透き通ってやがる! みんな、シュノーケルの準備はいいか!?」
ガチ勢の翔が、誰よりも早くラッシュガードを着込んで叫ぶ。
「翔、待ってよぉ〜! ゴーグルのサイズ合わないかも!」
莉愛がわざとらしく上目遣いで翔の袖を引っ張る。
「ん? 貸してみろ。……あー、ここをこう引っ張れば……よし、これでピッタリだろ? アンナも結衣も、ゴーグル曇り止め塗ったか?」
翔は莉愛の面倒を見つつも、持ち前の面倒見の良さでサークルの女子全員に気を配る。莉愛は「ありがとう!」と笑いつつ、(もうちょっと私だけを見てほしいなぁ)と心の中で少しだけ唇を尖らせた。
海に入ると、視界を埋め尽くす色鮮やかな珊瑚礁と、ウミガメ、そして無数の熱帯魚たちが歓迎してくれた。
「わぁっ! 俊樹見て、ニモ(クマノミ)がいるよ!」
海の中でテンションが上がり、バシャバシャと泳ぎ回るアンナ。
「おいアンナ、あんまり沖に行くな。潮が早いから俺の近くにいろ」
俊樹が、文句を言いながらもアンナの少し後ろをピタリとマークして泳ぐ。健人と結衣は二人で手を繋ぎながら、ゆったりと海中散歩を楽しんでいた。
一日中、海でバナナボートやSUPを遊び倒した夜。
一行は海沿いのリゾートホテルに戻り、健人の「株の利確記念」のおごりで、豪華な海鮮バイキングのテーブルを囲んでいた。
「みんな、初日お疲れ! 乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
テーブルの上には、この近海で獲れたばかりの南洋シーフードが山のように積まれている。
「ねえこれ、めっちゃ美味しい! エビなんだけど、なんか平べったい!」
莉愛が頬張っているのは、『モートンベイ・バグ(ウチワエビモドキ)』のガーリックバター焼きだ。
「こっちの『マッドクラブ(泥蟹)』のチリソース炒めも最高だよ! 殻固いけど、身がぎっしり詰まってる!」
健人がカニ用のハサミと格闘しながら笑う。
「この白身魚のお刺身、『コーラルトラウト(スジアラ)』っていう高級魚なんだって。ハタの仲間だから、プリプリしてて日本の醤油にもよく合うわ」
結衣が綺麗に取り分けた皿をみんなに回す。
「俺はこの『バラマンディ』のハーブロースト一択だな! 身がフワフワでビールが止まんねえ!」
翔は巨大な白身魚の塊肉を豪快に平らげ、6人の夜は笑い声とともに更けていった。
### 3.キュランダの女子トークと、欧州の残り香
翌朝。今日は海から一転、熱帯雨林の山側へと向かう。
翠海駅から彼らが乗り込んだのは、国土交通省の認可を受けた観光鉄道『キュランダ景勝鉄道』だ。
シュッシュッ、ポッポッという力強い音とともに、年代物(1890年代から)の木造客車がゆっくりと熱帯雨林の山を登っていく。窓から吹き込む熱帯の風が心地よい。
到着したキュランダ国立公園の村は、先住民族の造形と南洋の文化が入り交じる、色鮮やかな観光地だった。
女子4人のテンションが一気に上がる。
「見て見て! このマカダミアナッツのオイル石鹸、すっごくいい匂い!」
結衣が、ユーカリとティーツリーの香りがする石鹸を手に取って微笑む。
「結衣先輩、こっちのパレオ(腰巻き)も可愛くないですか!? 海で水着の上から巻いたら絶対映えますよ!」
莉愛が、鮮やかなハイビスカス柄の布を体に当ててポーズをとる。
「わぁ……この木彫りのドリームキャッチャー、窓辺に飾ったら素敵かも……!」
アンナが、美しい鳥の羽があしらわれた民芸品を見つめて目を輝かせていると、後ろから俊樹がひょいっと顔を出した。
「……買えばいいじゃん。荷物になるなら、俺がリュックに入れて持っててやるよ」
「本当!? 俊樹! じゃあこれ買う!」
そんな二人のやり取りを見て、健人と翔は「あいつら、いつ付き合うんだろうな」と小声で笑い合っていた。
コアラとの記念撮影や、じゃらん的な帝国最大級の予約サイト『帝旅ネット』で予約しておいたカンガルーとワニのBBQランチを満喫した後、近代的なスカイレールで翠海市街へと戻った6人。(帝国では世界2位の人材サービス企業の帝旅と、ITに覇権を轟かす楽天、オランダに本社を置き、EU加盟国内で強いBooking.comが3強として君臨している。)
今日のディナーは、翠海の街中にひっそりと佇む『18世紀から続く古き良き欧州風コース料理店』だ。
「南洋のリゾートなのに、なんか急にヨーロッパみたいなお店だね」
アンナがキョロキョロと店内を見回す。
「ここはね、ポルトガル料理がメインなんだよ」
健人が、メニューを開きながら解説を始めた。
「昔、帝国の富裕層が避寒地としてこの南の海へ来た時、『せっかく南国に来てまで日本料理は食べたくない』ってワガママを言ってね。そこで、東南アジアやマカオ周辺にいたポルトガル人やスペイン人の料理人たちが呼ばれて腕を振るったのが始まりなんだ」
「へえー! だから、魚介ベースなのにニンニクやオリーブオイルが効いてるんだね!」
結衣が感心して頷く。
「そう。それに日英同盟の後には英国人が、第二次大戦後にはイタリア人なんかも流れてきて、独自の『翠海ユーロ・ミックス』の食文化が根付いたってわけさ」
運ばれてきたのは、干し鱈とジャガイモを卵でとじたポルトガルの伝統料理『バカリャウ・ア・ブラス』や、豪快な肉の串焼き『エスペターダ』、そして近海で獲れたエビのガーリックオイル煮。
歴史のロマンを感じながら、6人は絶品のコース料理に舌鼓を打った。
### 4.サークルの夜と、ディスコの熱気
美味しいディナーを満喫し、店を出た後のこと。
「よっしゃー! 飯も食ったし、今夜は翠海の夜の街に繰り出すぜ! なんか海沿いに、ドレス着た綺麗なお姉ちゃんがいっぱいいるバーがあるらしいじゃん!」
翔が、テンション最高潮で夜の歓楽街の方向を指差した。
その瞬間、莉愛が翔の太い腕をガシッとホールドした。
「……はぁ!? 翔、バカなの!? 私たちがいるのに、他のお姉ちゃんがいる店なんか行かせないからね!!」
「えっ、いてて! なんで怒ってんだよ莉愛!」
「ほら、向こうに古き良きディスコがあるみたいだから、サークルのみんなでそこで踊るよ!!」
莉愛が強引に引っ張ると、翔は「あー、わかったわかった! 引っ張んなって!」と笑いながら抵抗を諦めた。
「まあ、ディスコも楽しそうだな! 俊樹、アンナ、お前らも来るだろ!?」
翔が振り返って声をかけると、アンナがパッと顔を輝かせた。
「行く行く! ロシアのクラブとは違うのかな? 俊樹も行こう!」
「……お前が変な男に絡まれたら面倒だからな。監視役としてついてってやるよ」
俊樹は相変わらずぶっきらぼうだが、その口元は少しだけ嬉しそうに緩んでいた。
「健人たちも来るか?」
翔の誘いに、健人は隣の結衣と顔を見合わせてクスッと笑った。
「俺たちは、ちょっと食べ過ぎたから少し散歩してからホテルに戻るよ。お前ら、ハメ外しすぎて明日の朝寝坊するなよー!」
「おう! じゃあ後でな!」
わちゃわちゃと騒ぎながらネオン街のディスコへと消えていく4人の背中を見送り、健人と結衣は二人きりになった。
「さて、私たちは静かな夜を楽しもうか」
「うん。海沿いの遊歩道、ライトアップされてて綺麗だよ」
健人は、結衣の細い手を優しく握った。
波音が響く南洋の夜風に吹かれながら、二人は満天の南十字星を見上げ、恋人同士の静かで甘い時間をゆっくりと歩んでいくのであった。




