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110.要塞地球の完成――鉄のカーテンと五つの巨大盾

# 海洋帝国日本史 第十一章:冷たい方程式と拡散する悪魔の火


## 第八話:要塞地球の完成――鉄のカーテンと五つの巨大盾(1954年〜1955年)


### 1.単独国家の死と、巨大な傘への渇望(1954年)


1954年。

中国大陸で数百万人の若者が血を流し、大国たちの都合で「1ミリの国境線も変わらずに」終わった中華紛争の結末は、地球上のすべての中小国に、極めて冷酷な一つの真理を叩き込んだ。


『――核保有国(超大国)の庇護なき国家は、いかなる正義を掲げようとも、一夜にして地図から消え去る運命にある』


もはや、一国の軍隊の勇気や、愛国心だけで自国の領土を守れる時代は完全に終わった。

ヨーロッパの小国も、アジアの新興国も。政治家は青ざめ、軍の将官たちは自国の兵器の無力さに絶望し、そして何より、メキシコの核の閃光を新聞で見た一般国民たちが、巨大な恐怖に震えながら「絶対的な安全保障の傘」を渇望した。


「……我々だけでは、ソビエトの赤い戦車は止められない! 大日本帝国よ、どうか我が国を守ってくれ!」

「条約を結べ! 軍事同盟という名の、分厚いコンクリートの壁を築くのだ!」


かくして世界は、イデオロギーと核の恐怖を接着剤として、複数の国家が主権の一部を放棄してでも巨大な一つの防衛陣営に統合される、**『巨大軍事機構メガ・アライアンスの時代』**へと雪崩を打って突入していったのである。


### 2.東の絶対防波堤――EATO(極東条約機構)の誕生(1954年)


1954年秋。

大日本帝国の帝都・東京において、アジア太平洋の運命を決定づける巨大な軍事同盟が調印された。

**『極東条約機構(EATO:East Asian Treaty Organization)』**の設立である。


「……これより、我々加盟国に対するいかなる武力攻撃も、大日本帝国に対する直接攻撃とみなし、帝国軍がただちに報復攻撃(核報復を含む)を行うことを宣言する」

霞が関の将軍府で、帝国の首脳が高らかに宣言する。


この条約により、大日本帝国を盟主として、**大韓民国、満州国、極東ロシア王国、北中華連邦、そして新たに独立したインドシナ三国(ベトナム、ラオス、カンボジア)**が、完全に一つの強固な軍事ネットワークとして統合された。

帝国の資本と技術によって完全武装した彼らの陸軍力は、総計数百万人規模に達し、ユーラシア大陸の東半分を覆う「反共の巨大な防波堤」を完成させたのである。


さらに、この調印式には、もう一つの極めて重要な国家の代表が、苦渋の決断と共にペンを握っていた。

アメリカのくびきから独立を果たした、**フィリピン共和国**である。


「……我が国は本来、特定の超大国に与しない『全方位外交』を国是とするつもりであった」

フィリピン大統領は、調印の直前、帝国の特使に対して本音を漏らした。

「しかし、中華情勢は複雑怪奇であり、ソビエトの影もある中で、我々のみが独自に動くことは難しい。」


フィリピンは、自国の生存という極めて現実的な計算に基づき、かつての支配者であったアメリカではなく、現在アジアで最も強力で、最も経済的な恩恵をもたらす「大日本帝国の巨大な盾(EATO)」の内側に入ることを選択した。

これにより、日本の絶対国防圏は、東南アジアから極東に至るまで、完全に隙のない鋼鉄の要塞と化したのである。


### 3.西の重装盾――NATO(北大西洋条約機構)の成立(1955年)


そして年が明けた1955年。

ユーラシア大陸の反対側、ヨーロッパにおいても、ソビエトの西進を食い止めるための巨大な軍事同盟が産声を上げた。

**『北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)』**である。


加盟国は、**大英帝国、アイルランド、ドイツ第三帝国、ベネルクス三国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)、北欧連合(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド)、そして中欧のポーランド、オーストリア、ハンガリー**という、凄まじい顔触れであった。


このNATOの軍事的な中核メインエンジンは、大きく二つの強力な軸によって構成されていた。

一つは、大英帝国と北欧連合を中心とする『海洋・航空防衛戦力』。

もう一つは、ドイツ第三帝国が主導し、ポーランド、オーストリア、ハンガリーを束ねた、強烈な反共意識と圧倒的な機甲師団を持つ『中欧同盟軍(陸戦の絶対的主力)』である。


「……ゲルマンの戦車軍団と、大英帝国の航空部隊が完全にリンクした。これで、ソビエトの赤い雪崩がエルベ川やヴィスワ川を越えてくることは不可能だ」

ロンドンのダウニング街で、イギリス首相とドイツ総統が固い握手を交わした。


第二次世界大戦で共闘したイギリスとドイツ。彼らがここまで強固な「蜜月関係」を築き上げることができた裏には、**大日本帝国の極めて老獪な『仲介(バランサー外交)』**が存在したことは言うまでもない。


「……イギリスとドイツが争えば、漁夫の利を得るのはソビエトだ。我々大日本帝国は、未来に渡り英独両国との友好関係を維持し、共存し繁栄するのである。」

大日本帝国は、日英同盟と日独防共協定という二つのパイプを最大限に活用し、日英独という世界の資本主義国家の中でも強い3カ国を完全に結びつけたのである。


### 4.日英独の不可視の枢軸


「……ならば、EATOとNATOを完全に合体させ、ユーラシアを包囲する『地球規模の単一軍事同盟』を創ればよいのではないか?」

一部の政治家からは、そのような巨大統合案も出された。


しかし、日・英・独の軍首脳部は、それを極めて冷徹な理由で却下した。

「……規模が巨大になればなるほど、意思決定(指揮系統)は肥大化し、官僚主義に陥って身動きが取れなくなる。アジアの有事にヨーロッパの承認を待っていては、軍隊は全滅してしまう」


EATOとNATO。

この二つの軍事機構は、組織の枠組みこそ別々に分かれていたが、その最上層部においては、大日本帝国、大英帝国、ドイツ第三帝国という『事実上の三国同盟(日英独の世界枢軸)』によって、軍事ドクトリンから核兵器の運用プロトコルまでが、完全に、そして緻密にリンク(連動)していたのである。


彼らは、適度な規模による「動きやすさ(機動力)」を維持しながら、ユーラシア大陸の東西からソビエトを万力のように締め上げる、完璧な要塞システムを構築した。


(※ちなみに、フランスはドイツの完全な属国として実質的にNATOの傘下に組み込まれており、スペインは独自の核兵器を盾に「誰とも敵対しないが、誰の命令も聞かない」という孤高の立場を維持。イタリアは欧州の端っこで微妙な立ち位置に甘んじていた。)


### 5.モスクワの鎖――MTO(モスクワ条約機構)の対抗


資本主義陣営が東西で巨大なブロックを完成させたことに対し、モスクワのクレムリンも即座に反応した。


1955年。

スターリンは、第四インターナショナルに参加する国家群を、より強力かつ強制的な軍事統制下に置くための機構、**『モスクワ条約機構(MTO)』**の設立を宣言した。


「……ブルジョワの豚どもが、我々を包囲しようと企んでいる。我々プロレタリアートも、決して砕けることのない一枚岩の軍事同盟をもって、これに対抗する!」


ルーマニア、トルコ、ブルガリア、シリア、イラク、そして広大な中央アジアと中華人民共和国、南米各国。

MTOの設立により、ソビエトの赤軍将校がこれらすべての加盟国の軍隊の指揮権を事実上掌握し、スターリンの命令一つで数千万の兵士が動く、人類史上最も巨大で、最も中央集権的な軍事ブロックが完成した。


しかし。

スターリンのこの「地球の半分を赤い鎖で縛り上げる」という計画には、一つだけ、彼のプライドを激しく傷つける『計算外のほころび』が存在していたのである。


### 6.ジャングルの異端児――南米連合と社会主義の分岐


「……モスクワ条約機構(MTO)への加盟?それは良いが、我々は我々で南米という一つの連帯を作らなければならない。」


地球の裏側、南米大陸。

アルゼンチンから始まり、ブラジル、そしてメキシコ南部までを真っ赤に染め上げた『南米赤軍』を擁する南米の社会主義国家群は、スターリンからのMTO合流の要求を飲みつつも独自の動きを秘密裏に目指したのである。


「……本質的に我々が目指すのは、モスクワの官僚主義的な独裁(ロシア帝国主義)ではない。ラテンアメリカの独自の血と情熱に基づいた、我々自身の**『南米型社会主義』**だ」

彼らは、ソビエトからの武器や資金援助は喜んで受け取るものの、国家の主権や軍の指揮権をモスクワに明け渡すことだけは絶対に拒否した。


そして1955年。

南米の国々は、モスクワのMTOとは異なり地域性の強い、自らによる独自の軍事・経済ブロック**『南米社会主義連合(SASU)』**の設立を宣言した。


「……ただのジャングルのゲリラ上がりどもの浅知恵か。」

スターリンは興味を示さなかった。彼にとって、南米の連中は「アメリカを牽制するための便利な手駒」に過ぎなかった。ソビエトの指導部は、彼らの独自のイデオロギー(南米系社会主義)の持つ「爆発力」を、この時点では完全に甘く見ていたのである。


しかし、この『同じ共産主義陣営でありながら、モスクワとは異なる考え方の土壌の形成を許した連合』の誕生は、のちの冷戦後期において、ソビエト自身を内側から苦しめる極めて厄介な火種となっていく。


### 7.傷ついた鷲の引きこもり――NAFTA(加米墨同盟)の要塞化


そして、世界が巨大な軍事ブロックへと再編されていく中。

かつて世界に君臨した超大国・アメリカ合衆国は、他の大国たちとは全く異なる、極度な『パラノイア(被害妄想的孤立主義)』の防衛体制を構築していた。


「……海の外の戦争など、もうどうでもいい。我々は、我々の足元だけを守り抜く」


トルーマン大統領(あるいはその後継政権)は、ヨーロッパのNATOにも、アジアのEATOにも一切関与せず。

代わりに、北の**カナダ**、そして南米赤軍によって南部を奪われ、残された北半分の**メキシコ(臨時政府)**と、三カ国による強固な軍事・経済・安全保障のブロック**『加米墨同盟(NAFTA:North American Fortress Treaty Agreement)』**を締結した。

(※史実のNAFTAは自由貿易協定だが、この世界線では『北米要塞条約機構』としての性格が極めて強い)。


アメリカは、大西洋とカリブ海に無数の核搭載潜水艦を配備し、メキシコの国境線には文字通り「万里の長城」のごとき分厚いコンクリートの防壁と、自動機関銃座を何千キロにもわたって構築した。

彼らは、巨大な「北米大陸という要塞」の扉を内側から固く閉ざし、赤い影に怯えながら、レッドパージの嵐の中で、終わりのない猜疑心と兵器の増産にのみ没頭していったのである。


### 8.エピローグ――静止した地上のチェス盤(1955年)


1955年末。

地球上のすべての国境線は、巨大なコンクリートと鉄条網、そして核ミサイルの照準によって、完全に、そして永遠に固定化された。


ユーラシアを東から守る『EATO(極東条約機構)』。

西の重装要塞『NATO(北大西洋条約機構)』。

巨大な赤い鎖『MTO(モスクワ条約機構)』。

モスクワから自立した異端の赤『南米連合』。

そして、怯える巨大な鷲の要塞『NAFTA(加米墨同盟)』。


もはや、地上において一国の軍隊が前進し、領土を奪い合うような「旧来の戦争」が起きる余地は、地球上のどこにも残されていなかった。少しでも境界線を侵せば、即座に大国同士の核の撃ち合い(人類滅亡)へと直結するからである。


「……地上のチェス盤は、これ以上動かすことはできない。勝負は【引き分け(ステイルメイト)】で固定されたのだ」


大日本帝国の将軍府も、モスクワのクレムリンも、ロンドンの首相官邸も。

彼らは、地上の地図から視線を上げ、遥か上空――真っ暗な『宇宙空間』と、自国の巨大な実験室へとその眼差しを移した。


領土を奪い合う戦争から。

どれだけ高くロケットを飛ばせるか、どれだけ国民を豊かにできるかという、『科学技術と経済力による、血を流さない果てしない死闘』へ。


人類の歴史は、兵器による破壊の時代を完全に終え。

次なる第十二章、宇宙開発と高度経済成長がもたらす『黄金と狂気の冷戦レース』へと、その舞台を急激にシフトさせていくのである。


(第十一章 第八話 完)

(第十一章 冷たい方程式と拡散する悪魔の火 完)


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