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白の賢者と第四白波学園事件4

「ダイジョブかー賢者?いたいのいたいの飛んでいった?」

「ああ、少しはマシになってきた」


 白葉の腕へ乗せたマガリの手。

 コートを脱いだ白葉の腕には、ボールペンで書いた無数の術式の羅列が根のように走っている。

 マガリと白葉が互いに知恵を絞り、即席で練った治癒魔法だ。


 ボールペンで患部である腕へ直接印を書き込み、マガリと白葉とで魔力を循環させるという回路を作ることでどうにか間に合わせている。


 治しているのは、マガリの空中浮遊で白葉が負った傷だ。

 精密検査無しなのでどうとも言えないが、やはり内側で筋が幾らか千切れていたらしい。


「にしても、治り遅くない?もっとぱぱーっと治せんもんかね?なあ賢者。」

「俺もお前も門外漢だろう……。」

「漢じゃない漢じゃ。」


 唇を尖らせるマガリに、白葉は再び額に青筋を立たせた。


「そもそもお前があんな無謀をやらかしたのがな……」


 言いかけて黙る。


 今さら文句を言っても仕方がない。

 白葉は黙って腕の修復に集中した。


 数分後。

 白葉の傷が完治すると、二人は《地獄への縦穴》最深部の床の上に立った。


 ここへ来てひとつだけ分かったことがある。

 先程からけたたましく鳴り続けている警報。これは白葉たちの侵入によるものではないらしい。


「落ち損だったね賢者。」

「お前が言うな、お前が!」


 だが、だとしたらいったい何があって警報が作動したのか。

 悪い胸騒ぎがするのだが、ここまで来ては手ぶらでは帰れない。


「行くぞ、マガリ。さっさとその魔動機を回収して帰る。」

「ああ、そうしよう。マガリさんね、帰ってから賢者からもらった飛行魔法をデバイス化したいんよ。ね、それでいつでも飛べるじゃん?」

「……悪用だけはしてくれるなよ、頼むから。」

「さあ?マガリさん悪用の意味わかんな~い。」

「あぁ……失敗した。」


 白葉は頭を掻いた。


「で、マガリ」

「うん?」


 立ち上がったまま一向に歩き出さないマガリを見つつ、白葉は訪ねる。


「何処へ向かう。」


 360度、円になった壁全面に通路の入り口らしきものがある。

 恐らく、その通路の先にも独房やら金庫やらが幾つもあるに違いない。


 さて、果たしてマガリの言う魔動機が何処に仕舞われているのか、と言うことだ。


 悪い予感を覚える白葉に、マガリは何処かひきつった笑みを浮かべる。


「なんか想ったより広いな、賢者。」

「ああ、広いな。で、魔動機は何処にある?」

「それにしても、ここって普通のムショみたいに運動時間とかあんのかね?やっぱ室内かな?」

「恐らくな。で、魔動機は何処にある?」

「ていうかここに捕まる奴って……」

「マガリ」

「はいはい、マガリさんにおまかせー」


 いよいよ具合悪そうに汗を流すマガリに、白葉は顔を近付けた。

 酷く恐ろしい顔である。


「おまえ、ここまでダイブさせといて何処にあるかわからんなんて言わんよな?」

「いや……それはその……」




「……最悪だ。」


 マガリの返答は白葉の気力を根こそぎさらっていった。


「わからない」らしい。


「だってさだってさ!国家機密よ?マガリさんが知るわけないじゃん!」

「知るわけないっておまえな!最深部だってことは知ってるんだろ!?」


 しかし、そこでマガリの視線が横に逃げる。


「……その辺にはあるんじゃないかな~、みたいな。マガリさんの勘はそう言ってマシタ……」

「マガリおまえぇぇええ!?」


 絶叫しながらマガリの胸ぐらにつかみかかった。


「おまえ場所も分からんのにここまで突っ込んできたのか!?自信満々だからてっきり知ってるのかと思ってたぞ俺は!!」

「だっ、だってさ!ここにはあるはずなんだよ!ね!?探せば出てくるよ絶対!」

「探すって、おまえここどれだけの規模があると思ってんだ!?しかも全部金庫だぞ!?開けるだけでも時間が……」


 白葉が言いかけたその時だった。



 二人を囲む全方向からブザーが響いた。


「!?」

「な、なんだなんだ!?」


 慌てて見回すと、閉じられていた通路や扉が次々と開いていく。

 もちろん、独房のガラス扉も。


「これって……」


 突然の出来事に口を開けるマガリ。


「賢者……おまえの魔法……?」


 しかし、白葉も首を横に振る。


「いいや、俺じゃない」


 では、誰が何のために


 それを曲りが口にしようとした瞬間。

 耳をつんざくようなノイズを発しながら、所内放送のスピーカーが起動する。


『ーーーえぇ、おはようございまーす!囚人のみなさん、いかがお過ごしでしょうかー?』


 聞きなれない男の声が言い、それに釣られるように牢の外へと出る囚人たち。


「け、賢者……!?」

「黙れ、静かに。」


 白葉は既に状況を飲み込みつつあった。

 どこから発せられているのか、放送は続く。


『さて、見ての通りでございます。

 今日からみなさんは、晴れて自由の身でーす!やったー、いえーい!!はい、盛り上がってねー、拍手しよう!』


「間が悪すぎるだろ……クソ!」


 マイクの向こう側で、男は言った。


『そいうことだからね。じゃあ、僕たちに着いてきて。これからみんなにはある人の誕生日パーティーに出席してもらうよ!さあ行こう、みんなで歴史に名を刻みに!』


 史上最悪の刑務所破りが、たった今敢行されたのだ。




「どうする賢者?」


 問い掛けるマガリに、白葉は短く考える。


 何故だ。

 誰が、何のために、こんなことを。


 白葉は意識を集中する。

 スピーカーの向こう側にいる人物を覗こうと試みるが、あと一歩のところで届かない。

 解放された囚人たちの昂りが邪魔だ。


 だが、そんな中。

 白葉はある気配の接近に気がついた。


「……まさか……」


「賢者、いったい……」


 弾かれるように動いた白葉の手が、マガリの体を突き飛ばした。


「っ!?」


「逃げろ、マガーー」





 白葉の声が、降り注いだ轟音に掻き消された。


 床を滑ったマガリは、頭を振って白葉の方へ視線を向けた。


「賢……」


 しかし、その目に飛び込んできた光景に言葉を失う。


 氷山。


 巨大な氷の塊だった。


「け……」


 胸の奥で、言葉は悲鳴に変わった。


「賢者ーー!!」




「ああ。何だか呆気ないもんだね。」


 その真上、氷の足場の上で少年は目を細めていた。


 ほんの挨拶のつもりだったのだが、まさか女を庇ってまともに食らうとは。


 流石の白葉マサヨリといえど、直撃を食らえば無傷ではいられまい。


「本当に、寂しい……」


「"寂しいやつだね"……て?」


 紅蓮の炎が渦巻き、氷塊が砕け散った。

 透明な破片は、散らばると共に蒸発し霧散する。


「冗談こけ。こんなふざけた挨拶があるもんか。」


 幾つもの鉄線で編まれた繭がほどけ、無傷の白葉がコートの襟を正していた。


「……へぇ。防ぐんだ、今の」


 黒髪の少年は氷の足場を降りると、白葉の前にふわりと着地した。


「ここで会えるとは思ってなかったよ。マサヨリ。」


 白葉マサヨリは少年を見つめる。

 胸の奥が、冷たく凍るような感覚。

 何十年も繰り返してきた感覚だ。


 一度死した狂気の賢者が終わりを迎えること拒み、そして再び人の形をしてこの世に生まれ落ちる。ひたすらに終わりのない始まりが繰り返す、そんな連鎖がこの歪な存在を作り上げる。


 幼い少年の姿の内側に渦巻く、遥か過去から引き継がれてきた狂気。


 見紛うことはない。

 歯車計画の中止によって狂気にあてられた賢者。


「……イサナ」


 白葉はその名を口にした。


 黒の賢者、黒絃(クロイト) イサナ。

 かつての白葉の仲間であり、友人であり、因縁の相手。


 全身に冷気のベールを纏いながら、黒絃は狂気に歪んだ笑みを浮かべた。


「やあマサヨリ……今日こそは殺されてくれないかな?でなきゃ……」


 その頭上に幾つもの氷柱の槍が産み出され、白葉へと襲い掛かる。


 白葉は無数の焼けた鉄線でそれらを打ち落とす。


 この鉄線は情報体や法則を破壊、拘束する魔法で出来ている。

 つまり、相手を物理的に打つだけでなく、概念部分へ深いダメージを与える事ができる。


 もちろん儀式、術式という情報の塊である『魔法』に対しては高い破壊能力を持つ。


 砕けた氷の向こうで、黒絃は次なる魔法を練る。


「俺はこの世界を終わらせられないじゃないか」


 拳大の氷の塊が無数に生成され、弾丸の様に放たれる。


「……チッ」


 鉄線を編み込む様にした盾で攻撃を凌ぎながら、白葉はマガリの方へ目をやる。


「賢者、そいつは?」

「来るな!!」


 白葉の声に、マガリの足が止まった。


 猛攻を耐えながら、白葉は言う。


「こいつはおまえの手に負える相手じゃない!それより、さっさと行け!!」

「でも……」

「行け!」


 マガリはその場で戸惑うようにしていたが、やがて意を決したように踏み出した。


「死ぬなよ!死んだら許さないからな!!」

「誰に口聞いてるつもりだ!」





 魔力で産み出された炎と冷気が衝突を繰り返す。


「……クソ」


 白葉は相手の魔法の性質を知っている。


 あの冷気はただの温度変化による物ではない。


 《零域(レイイキ)

 あらゆる『力』の概念を零に還元する広範囲影響型の魔法。

 熱、速度、衝撃、圧力、天の公式に属する『力』の概念は全てその魔法の対象となりうる。


 冷気に見えるのは、"熱"に対して作用する《零域》の効果範囲だ。

 掠めでもしたら、一瞬にして熱を奪われ命はない。


「イサナ、おまえどうやってここまで入った。おまえは人間を殺せないはずだ。」


「そうだね……ああ、確かにそうだよ。」


 長く伸びた髪の毛を背に払うと、彼はニヤリと笑った。


「俺だけじゃここの警備は突破できなかった。けど、今回は協力者がいてね?」

「協力者?……ぐっ!?」


 黒絃の放った冷気の波が白葉を襲った。


「もうやめろ、イサナ」


 白葉の声の声と共に、無数の鉄線が黒絃へと襲い掛かる。


「こんなはずじゃ無かっただろう……俺たちは、世界を変えたかったんだろう!?救いたかったんだろう!?違うのかイサナ!!」


 冷気の渦が鉄線を凍らせ、その動きを封じる。

 白く霞む絶対零度の中で、黒絃の口が動く。


「マサヨリ……おまえは昔から変わらない。」


 沈んだ口調に続き、凍った鉄線が粉々に砕かれた。


「おまえはなにも見ちゃいない。いや、見ようとしなかった。知ろうとしなかった。

 ……だから、救おうとしていた物の価値さえ計りかねたんだろうね……。」


 深く淀んだ目で白葉を見上げ、彼は口にする。


「こんな世界に価値なんて無かったよ……俺は見たんだ。あの日、この目で。」

「いったい何を……」

「マサヨリ、おまえに分かるか?全てに裏切られた絶望が!裏切られて、奪われる苦しみが!」


 その叫びに乗った感情が魔力を荒立て、辺りを真っ白に凍らせていく。


「おまえに!!」


 凍り付く空気の中で、突然白葉が足を踏み出した。


「……!?」

「知るか、全くもって……」


 白い冷気のベールを無理矢理に貫いて、白葉は拳を振り上げた。


「わからん!!」


 腕が凍り付いていくこともいとわず、白葉の拳がその頬を思いきり殴り付けた。


「がっ!?」


 少年の体は滑るように床を転がる。

 白い霜の走った拳を握ったまま、白葉は肩で息をした。


「おまえが何を見たのかなんて、全然分からん!

 けどな、俺には責任がある!おまえがこうなる前に止めてやれなかった責任が!」


 凍りついた手を炎が包み、白い霜が泡立つように消える。


「おまえがそうやって狂い続けるなら、俺がおまえを止めてやる!何百年でも、何千年でも、おまえの狂気に付き合う!

 昔のおまえが全部をかけた世界だ……それを、簡単にどうにかされて堪るか!……俺の知ってる黒絃イサナの信念にかけて、それだけは許さん!」





「クソッ、この刑務所広すぎるだろう……!」


 当てずっぽうに選んだ通路を進みつつ、マガリは舌打ちをしていた。


 この広い刑務所のどこかに、自分が作り出した魔動機が仕舞われている筈なのだ。

 だが、それが何処なのかがさっぱり分からない。


「こんなときに限って刑務所破りなんてバカやらかす奴も出てくるしさ!ああ、もうわけわからん!!」


 だが、好都合な点もひとつあった。

 どうやら、監房のロックと同時にそれ以外の場所も全て解錠されたらしく、金庫の扉も簡単に開くようになっていた。


「……だからって全部探すってのはね……」


 呟いていたが、その時ふと何かの気配に足を止めた。


 カツカツと床を鳴らす硬い足音と、細かな機械の駆動音。

 そして、確かに感じる独立した魔力の気配。


「……自律内蔵魔動機(ゴーレム)?」


 警備用の物だろうか。

 通路の奥からそれと思わしき気配が伝わってくる。


 だとしたら、かなり厄介だ。

 いくらマガリとはいえ、丸腰の状態で武装したゴーレムを倒すのには無理がある。


 かといって、上手く誤魔化す技術があるわけでもない。


「しょうがないな……」


 マガリはポケットから糊付けされた付箋紙を何枚か取り出し、ボールペンで複雑な式を書き込んでいく。


 即興の爆破魔法付箋紙。

 こいつを貼り付けて爆破する。

 どこまで効果があるかは分からないが、何枚か纏めて貼れば室内戦規模の装甲ならどうにかなるだろう。


「んじゃ……マガリさんも腹括りますかね……」


 タイミングを計ろうと顔を覗かせたが、その時だった。


『ん?』

「あちゃ。」


 360度全方向を見渡す八眼のカメラレンズとマガリの視線が衝突した。


『あれ、おかしいな。すごい美人がいる。』


 細身の人型(マリオネット)タイプのゴーレムは、その関節を柔軟に動かしながら、まるでバレエダンサーの様に振り向いた。


 バレた。


「本当に運がないな、今日は……」


 いざとなったら投げつけてやろうと手にした付箋を握りながら、マガリは仕方なくそのゴーレムの前に出た。


「それにしても……その反応。あんた、ただのゴーレムって訳じゃないでしょ?ていうか、ここの警備の奴でもない。量産機にしては立派過ぎるし。」


 マガリの指摘に、そのゴーレムは生きた人間のように首を傾げて見せた。


『ああ、うん。そうそう。今日はこの刑務所を荒らしに来たんだ。

 それにしても、この機体の良さに気づいてくれるなんてね。いやあ、嬉しい。』


 そして、マガリはその声に確信する。


「さっきの放送もあんだだろ?」

『そうだよ。あれ聞いててくれたんだー、へへ。少し照れるねえ。』


 いやに生き生きとしたゴーレムである。

 マガリが眉を潜めていると、そのゴーレムはやけに自慢気に胸をはった。


『遠隔操作、他所からリモコン越しに動かしてるってこと。マイクから失礼してるよ。……まあ、今はAI内蔵の完全自立型とか増えてて影が薄いけどね。』

「なるほど、それでそんなにお喋りか。」


 頷いたマガリ。

 だが、実際にはそう簡単に頷けるようなことではない。


 八眼レンズやその他入力装置からからもたらされる情報を処理しながら、更に複雑な機体操作をこなすというのは、まともな人間の成せる技ではない。

 それに、遠隔操作ではどれだけ調整を行ってもごくわずかなラグが生じる。

 それをカバーできるだけの瞬発力や戦闘勘が必要となるのだ。


 これらの問題が、操作方式を人の手から人工知能へと譲ることになった所以である。


『で、お姉さんはどちら様?』


 どう答えるべきか。

 一瞬悩んだマガリだったが、真面目に答えてやる訳にもいかない。

 細心の注意を払いつつも、にっと笑って見せる。


「ここの囚人だったの。いやあ、久々に吸う外の空気はウマイわ~!あんたには感謝してもしきれ……」


 ガンッ


 足下を穿った弾丸に、マガリは口を閉じた。


 目の前のゴーレムの突き出した手のひらが、銃口もないのに煙っている。


 魔法攻撃だ。


『毎秒30発の7.8ミリ物質化魔力弾(マテライズバレット)。この機体のメイン武装でーす。』

「なんてこった……ハハハ」


 生身の人間に向けて放っていいような火力ではない。

 一歩後ずさったマガリを前に、表情の読めないゴーレムのカメラレンズが無機質に光った。


『嘘は言っちゃダメだよねえ、お姉さん』


「バレるか、やっぱり。」


 苦い笑みを浮かべるマガリに、ゴーレムは両手を向ける。


『なんか胡散臭い。美人だから見逃そうと思ったけど……やっぱりここで殺しとくのが無難か。ごめんね、なんか。』

「チッ……」


 為す術もないマガリは、最悪の結果を前に身構える。

 せめて、死ぬ前にあの唐変木を一編でも押し倒しておくべきだったなどと頭の隅で考えるが、それも遅い。


 目を固く閉じると共に、連続した幾百もの銃声を聞く。


「ごめん賢者……!!」


 だが


 その頬に降りかかったのは、無数の水しぶきだった。


「……あ?」


『冗談はよしてくださいなっ。マガリの姐さんにいなくなられちゃ、旦那さんが泣いちゃいますっ!』


「……え、え?……えぇ!?」


 目を開けたマガリの目の前にあったのは、バシャバシャと泡立つ分厚い水の壁だった。


「はぁ!?なんじゃこりゃあ!?うぇ……やだやだ、マガリさんったら死に際にとんでもない幻をっ!?」


 あわてふためき尻餅を着きそうになるマガリ。

 だが、更にその水の壁が喋り出す。


『おっとっと、動いちゃ駄目ですよマガリの姐さん!さすがに弾の軌道をずらすのが限界ですから、あんまり動かれると当たっちゃいますってば!?』


 水の壁は慌てて形を変える。


『うわ、なにあれ?』


 攻撃を続けていたゴーレムも、その異様な光景に攻撃を中断する。


 水の壁はうねうねと形を変えると、マガリの前で人の形を取った。


「お、おまえ……」


 初めは何者かによる魔法かとも考えた。

 しかし、目の前のそれから感じる魔力の流れは明らかに周囲から独立したもので、術者の存在する魔法とは思えない。


 だとすれば、こいつもゴーレムなどの自立型魔動機ということになる。


 見つめるマガリの視線に気が付いたのか、その水の塊はお辞儀をするようにうねうねと動いた。


『おっと、自己紹介が遅れました。

 ナノマシンクラスター型自立性内蔵魔動機、シラハモデルtype(タイプ)β(ベータ)。"シズク"とお呼びくださいませ!白の賢者、白葉マサヨリに仕える多目的ゴーレムです!』

「お……おう、そうか」


 つまり、こいつはマガリの味方なのだという。


『二年前からずっとマガリの姐さんの監視……ではなく護衛を勤めさせていただいてました~。旦那さんの命令とはいえ、挨拶なしに申し訳こざいません。』

「なるほど……最近風呂場で妙な視線を感じると思ってたら、そういうわけだったか。」

『ややっ、シズの監視に感付かれるとは!さすが姐さん、鋭いお方!』

「……え、マジでいたの?」


 若干顔を青くしたマガリの前で、シズクは敵のゴーレムに向き直った。


『さあ、マガリの姐さん。シズが来たからにはもう安心です!あんな金物臭い奴、数える間もなくスクラップにして見せましょう!』


『お、言うねぇAIくん。君の方こそ、ナノマシンなんて軟弱な体でこの機体に勝とうだなんって、思い上がっちゃいないかい?』


 二体のゴーレムが、狭い通路で相対する。


『あんなガチガチになんて負けません!』


『こっちこそ、機械仕掛けの脳ミソの限界を教えてあげるよ!』


 先手を打ったのは、敵のゴーレムだった。


 両手から毎秒30発もの高サイクルの射撃で、シズクの液状の体を穿つ。


 だが、当のシズクは全く堪えた様子がない。


『全くもって無駄ですね。シズクの体は93パーセントの水分とその内部に分散して漂う7パーセントのナノマシンで構成されているのです!

 やたらめったらに撃ったところで痛くも痒くもない!』

『ああ……やっぱりそうか。』


 そう呟くと、射撃は続けたまま後退を始めた。


『言った側から格好悪いようだけど……部が悪いから退散、かな?』

『逃がしはしません、覚悟っ!!』


 人の形のまま地面を蹴るようにして飛び上がると、その体が網のような形に広がる。


『うわっ……!?』


 人型のゴーレムに逃れる術はなく、一瞬にして変幻自在の液体に体を包まれた。


『ちょっ……こりゃまずいなかな……!?』


 手足をばたつかせるゴーレムだが、やがてバチバチというスパーク音を立てて動きを鈍らせる。


 自由自在に流動する敵に、内側から機関部を破壊されているのだ。


『外部装甲など無意味!!いかに鎧を着込もうと無駄なのです!』

『ああ~……もう、自慢の機体が……』


 そして遂に、悔しそうな声を発したのを最後にカクリと動かなくなった。


『当然の結果ですね。シズにかかればこんなもんでしょう!』


 糸の切れた操り人形の様に事切れたゴーレムから離れたシズクは、マガリの傍らで再び人の形に戻った。


「つ……つえぇ~」


 確か『シラハモデル』などと名乗っていたが、つまり彼は白葉の作品であるということだろうか。

 だとしたら、随分な物を作る奴である。


「とんでもない奴だな……」


 自分のことは棚にあげて、呟くマガリだった。


『さて、マガリの姐さん。先を急ぎましょう!』

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