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終幕のその後で《白葉寮管理人室》

 緋島ケイジが連行されてから二日が過ぎた。


 騒動に賑わう学園を他所に、白葉寮管理人は今日も部屋に籠っていた。


「情報は幾らか揃いましたよ、旦那さん?」


 白葉寮管理人室。

 コーヒーを啜りながら、白葉マサヨリは細かく頷いた。


「ご苦労。いつも早くて助かる。」

「いえいえ、シズの仕事は早さだけが売りですから。……もっとも、精度では笹業(ササナリ)さんと寺逆(テラサカ)さんのコンビには劣りますし。」

「ああ、あいつらはやるときはやるからな。

 しかも、職場が職場だ。」


 カップの半分まで飲み干すと、白葉は机から使いの"それ"に命じた。


「報告しろシズ。」


「ハイ、よろこんで!」


 床からうねうねと形を変えながら伸びる、透明な液体の柱は嬉々とした声音で言う。


「ナノマシンクラスター型自立性内蔵魔動機、type(タイプ)β(ベータ) "シズク"!調査の途中経過を報告します、旦那さん!」


 白葉マサヨリに使える多目的ゴーレム、通称『シズク』。

 無数のナノマシンと水分により構成される、液体型のゴーレムだ。


「いちいち気に障る喋りだな……この濡れものメイドロボめ。ご奉仕ロボットにでも作り替えてやろうか。」

「やんっ、旦那さんってばご自身の創造物(こども)に対してセクハラですか?

 シズは男の子でも女の子でも、大人のオモチャでもありませんよ~♪」


 何が嬉しいのやら、目の前でぷるぷるうねうねとあらぶっている液体従者。


 白葉は自分から振っておいて肩を竦めた。

 AIに結構高度な学習機能を組み込んだ覚えはあるが、まさかこんなおしゃべりに育つとは当初は考えてもいなかった。


「すまんがうるさいからさっさと報告を頼む。結構急ぎの案件でな。」


 胸のなかで頭を抱えながら、白葉はシズクを急かす。


「おっと失礼、それでは報告に移ります!

 キーワードは『雛由マガリの最期』『雛由マヒル』『火災』の三つですね?

 雛由マガリの最期……は残念ながら情報不足ですので、もう少々時間を。

 ので、二つ目と三つ目です。

 雛由マヒルは件の銀髪美少年の彼……そして、火災とは恐らく、旦那さんが理事長こと青柳女史を通して見たマヒルさんの記憶、あの森林火災のことでしょう。

 間違いは?」

「ない。」

「そうですか。

 最初に報告しますは、彼の戸籍情報です。

 住所不定で、国籍はこの日本。家族構成は父親 雛由タツオと、母親 ノリコ、お二人とも行方知れずです。が、そちらは間違いなく偽装でしょう。裏が全くとれませんでした!」


 白葉は顎に手をやる。


「やはり……か。」


 では、この場合戸籍情報そのものの真偽を疑うべきだ。

 そして、ほぼ確実に"偽"と考えるべきだろう。


 なら"雛由マヒル"とは何者か


「続いては、雛由マヒルその人の足取りです。

 まず、初めの記録が私立波風(ナミカゼ)中学校への入学です!

 ……卒業後は私立高校へ。しかし入学早々、暴力沙汰で停学、そのまま退学しています。」

「まて、中学だと?」


 白葉は飲みかけのコーヒーカップを取り落としそうになった。


「それが本当に最初か?」

「最初です。」

「本当か?他に記録は。小学校がなければ公共設備の使用記録でもいい、医療機関でもなんでもあるだろう。」

「本当にないんですったら。

 それ以前には、何処にも雛由マヒルに該当する情報はありませんでした。

 こちらは、笹業さんたちとも同じ結論となっています。」


 いよいよ頭を抱える白葉。

 マヒル本人の口ぶりからは、それ以前にも一悶着あったようだが。


 中学への新学から突如として出現した『雛由マヒル』。

 それ以前の出来事が記録されていない、謎の人物。

 いったい、奴は何者だ。


「こちらに関しては……笹業さんたちに投げるしかありませんね。シズにはこれ以上手の出しようがありません。

 それでは三つ目、火災です。

 該当すると思われる事件が二件見つかりました!」

「二つ……絞り込めんのか?」


 マヒルのことに未だ頭を悩ませながら、白葉はどうにか口に運ぶコーヒーで落ち着きを取り戻す。


「はい。どちらも同レベルでの該当率を出しています。

 とにかく、どちらも報告しますね?」


 火災。

 マヒルの記憶の中にあった、煤に汚れたマガリの顔。


 雛由マガリとマヒルの接点。

 雛由マガリの最期があるとしたら、おそらくこれだ。


「先ずは一件目、『魔術師一家心中火災事件』です!

 こちらは確か八年ほど前のことですね。第四白波事件の二年後、雛由マガリが失踪して暫くした後です。」

「マガリの失踪後か……。なるほど、やつが絡んでても納得だ。」

「そう思われます。

 内容は、都市部郊外の魔術師の家系『夕良(ユウラ)』邸の火災です。

 奥様と旦那様が焼死体となって発見されています。」

「詳細は?」

「奥様ナホコさんは、寝室で首を絞められたことによる脳酸欠による失神後、一酸化炭素中毒による窒息死、若しくは焼死です。

 旦那様コウジさんも、同じく寝室で。死因は奥様と似たような物かと。頭蓋骨に鈍器で一撃貰ったような陥没がありましたが、現場の内容から落下物によるもので、死因との関係性は薄いと判断されたようです。

 火元もちょうど同じ場所、灯油か何かが撒かれた形跡があったとのこと。

 一家揃っての無理心中と処理されています。」


 白葉は唸る。

 魔術師一家の心中とは珍しい。

 それなのにニュースとして取り立てられていた記憶がないのは、少々不自然だ。


「夕良……どんな家系だ?」

「はい。魔術師といってもそれほど有力な家柄ではないようです。分家に分家を重ねた末、かなり血が弱くなったという感じですね。

 ルーツには、かつて『白葉(シラハ)』に仕えた『夕日谷(ユウヒダニ)』を持つそうで、もしかすると『白葉』の血もごく微量に持っている可能性もあるかと?」

「俺とも繋がってるわけか。全然知らんが?」

「まあ、白葉が途絶えてもうずいぶんしますから。

 それよりも旦那さん。この事件の気になる点です。」


 そう言うと、ゴーレムはどこからともなく新聞記事の様なものを取り出した。

 水を媒体とし、光の屈折や圧力を利用した変身魔法の一種だ。


「地方紙か?」

「ええ、コピーをとってきました。無断ですが。

 火災とは切り離されて報じられていますが、ここです。」


 白葉は横から伸びてきた触手の指す方を見る。

 尋ね人の広告のようで、綺麗なワンピースを着た黒髪の少女が何処か怯えた目でこちらを見つめている。


「行方不明の女の子を探しています……と?」

「ええ。実は、夕良家にはお子さんがいらしたようで。

 死体が見つからなかったのか、火事のすぐ翌日から捜索が始まっていたとのことです。」

「……つまり」

「娘さんだけが消えていたんです」


 シズクは新聞を仕舞う。

 白葉は飲み干したカップをシズクへと投げて渡す。


「どうですか?謎ですね、なんで火災とお子さんの失踪を別けて報じるのでしょう。

 シズは気になってなりません。」


 受け取ったカップを、シズクは体内でザブザブと洗い、湿り気ひとつなく取り出して片付ける。


「つまりお前はこう言いたいわけだ、その子が『マヒル』じゃないのか?と。

 別けて報じられているのは、その事件にマガリが関わっていると思われ、国家から何らかの情報統制がかかったからだと。」

「その通りです、旦那さんお賢い!シズの名推理、いかがでしょうか?」


 白葉はため息をつくと、首を振った。


「違う、それはマヒルじゃない。

 普通に考えてみろ、奴は男だ。」

「ええ!?いや、だからってそんな頭ごなしに言うことないじゃないですか!可能性ですよ、可能性!

 だいたいよく見てくださいよ旦那さん。少し似てません?マヒルくん、少しそっちの素質があるように見えません?」

「ありえん。ありえるか。

 奴の頭は何度か覗いたが、そんな部分は微塵もなかった。お前、俺の目を疑うのか?」

「とと、とんでもない……。」


 白葉は呆れたように手を振る。


「たぶん別口の事件と被ったんだろうよ。よくある話だろう。」

「ううむ。」


 シズクは何故だか悔しそうにすると、二件目の報告を始める。


「これは、旦那さんの見たロケーションにかなり合うかと。

 今から五年前、東北の片田舎で起こった森林火災ですね!誰の所有物だか……森の中の小屋がひどく燃えて、辺り一面を焼け野はらにしちゃったとかです。」

「なるほど、それは耳寄りだ。」


 白葉はぐるぐると回していた椅子を爪先で止めた。


「現場からは広範囲にわたって、男性十一人、女性五人、合計十六人の焼死体が発見されています。」

「十六人?森の中にしては妙に賑わってるな。」

「でしょでしょ?そこに目を引かれたんです!」

「わかった、落ち着け、落ち着いて話をしろ。というかお前に目はついてない。」


 ばしゃばしゃと騒ぐゴーレムを宥める。


「ハイ!火元の小屋からは、発火原因と思われる燃料缶。加えて軍用の全自動ライフル銃一丁と自動拳銃二丁、それぞれの弾薬などが確認されました。」

「オイオイ、かなり物騒だな。」


 確か、マガリはその手の武器の取り扱いにも長けていた筈だ。


「周囲からも薬莢等が押収されていましたし、暴力団絡みの事件と処理されたようですが……」


 そこでシズクは言葉を切る。


「どうした?」


 シズクはそんな白葉の耳へと体を伸ばす。


「ここからは少々不確かな情報でしたが、死体の内の数名が警察組織の人間だったとの情報が……」

「警察?それがどうした。」


 シズクは口ごもる。

 白葉が見つめるなか、暫くぶくぶくと黙ってからやっと喋り出した。


「『対魔法犯罪科』です。しかも名前が特定できただけで特捜クラス八名です。」


 その名前が出た瞬間、白葉は盛大に顔をしかめた。

 額を手で打つと、どれだけ苦いものを食えばそうなるのかというほどの顔で、嘔吐するように言った。


「よりによってなんで俺の大っ嫌い連中が……。」

「ほらぁ……また旦那さんそんな顔するぅ。」


 その連中とはかなりの因縁がある。

 この狭苦しい島に白葉が居座り続ける理由のひとつでもあるのだ。


「……だが、まあお前の言わんとすることは見えてきた。」

「ええ……恐らく、ですが。

 対魔の調査員が、しかも特捜クラスの人間がこんなに動いたとなれば、なにかとんでもなく大きな作戦が行われていたに違いありません!

 そう、『雛由マガリの暗殺』です!!」


 大きく飛沫を飛び散らせながら、シズクは言い切った。

 お陰で白葉は袖で顔を拭うはめになる。


「あ……失礼しました」

「……。」


 無言でにらみ返すと、白葉は目を閉じて考える。


「……雛由マガリの暗殺……か。」


 あり得ない話ではない。

 確かに彼女は、国内において最も命を狙われている人間と称しても過言ではない。

 だが、あれほど念入りに身を潜めていた彼女が、何故そのタイミングで足をついたのか。


 まさか、マガリも無能の対魔相手にへまをするほど間抜けではない。

 それはこの目でしっかりと確認し、それを認め一年を共にした白葉にはよくわかる。


 だとすれば、それ相応のリスクを伴うアクションを起こしたのか


 若しくは、そのようなアクシデントに見回れたのか


 よもや両方という可能性もある。


 白葉は胸のなかで彼女に語りかけていた。


 ーーお前はいったい何のためにマヒルを残した?


 たが、答える彼女はもう何処にもいない。


「とにかく」


 白葉は寝癖同様にこんがらがった頭を軽く叩くと、目を開いた。


「お前の情報じゃまだ真相は掴めん。

 笹業たちとも連携して、引き続き調査を続けろ。特に、雛由マヒルの正体についてだ。

 俺も俺で探りを入れてみる。」


「ハイ、旦那さん!では、お気を付けて。」


 水の触手で敬礼すると、床を伝って消えようとする。

 だが、そこで白葉は何かを閃いた。


「まてシズク!」

「ぬっ?何事ですか旦那さん?」


 またにょきりと生えてきたシズクに白葉は手を伸ばし、指先で手招きする。

 シズクがするりと戻ってくると、ひとつだけ尋ねた。


「一件目の火災、夕良家のだ。

 消えた少女の名前、分かるか?」


 するとシズクは唸り、首を振るようにぷるぷると動く。


「わかりますけど……マヒルじゃありませんよぉ?」


 どこか嫌そうなのは、先ほど推理を否定されたばかりだからだろうか。

 たが白葉は尚も重ねる。


「とにかくだ、言え。」

「では……ええと。」


 思い出すようにひとつふたつ体を泡立たせると、ぼそりと言った。


 数秒後、白葉はその名前に食いつくことになる。



「ミヨちゃんです。夕良(ユウラ) ミヨ。」




 ミヨ


 ミヨ


 ミヨ


 少し前から、寮の中に思念の残り香となって漂っていた名前だ。


「オイオイ……まさかな」


 白葉はその残り香を解析、早くもその落とし主を見つけ出す。


「……ユウキ……不在か。

 ……アユム……いるな。

 ……あ?また何かしでかしたなあいつは……。ええい、知るか。オイ、シズ。俺は行ってくる。」

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