幕間「水色を食欲減退色と捉えていない人間は冷えピタに食欲がそそる」
マンモスうれピー奈と申します!
学業との両立を目指し『毎日投稿』を目標に掲げているので、応援の程よろしくお願いします〜〜!
※本作はカクヨム様にも重複投稿しております。
江南は食欲があるようだったので、リビングまで出向いてもらい、東雲が食事を配膳した。
他の面々もまだ夕食を摂っていないのだが、病人が最優先だとばかりに自分たちのことは後回しにして、カトラリーの用意や椅子を引いたりと江南を接待する。
両手にミトンをはめた東雲が「おまたせー」と持ってきたのは、熱々のたまご粥だった。
江南は食卓に運び込まれた土鍋の中身を確認して、ようやく安堵の表情を浮かべる。
「よかった〜。普通のたまご粥で」
味づけは白だしと塩のみの、素朴な味わいのお粥。小ネギの緑がアクセントを利かせている。
江南の発言を受けて、反省した面持ちの東雲は殊勝に謝罪を口にする。
「さっきはごめんね。ニンニクなんて消化の悪いもの勧めちゃって」
「んーん、全然だよ。みんな、うちのこといっぱい考えてくれたんだよね? その優しさがなによりのクスリ!」
天使のような江南の笑顔に、配膳をした東雲と、横に控えていた北上は同時に瞳を潤ませて感動する。
「江南さん……なんていい子なの! 回復したら二郎食べに行きましょ、私が奢るから!」
「こんなバカなあたし達を許してくれるだなんて……! エナちゃんは優しいわね!」
「ののちゃんありがとー! 二郎たのしみっ」
江南をえびす顔で見守る二人の側で、西宮は「江南、毛布持ってきたぞ! 肩でも揉むか!?」と一人わちゃわちゃ騒いでいた。
江南はブランケットを膝に掛けて「いただきます」と礼儀正しく手を合わせた後、たまご粥に舌鼓を打つ。
匙を口に含んだ途端、まろやかな塩味と出汁の旨味がいっぱいに広がって、江南の口端から湯気が僅かに漏れ出た。
「あっちぃ」
熱さに悶えるように、舌をちょこんと出す江南。その様子を見て、北上は「ふーふーしてあげましょうか?」と気遣いをみせるが、「大丈夫ー」とやんわり断られる。
本人の『食欲がある』との言は本当だったようで、素早く匙を行き来させ、ものの数分で完食してしまう。「おかわり作ろうか?」と尋ねる東雲と、「マシュマロならあるわよ?」と袋詰めのお菓子を手にする北上。けれど、江南は首を横に振った。
「ののちゃんごちそうさま! おいしかったー! なんだか実家の味を思い出したよ」
「それならよかった……。江南さん、私たちのことは家族と思ってくれていいんだからね? ちょっと頼りないかもだけどさ」
「そうだぞ江南。この家ではわたし達が家族だ。だから、辛いときは無理せずちゃんと言うんだぞ」
「あたしのことは『お姉ちゃん』って呼んでくれてもいいのよー?」
完食後、北上に口元を拭かれて、熱のせいか気恥ずかしさか、頬が赤くなる江南。
「うん、ありがとうみんな……」
江南のお礼を受けて、満足げに微笑む三人。
今日のコンパスハウスは、一段と温かい空気が充満していた。
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♢
翌日。江南はおでこに何かが触れる感覚を覚えて、重い目蓋を開けた。
「わっ、わわわなに、」
江南が驚くのも無理がない。薄暗いそこには、彼女のおでこにキスをする北上の姿があった。
動揺する江南の声を聞き、ようやく北上は唇を離した。
「ごめんなさいね、起こしちゃったかしら?」
「や、それはいいんだけど! っていうかなんでおでこにきすしてたのっ」
斬新な目覚め方に江南は頭が真っ白になり、いつもより早口になってしまう。
「うふふ。エナちゃんの寝顔があまりにもかわいかったから、つい」
そう平然と言ってのける北上に、江南は「これが大人のよゆう……!」とわなわな慄く。
冷静な口調の北上に「エナちゃん、具合はどう?」と訊かれたことで、江南は幾分か落ち着きを取り戻した。
「まだ少しボーっとする感じあるけど、昨日よりかはだいぶマシ」
「それならよかった。いまお薬とってくるからね」
「うん、ありがと」
そこまでのやり取りをして、初めて江南は「ん?」と違和感を抱いた。
「あれ? 今日って平日……。きたがみ、お仕事は?」
「休んだわ」
「え、まじ!?」
ポカンとした顔で惚ける江南の顔がそんなに面白かったのか、北上は相好を崩す。
「エナちゃんのためだもの、当然よ」
そう言い終えると、薬と水を取りに颯爽と部屋を後にする北上。
江南はその後ろ姿を眺めながら「…………まじ?」と小さく呟き、おでこを触る。
先ほどのことを思い出すと、額に熱が集っていくのを自覚して、誤魔化すように前髪を直した。
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♦︎
♢
北上が部屋に戻ると、江南は頭から布団を覆いかぶさっていた。
ベッドの横に腰掛けて「エナちゃん?」と呼びかけても反応がなかったため、北上は「お菓子も持ってきたわよー」と釣り餌を垂らす。
江南は「え、おかしってなに!?」と即座に食いつき布団をガバッと捲る。
「マシュマロよ」
「……なんだぁ」
水色の包装袋を目にして、露骨にテンションを下げる江南。彼女は色数が少ないお菓子はあまり好きじゃなかった。主に、映えの観点において。
「マシュマロ美味しいじゃない」
北上は言うが早いか包装をビリッと破り、一粒取り出してみせる。
江南は「うん、まぁ」とどっちつかずの返答をして、マシュマロごときでまんまと誘き出されたことに後悔した。
上体だけを起こしていた江南だったが、再び寝転んで北上を見つめる。
「仕事休んだって言ってたけど……その、大丈夫なん?」
「問題ないわ。わりと融通が利きやすい職業だから」
「前から気になってたけどさ、きたがみってなんの仕事してんの?」
江南の問いを受けた北上は、天井を見つめ「んー」と告白するか迷う仕草をしたものの、「ちょうどいいかしらね」と目を細ませた。
「エナちゃん、目を瞑って」
「え、こわいなになに」
「いいから」
恐る恐る目を閉じた江南を見て、北上は。
『〜〜〜♪』
うっとりとする歌声だった。子守り歌と思わしき曲を一通り口ずさんだ後、「どう?」と江南に感想を求める。
「……びっくりした。きたがみめっちゃ歌うまいじゃん」
「一応、歌でお金いただいているからねぇ」
「えっプロなの!?」
「そうよ〜、まだ駆け出しだけど」
「……知らなかったよ」
「テレビに出演するまでは、みんなに隠そうって決めていたから」
北上の発言を受けて、江南はパチリと目を開ける。
「じゃあ、うちだけが知ってるってこと?」
「このシェアハウスの中ではそうね。だから、二人だけの秘密よ?」
江南も思い浮かべていた『二人だけの秘密』という事実をさらりと口にして、北上は色っぽく唇に人差し指を当てる。
「……うんっ」
横になりながらコク、コクと何度も頷く江南。
「睡眠の邪魔しちゃあれだし、あたしそろそろ行くわね」
ベッドに隣接したラックの上に「薬はここに置いておくから」とコップと錠剤を置いて、遠ざかろうとした北上の腕を──江南は無意識に掴んでいた。
「……エナちゃん?」
「あの、あのねきたがみ。これ以上はわがまま言わないからさ、最初のやつ、もう一回やってほしいなって……」
口走りながら、江南はどんどん頬を紅潮させていく。長女である江南がわがままを口にすることも、ましてやこのようなお願いを北上にするのも平常時では考えられないことだった。
「いいわよ。そしたらもう一度目を瞑ってくれる……?」
間近に迫った北上に耳元でそう囁かれて、江南はギュッと固く瞼を結び、ついでに両手も目に宛てがう。
やがて訪れる唇の感触を待ち遠しく感じながら、江南は意識をおでこに集中させる。すると、ベッドが軋む音がして。
「…………んっ!? んーー!」
突如、柔らかい感触よって唇を塞がれた江南は、必死に両足をばたつかせる。
しばらく身じろぎしていたが、いつまで経っても離れないその感触に抵抗を諦め、為されるがままになる江南。
バクバクと轟く心音が耳にまで到達したその時、パタンと。ドアが閉まる音がした。
「…………ん?」
不思議に思い、自身の口元をまさぐってみる。
マシュマロがあった。
怒りによってプルプルと身震いした江南は、マシュマロを握り潰し、次いで。
「きたがみぃぃぃぃい!!」
風邪なんて知ったこっちゃないとばかりに室内をダダダと走りドアを開け放ち、廊下を見回す江南。
「どこだっ! どこにいるっ!」
北上の姿を探していると、ちょうど玄関の扉がパタンと閉まる音がする。
「外に逃げたなっ!」
猛ダッシュして玄関に向かうとそこには、レジ袋を持った西宮の姿があった。
「えっ、みや様? ねぇきたがみはどこ!?」
「しらねぇよ北上なんて。お前のためにゼリー買ってきてやったんだけど」
「どこだぁ! きたがみぃぃぃ!」
ものすごい勢いで北上の部屋まで駆けていく江南。
西宮は江南の後ろ姿を見送って、「元気じゃねーかよ。わたしの心配とゼリー代返せ」と不満を口にした。
最後まで読んでいただきありがとうございます✨
胸がドキドキ回でした! 以降は恋愛要素の割合が多めになって行きます〜〜!
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※次の更新は、『11/5 19:00』を予定しております。




