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第15話:俺だって欲にくらむことはある

 

 この前の休日なんてあっという間に過ぎ去り、現在はギルドの受付。


 例の遠征依頼の詳細を確認しにリーダーと二人で来たところだ。

 本当は俺だけでも良かったんだが依頼をとったのがリーダーとディアだったのと「代表だし、顔合わせくらいは私も行くわ」と言い出したので連れてきた。

 ディアは予定があるらしく「モブがいればうまいことやるだろ」と言い残して早くから出て行ってしまった。

 信頼されているからこその対応なんだよな?決して依頼とってみたはいいけど細かい話が面倒くさくてこっちに振ったわけじゃないんだよな?


 ディアに真意に悩ませているとギルドの扉が開いた。時間的に今入ってきた男が今回の依頼人だろうか

「ここにサイレントプレーンってパーティはいるかい?」

 男は四十後半と言ったところだろうか、かなりがっしりした体格の男だった。使い込まれた革のベストは、ところどころ泥で黒ずんでいる。日焼けした顔の皺に蓄えられた髭が印象的の男で、いかにもベテランの商人みたいだと思った。商人ってよりかは対象とか親方って方が似合いそうだ。


「私たちがサイレント・プレーンよ!」


「おー、あんたがサイレント・プレーンさんか、明日からよろしく頼むよ。俺のことは気安く親方とでも呼んでくれ」


「こちらこそ10日間よろしく頼みます。こっちがパーティリーダーで俺はモブって言います」


 自己紹介もそこそこに軽く世間話を挟んでから今回の依頼内容の確認を行う。王都への10日間の陸送中護衛、食費や宿泊費等必要経費の取り決め、積荷の被害時やこちらが怪我した際の損害の取り決め、ただの護衛といっても話すことはたくさんある。こういう細かいやり取りを省く冒険者が利用されるのは珍しくない。

 毎回見ているんだからリーダーにもそろそろ覚えてもらいたいが、こいつに任せると不安の方が大きくなりそうだ。もうしばらくは俺で対応するしかないか


「親方、出発前に積荷の確認をさせてもらいますがよろしいですね?」


「ああ、どうぞ見てくれ、実はギルドの裏にもってきてあるんだ。なかなか癖のある積荷なんでな」


 癖?


 疑問に思ったが親方が立ち上がったため一緒にギルドの裏手へと回った。そこには山なりの形状になったシートがあって横には一台のキャラバンが止めてある。

 このシートの中に今回の商品があるのか


 そう思うと同時に親方がシートを取っ払い中身があらわになる。

 大小さまざま、形状も多種多様な木箱が並んでいる。


「さぁ、これがあんたらに頼む積荷だ。しっかり確認してくれ」


「へーいっぱいあって凄いわね、機械や装飾品から食べ物まであるのね」


「…………親方」


「どうした?」


「今回の依頼はなしにさせて頂きたいと思います」


「はぁ?ここまで来てなに言ってんだ?」


「そうよモブ!なんで急に断るなんて言うのよ、後はこの積荷を荷台に乗せて明日出発するだけでしょ!」


「その積荷が問題なんだよ、リーダー……この積荷たぶん全部衝撃厳禁の積荷だ。そうでしょう親方」


「あ、ああ、たしかにこれらは全部衝撃厳禁の壊れ物や危険物もある。だけどなそれを承知で受けてくれたのがあんたらじゃないのかよ」


「リーダー、依頼書」


「何よモブ私を疑っているの、言っとくけどねディアと二人でちゃんと確認したんだから、衝撃厳禁なんて一言も書いてなかったわよ!」


 リーダーから依頼書を受け取り目を通すが確かにどこにもそんなことは書いてない。通常の陸送護衛依頼書だ。つまりこれは親方か依頼書を書いた人間の不備ということになる。


「俺にも依頼書見せちゃくれないか、…………確かに書いてねぇな」


「衝撃厳禁の品が含まれているなら依頼書に明記するのが決まりです。こういう輸送なら本来は小隊規模で護衛を組むのが常識で、うちのパーティの人数では対応が難しい」


「なるほどな、通りでおかしいと思ったんだ。王国騎士団や傭兵団で金貨数枚要求されたのにギルド経由だけ金貨一枚弱だなんてな、安すぎる。ギルドには説明したはずなんだがなぁ」


 親方は頭を掻いて難しい顔になった。


「いやしっかしこれから依頼し直すとなるとなぁ」


 確かに今から頼み直すとなると機械や装飾品などは納品遅れで済むかもしれないが食べ物は腐ってしまうだろうな、遅れの損害と食べ物の腐食、緊急依頼の追加金額を考慮すると正直採算が取れなくなってもおかしくないと思う。

 だけどこれはどう考えても俺たちで対応できる案件でもないのも事実だ。衝撃をほとんど与えずになんてうちじゃ誰もできない。


 そこまで考えたところで、リーダーが横から割り込んできた。


「ねえモブ、あんたの糸で何とかなるんじゃないの。いつも細かい作業してるじゃない」


 なるかならないかで言えばなるかもしれないが、例えば積荷全体に糸を巻き付けて衝撃や揺れに合わせて糸の張力で衝撃を吸収するとか、でも


「理論上できるのと実際にやるのは話が別だ」


 できないことをできるとやって失敗する方が親方にとってもリスクだろう。


「普段戦闘は私たちに任せっきりなんだから、これくらい頑張りなさいよ」


 任せっきりって言葉の使い方が根本的におかしいんだよ俺は非戦闘員なんだよ!


「リーダーさん、モブさんお願いがあるんだがな」


 親方が決心した顔をしている。背中が冷たくなるのを感じる、もしや親方このまま依頼を押し通す気か?

 懇願されたとしても無理なものは無理だ。お互いのためにならないし依頼書のミスならギルドにクレームつけて補償してもらったりするしかないだろ。

 親方には申し訳ないが断らせてもらう。たとえリーダーが何か言ってもこれはもう確定事項だ。


「この依頼、ギルドを通した報酬とは別に、個人的にお礼をさせてもらいたいんだよ。金貨一枚、着いた先でお渡しする」


 一瞬の間があった。


「「やります!」」


 リーダーの声と重なった。


 ◇


 ホームに帰ってメンバーに経緯を報告した。


「そんで?それ、受けたのか」


 ディアが呆れた顔をしている。

 何が言いたいかわかっているさ、でも報酬が良かったんだもの


「受けた」


「衝撃厳禁の積荷を、うちの人数で?」


「受けた」


「パーティルール、ひとーつ、依頼で不測の事態があったら1人で決めないこと、これお前が言い出したんだけどなぁ」


 ジト目でディアに見られる。反省はしている。


「わかっている。今回は俺の暴走だ。申し訳ないと思っているし弁明もしない。でもギルドで正式に受けてしまった以上はみんなにも協力してもらいたい」


「……もちろん協力はするさ、パーティなんだから、でもお前にしちゃ珍しいな、こういうの受けないと思ってた」


 珍しいのは分かっている。俺だって好き好んで受けたわけじゃない。リスクは高いことは承知の上だ。

 陸送護衛、積荷は衝撃厳禁な時点でただのB級パーティの依頼じゃない。もっと大規模パーティかもしくは衝撃緩和スキル持ちの技能者がいるところがやるのが普通だ。

 正直俺の魔術でどうにかできる保証はない。たぶん魔術糸で固定とかすればなんとかできるはず。足りない分は荷造りの段階で固定をしっかりやればいける……はず。

 それに――


「金額一枚の別途報酬が出る」


「ああ、なるほどな」


 ディアが納得した顔をした後こちらを見てニヤついている。ディアも流石に今回の仕組みに気づいたらしい。


「つまりあれだ、ギルドへは通常の陸送として報告して目玉の金貨報酬はギルドの仲介料通さずそのまま懐にってことだな?」


「そういうことだ。金貨報酬をギルドを通せば手元に残るのは借金分も引かれて半分以下にされるのは目に見えている。金に眩んだのは事実だが正直これがなかったら今月のパーティ資金がヤバいのも事実だ。受け入れてもらえないか?」


「私は賛成だぜ、仕事に関しちゃ堅物だと思っていたけど評価改めるわ。モブ、お前やっぱりいいな。面白えことになってきたじゃないか!」


 いや今回だけだぞこんな綱渡りするのは、普段は堅物評価で間違いないからな、元を正せばお前達の出費が激しいから仕方なくだからな。


「あの、大丈夫ですか? 衝撃厳禁って、かなり気を遣いますよね」


 さっきまで魔獣に餌をあげていたレヴィが心配そうに聞いてきた。


「まあ、何とかする。受けた以上依頼人の期待は裏切らないようにするよ」


「モブさんならできますよ、きっと」


「だから、今回は全力で俺のフォロー頼む」


「もちろんです。金貨一枚ですからね、私も張り切っていきますよ!、ゴライアスちゃん連れていっちゃいます」


「すまん、そいつは勘弁してくれ、振動で積荷が崩れる。正道を通るだけだし今回は小さめの魔獣で頼む」


「そんなぁ、さ、最近わたしの魔獣ちゃんの出番少ない気がします」


 しょんぼりしながら諦めるレヴィを後目にメイを見た。

 メイは刀を磨きながら特に何も言わなかった。関心がないのか、関心はあるが言わないのか、どちらか分からない。


「…………砥石……持ってっていい?」


 気にするのそこなのか


「あぁ積荷と俺たちの邪魔にならなければ問題はずだ」


「……良かった」


 それだけ言って刀磨きに戻ってしまった。


「…………金貨……新しい刀……ふふ」


 さっきの会話しっかり聞いていたらしい。

 というかこいつが笑ってるの初めて見た気がする。普段人形のように無表情だけどこうして見ると、白くて真っ直ぐな髪と相まって儚げな令嬢に見えなくもないな、内心は欲に塗れているだろうけども。


「やっぱり金貨一枚は大きいわよね!依頼が終わったら何しようかしら!王都にいくんだからそのまま観光してもいいわね」と既に次の話をしていた。

 リーダーがいつも通りすぎる。一応お前も俺と同罪だからな、反省という概念がないのか?


「……今回は俺のミスだ。失敗したら俺が責任を取るつもりでいる」


 俺が言うと、ディアが「ん?」と顔を上げた。


 少し間があった。


「今から失敗を考えなくても、まぁ、何とかなるだろ」


「なんとかするのが私達でしょ!」


 根拠はどこから来ているんだ、二人とも。

 だけど今日はその能天気さに救われた気がした。ありがとうとは言わないでおく、絶対調子乗るから


 ◇


 翌朝、全員で町の城門前に集合した。

 これから10日間にも及ぶ遠征が始まると思うと自然と気が引き締まる感覚を覚える。


 親方が「そんじゃよろしくな」と笑顔で手を上げた。リーダーが「私たちに任せなさい!」と即答した。

 俺も今回は気合い入れますかね。


 親方の用意したキャラバンの荷台に乗り込もうとするがレヴィが見当たらない。

 荷台の横から顔を出して前を見るとレヴィが荷馬代わりのトカゲ的な魔獣に釘付けになっていた。

 キャラバン引かせるの馬じゃないのか


「親方、魔獣に引かせているのか?」


「おうよ、知らないのか?今このラプチャー種が砂の国で大流行してんだ、気性は馬とかよりも荒いがこっちから下手打たなければ大人しいもんよ」


「わぁ、砂の国ではこっちでも見ないような魔獣を使役しているんですね」


「あぁ、おまけに餌は虫とか雑草とか自分でとって食べてくれるし、ちゃんと俺の元に戻ってくる頭もある。力は馬以上で多少の自衛もできる。これからこの国でも流行っていくと見てるぜ」


「値段はちょっと張るがな」と親方が補足しているが既にレヴィの耳には届いてないようでラプチャーに頬ずりしている。小柄なレヴィが巨大な二足のトカゲに近づく光景は中々にハラハラする光景だ。


「レヴィ、これから何日も一緒にいるんだ後にするぞ、荷台にみんな乗ってる」


「あっそうでした。すみませんつい珍しい子を見ると集中してしまって……すぐいきます」


 そうして陸送護衛依頼は穏やかに開始した。


「さて、俺の仕事の開始だな」


 手を突き出して指先から魔力糸を展開する。荷台の奥、積んである木箱に巻きつける。

 振動の伝わり方を指先で読み取りながら、荷台の揺れに合わせて糸の張力を微調整する。

 くそっ、もっと針金のような強度があればいいのに、俺の力だと実際の糸と同じくらいの強度だ。

 道が平坦な間はいい。問題は段差だ。一瞬の衝撃でも木箱の中身が跳ねる。それを糸で緩衝できるかどうかが今回の仕事の肝だ。


 大丈夫、理論上はできる。実際にやりながら確認していくしかない。


 ラプチャーがキャラバンを引き始めて少したって俺の顔に汗が伝うのを感じるが、それとは裏腹に街道は穏やかだった。木漏れ日が差し、風は涼しい。護衛依頼としては申し分ない天気だ。

 平和な雰囲気に気が緩みそうになるけど、こういう時に限ってトラブルが起きるんだよなぁ

 この予感が当たりませんようにと願いながら指先に伝わる糸の感触に全神経を集中させた。


 出発から一時間も経たない頃だろうか、レヴィは荷台の隙間から景色を堪能し、メイは砥石で刀を研ぎ始めていた。あとで揺れとかで危なかったら注意しよう。

 そしてリーダーとディアが荷台で暇を持て余し始めてしまった。


「暇ねー」


「暇だな」


「平和すぎるわね」


「まったくだ。魔獣の一匹くらい出てきてもいいのにな」


 出てきてもいいのになじゃないんだよ、出なくていいんだよ。むしろ出てきたら困るんだよ。こっちには衝撃厳禁の積荷が荷台にあるんだ。魔獣と戦って荷台が揺れたら俺が死ぬほど困るんだよ。


 二人とも分かってない。俺の魔術がギリギリで固定していることを絶対分かってない。


「あ、モブさん、あそこに魔獣がいますよ」


 レヴィが荷台から身を乗り出して指差した。街道脇の藪の中に、何かが動いている。


「見るだけにしろ」


「でも、あの種類はこの辺では珍しくて」


「見るだけにしろ」


「一瞬だけ降りて近づいて観察すれば」


「追いつけるのか?」


 レヴィが「うう」と言いながら藪から目を離した。メイが無言でレヴィの首根っこを引っ張った。助かった。メイが役に立つ場面というのは大体こういう時だ。刀以外の仕事もできる。


「あそこの魔獣喧嘩売ってこねーかな?」


「もしきたら討伐を許可するわ!むしろ来なさい!」


 頼むから戦う方向で進めないで大人しくしてくれ。


 街道は続く。風が吹いて木の葉が揺れる。荷台が小さく跳ねる。その度に指先の感触を確認する。今のは大丈夫だ。次の段差はどうだ。

 俺だけ気が休まらない。のどかな街道をのどかに旅したかったな、と少し思った。


 それから二時間の間に、レヴィが立ち止まろうとしたのが三回。ディアが街道脇の獣道に入ろうとしたのが一回。リーダーが「あっちの方が近道じゃないかしら、親方に伝えてくるわ」と言い出したのが一回。


 糸は積荷に触れたまま、指先は振動を読み続けている。ほぼ全員の手綱を引きながら、積荷の管理も同時にやっている。


 今日はまだ一日目だ。あと何日あると思ってるんだ。勘弁してくれ、俺の心労が耐えられない。


 ◇


 日が傾き始めた頃、キャラバンが止まり親方が顔を出してきた。


「みんな初日お疲れさん、無事野営地に着いたぞ」


 親方が「今夜はここですごそう」と手慣れた様子でラプチャーを止めて、野営の準備を進んで始めた。押しつけがましくなく、当たり前に動く。こういう人間は一緒にいて楽だ。


「やっと着いた!もうお尻が痛いー!」


 リーダーが荷台から立ち上がって伸びをするのを合図にみんな降りる準備を始めた。


「リーダー初日からこの調子じゃ終わる頃にはケツがガチガチになっているかもな」


「ならないわよ!いつだってプリティなお尻ですぅ、ディアこそガチガチになっちゃうんじゃないのー?」


「あたしは鍛えているからな、既にガチガチだ。ほら」


「ほんとガチガチね!モブも触ってみる?」


「おい!リーダー何言ってんだよ!誇張だからな!ほんとはそこまでガチガチじゃないからな!」


「2人とも馬鹿やってないで親方を手伝ってくれないか?尻なんてどっちでもいいだろ」


「「よくない!」」


 よくないらしい。乙女?心はよくわからないな


 俺も荷台から降りる前に積荷の最終確認をする。今日一日の揺れで木箱に異常がないかを糸でざっと確かめる。

 今日問題なければ明日以降も基本的に行けるはずだ。現時点で積荷が壊れていたらその時は、考えるのやめとこう。

 …………とりあえずは問題ないみたいだ。


 荷台から降りて俺も野営の準備を手伝いに向かう。「焚き火はあたしがやるぞ」ちょうどディアが焚き火を始めるところだったらしい。


 ディアが薪を拾い集め始めた。任せて大丈夫か?

 だめだ一日中気を張っていたからかどうにも心配性になっている。

 ……まぁ火を起こすだけなら問題ないか


 親方の方へ手伝いにいくとちょうどテントを張るところだったみたいで手を貸した。遠くからリーダーの「私も手伝うわ!」という声が聞こえてくる。あいつら本当に仲良いな。


「えーっと、モブ……さんだったか?」


「ええモブでいいですよ、どうしたんですか?」


「あーそんなにかしこまらないでくれ逆にやりにくい」


 親方の言葉に肩をすくめて返す。


「聞きたいことがあってな、今回受けてくれたのは追加報酬目当てか?」


「あんまり褒められたことじゃないがぶっちゃけそうだ。全員がお金を使うもんだから万年金欠でね」


「そっか、俺はてっきり俺の予算でどこも断られていたから同情でもして受けてくれたのかと思ったぜ」


「……そんなことはない。自分達が生きていくためだ」


 親方は一度俺の目を見つめて「それでも助かったぜ」というと作業に戻りそれ以上は何も言わなかった。

 俺もテントを張る作業に集中する。


 しばらくしてふとリーダー達の会話が耳に入ってきた。


「これで立派なキャンプファイヤーになるわね!」


「あぁ、これはもう焚き火ってレベルを超えたぜ」


「で、でも流石にデカすぎないですか?」


「大は小を兼ねるわ!やっちゃってレヴィ!」


「わ、わかりました。火球出しますね」


 猛烈に嫌な予感がする。今すぐ止めろとこいつらといた経験から警鐘がなっていが今から行って間に合うか?


「待てお前ら火をつけるな!」


 声に出したと同時に焚火とは言えないサイズの木の集合体に火が付いた。


 それは一瞬で燃え広がり炎の塔となって壮観ではあった。気づいたら斜面の枯れ草に燃え移っていた。山火事とかシャレにならん。


 延焼が速い。


「消せ!」


 体が先に動いた。水の入った革袋を引っ張り出して斜面に向かって走る。レヴィが「わ、わわ」と言いながら後ろをついてくる。メイが無言で革袋を追加で持ってきた。


 消火に十分かかった。


 斜面の焦げた跡を眺めながら息を整えた。リーダーとディアが揃って「ごめん」と言った。珍しく素直だった。

 荷物持ちの仕事は現場だけじゃないとは思っていたが、さすがに消火は想定外だ。依頼書には書いていなかった。


 親方が一部始終を見ていたようで唖然としている。


「あんたらに頼んで本当に大丈夫、なんだよな?」


 任せろと自信もって言うことができないのがつらい。なぜなら俺も親方と同じ感想を持ったからだ。


 こいつら連れてこない方がスムーズだったのでは?


 たぶん今日だけじゃなくて明日以降もこいつらの子守をしながら行うことになると考えると依頼を成功できる自信がなくなって思わず空を見上げた。


 夜空はどこまでも澄んでいて、汗だくの俺と星の綺麗さとのギャップに顔をしかめた。

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