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第13話:おととい焼き鳥喰ったことは黙っておこう 後編

 

 みんなで帰る道は疲れているせいか、いつもより少し長く感じた。

 来た時と同じ道を戻るだけなのに、なんか遠く感じて足が重い。最後尾でついて行くのがやっとだ。


 今日は朝から山岳だの密猟者だの鳥だの詰所だの流石に動きすぎた。


「あー全然動き足りなかったなー、なぁリーダー?」


「そうね、本当に歯ごたえのない連中だったわね」


「しかしグランドファルコが去るときの動き速かったなー。ああいう動きは久しぶりに見た」


 ディアが機嫌よく嬉しそうに言った。


「あの鳥も襲ってきてくれればなー」


「ちょっとディアそれは」


 リーダーがディアに指摘してレヴィを見る。


「あ、あぁ悪いな、魔獣ボコりたいって意味じゃなくて――」


「大丈夫です。ちゃんとわかっています」


 少し間があった。


「今日、みなさんに来てもらえて助かりました。ありがとうございます」


 レヴィが深く頭を下げる。

 なんとなくだが、こいつ無理してないか?


 それからしばらく歩いているとレヴィが隣に来た。


「モブさん」


「なんだ」


「今日はありがとうございました」


「別に依頼じゃないし、俺は荷物持ちだから行かなくてもよかったんだけどな」


「でも来てくれたじゃないですか」


 しばらく黙って歩く。

 木々の間から夕日が差し込んでいる。橙色が地面に伸びていた。

 鳥の声が聞こえて雛鳥の姿が脳裏に浮かぶ。


「寂しいですか」


「何が」


「あの子がいなくなって」


 俺が寂しいわけがないだろ。

 一晩いただけの魔獣の雛鳥にさすがに情は移らない。

 むしろ寂しいのは。


「寂しいのはお前の方なんじゃないのか?」


 レヴィの表情が固まった。


「寂しい……実は、寂しくなると思っていたんですけど、そう思わなかったんです」


 レヴィが少し考えるように視線を落とす。


「親が心配してて、あの子も恋しがってて親元に戻れてよかったって、それだけ思えたんです。

 寂しいなんて思いませんでした」


「そうか、ならよかった。てっきり寂しがって落ち込んでいるんじゃないかと」


「モブさんは、親鳥が最後に振り返ったの見ましたか」


「ああ見たな」


 あれは結局雛鳥に手をだしたら殺すっていう警告だったのか?

 密猟者食ったらしいし。


「あれ、ありがとうって言ってたと思います」


「……根拠は」


「なんとなくです」


 なんとなく、か。


 俺には分からない。

 魔獣がお礼をするかどうかも、あれが誰に向けた振り返りだったかも。

 だけど専門家であるレヴィには、何か感じ取れたものがあったのかもな。


 この機会だ、気になったことを聞いておくか。


「親鳥の前に出た時、怖くなかったのか」


「そりゃ私も怖かったですよ、ペットの子達とは違いますから、魔獣の危険性は私が一番よく把握しています」


 そりゃそうか、好きだからこそその危険性も把握している。

 当然だ。


「じゃあなんで出た」


 グランドファルコに雛鳥を返すとき、あの時俺は危険だと思ってレヴィに警告しようとした。

 でもレヴィは、あの目からは決してその場から動かないという強い意志を感じたんだ。


「そんなの決まっています。私が怖かったとしてもあの子は親の元に戻るべきだったからです」


「それだけか」


「それだけです」


 聞いて損したような。レヴィの本質を少しわかったような、そんな不思議な感覚を覚えた。


「お腹すきましたね」


 レヴィが話題を強引に変える。


「あぁ本当にな」


「帰ったら何か作りますね」


「助かる。楽しみだ」


 また会話が途切れ、俺とレヴィ2人そろって黙って歩く。


 帰り道も終盤に差し掛かったところでレヴィが足を止める。

 顔はうつむいており髪も相まって表情が見えない。


 前を歩いていたみんなが連動するように自然と足を止めた。


「……きっとどうなっても結局は親元に返したんでしょうけど」


 誰も何も言わなかった。

 レヴィの口から続く言葉を待っていた。


「たぶん……昔の私だったら、返すときに寂しさを覚えちゃって。

 一人だったら、ちょっとだけ迷っちゃったと思います」


 ディアが鼻を鳴らして何か言いかけて、やめた。


「でも今日は迷わなかった。最後まであの子を家族の元に返してあげなくちゃって思って……元の居場所に返せて心からよかったと思うことができました」


 一拍置いて、レヴィが続ける。


「そう思えたのはみなさんと会えたからだと思うんです」


 レヴィが顔を上げた。

 その顔はとてもうれしいことを報告するような顔じゃなくて、むしろ悪いことをして親に怒られるのを待っている子供のような。

 不安げな表情に見えた。


「だから、今日みたく面倒くさいことに巻き込んじゃうかもしれないですけど……どうか、これからも私をこの場所にいさせてください」


 沈黙が落ちる。


「……レヴィ」


 こいつ、ずっとそれを抱えていたのか。

 追放されて、一人になって、ここでも同じになるんじゃないかってずっと。


 雛鳥を拾ってからのレヴィを振り返るとこいつは『居場所』に強いこだわりを見せていた。

 こいつの今までの経歴とこのパーティに入るまでの経緯を考えれば、その気持ちはわからんでもないが。


 気持ちはわからんでもないがレヴィはまだまだこのパーティをわかってない。

 そんな不安一人で抱えなくても、こいつら(サイレントプレーン)なら――


「なーに言ってるのよ。あなたも私の家族の一員なんだから、今日みたいに助けるのはとーぜんでしょ!」


「そうだぜレヴィ、あたしたちだって迷惑かけるときもあるんだ。お前だけじゃない、ここはみんなで一つのパーティだからな」


「…………どっか行ったりしちゃ……いや」


 ほらな。

 むしろお前が出ていきたいと言ったとしても、こいつらはしつこいから簡単には抜けさせてくれないぞ。


 心配しなくてもお前の『居場所』は間違いなくここだよ。


 ◇


 あの後涙が止まらなくなったレヴィを、全員で落ち着くまで待ってから帰路に就いた。

 もちろん途中で肉は買った。


 ホームが見えてきた頃、リーダーが口を開く。


「今日は戦闘よりもあちこち歩いて疲れたわね」


「だな、けど暴れたりねー」とディアが言った。


 俺も珍しくリーダーに同意見だ。

 今日は相当動いたからな。

 ちなみに断じてディアには同意できない。


 ホームの扉を開けると、ペット(比較的小型の魔獣)たちが玄関に集まってきた。

 レヴィの帰りを待っていたらしい。レヴィが「ただいま」と言いながらしゃがんで全員を撫でる。

 ペットたちが足元でうろうろしている。


 すっかり元通りだな、いつものレヴィだ。


「お腹すいたー、早く食べましょーおにくー」


「宴だ宴! 肉食うぞ!」


「今お夕飯作りますから少し待っててくださいね」


「………至急」


 レヴィが立ち上がり台所に向かう。

 それにペットたちがぞろぞろとついていく。


 おい待て。


「ペットは台所に入れるなよ」


「はーい」といいつつそのままペットたちと台所に入っていった。

 何回注意しても聞きやしない。


 最近思うがレヴィの中で俺の優先順位はたぶんペット以下なんだと思う。


 ディアが椅子に座って腕を伸ばした。

 メイが居間の隅で刀を鞘から出して刀身を確認している。

 リーダーが髪を直しながら手鏡を覗く。


 俺は机に座って帳簿を開いた。


 今日の出費と収入を書き込む。

 衛兵への情報提供、報酬は三日後。

 今回の交通費、徒歩なのでゼロ。昼食の携帯食は……消耗品費として計上する。


「モブ、また帳簿つけてるの?」


 暇なのかリーダーが覗き込んできた。


「今日の分だ」


「真面目ねぇ」


 これをやらないと後で困るし俺の日課だからやってるだけ、別に真面目だからじゃない。

 本当は俺だって面倒くさいけど俺の役割だからな、やらないわけにはいかない。

 それに他のメンバーには任せられない。絶対にめちゃくちゃになる。


「ねえ、グランドファルコって売ったらいくらになるの」


「なんでそんなこと聞くんだ?」


「気になっただけよ」


「めっちゃ高い」


「どのくらい」


「俺たちが五年かかっても稼げない額だ」


「ひえー」


 ディアが「そりゃそうだよな」と言った。


「返して正解だったわ」


「いや最初からそういう話だったろ」


「いや、そうなんだけどね。もし雛鳥を返さないで捕まえてたら面倒なことになってたわよね」


 それは確かにそうだ。

 密猟で捕まったら報酬どころじゃない。損得で言っても正解だった。


「リーダーにしては珍しく合理的な判断だ」


「失礼ね」


 帳簿をつけ終わるころ台所からいい匂いが部屋全体に漂う。


 匂いに反応して全員の腹が鳴った。


 俺もだいぶ腹が減っていたことを思い出す。


「お待たせしました。できましたよ」


 レヴィが台所から顔を出した。

 それを合図に全員が立ち上がってテーブルに移動する。

 俺も帳簿を閉じて向かう。実は俺も限界に近い、早く肉食いたい。


 次々に用意される多様な肉料理を前に全員で手を合わせて「いただきます」と唱和する。


「肉!肉!肉!」


「あー!ディア!それわたしが狙っていたやつ!」


「ふるへー、はやひほのあいあんあよ」


 何言ってるのかわかんねーよ、飲み込んでから喋れ。


 がっつくように食べ始めるリーダーとディアから視線を外して、俺も目の前の料理に目を向ける。


 厚切りにスライスされた肉から焼いた肉の香ばしい匂いと、香辛料の香りが漂ってきた。


 腹を刺激する匂いに思わず我慢ができなくなり、手に持ったフォークで肉を一口に詰め込む。

 あの短時間で仕込みをしたのか肉質も柔らかくなっていて、歯で簡単に嚙み切れる。


 口の中であふれだす肉汁と香辛料の刺激に食欲が止まらない。


 これはたまらん、いくらでも食べられそうだ。

 やっぱりレヴィはこのパーティに必要だよ。

 少なくともレヴィの料理に胃袋を掴まれている俺にとっては必須だ。


 夕飯に舌鼓を打っているとディアが今日の戦闘の話を始めて、リーダーが「私の方が速かったわ」と張り合いだした。


 メイは無言で飯を食っている。レヴィがペット用に取り分けた分を持って庭に出た。


「しっかしレヴィって本当に魔獣好きなんだな」


 ディアがレヴィの後を目で追って言う。


「みたいだな」


 それは分かる。


「魔獣しか好きじゃないって将来が心配だぜ」


 俺もさっきまでそう思っていた。


「だけどたぶん、今は魔獣だけじゃないぞ」


「どういう意味だ?」


 わからんならいい、教える義理もない。

 レヴィが庭から戻ってきた。手が汚れたらしく袖で拭いている。


「ちゃんと手は洗った方がいいぞ」


「あっすみません」


 これは反省してないときの顔だ。


「レヴィ、なんかかんや長いこといるんだ、反省してないのバレてるからな」


「あはは、バレてましたか」


「顔に出てる」


「ならバレたついでにこれは気づいてましたか?

 わたしが親鳥から逃げなかったのそうするべきだったからと言いましたけど、あれちょっとだけ嘘ついちゃいました」


「嘘?」


「逃げなかった理由は……モブさん、実はわたし……好きなんです」


 ッブーーーー!


 レヴィの言葉にディアから勢いよく茶が噴出される。

 またベタな反応を。


「な、ななななな」


 顔を赤くしたディアがうろたえているがいいかげん学べ。

 これは言葉が欠けているだけだ。


「俺もレヴィほどじゃないけど好きだよ。ここの『居場所』は」


「はい! だからみんなを守るためにもあそこでわたしは引けないなと思ったんです!」


 今日一番の笑顔を咲かせるレヴィの横で、ディアが唖然とした表情で俺とレヴィを交互に見ていた。


 ほらな、言ったろ。レヴィが好きなものは魔獣だけじゃないって。


「ほらまだバレてないじゃないですか」


 少しだけ頬を赤らめたレヴィが小さくそんなことを言った気がした。

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