第22話 対巨獣戦術
翌朝、俺たちは、いつもの家の裏の雑木林(秘密基地)に集合した。
昨晩は未踏破領域から撤退し村に戻ってから、親には二人での秘密の特訓で疲れたと説明し、ぐっすりと休んだ。そして今、俺たちは改めて「あの巨大獣をいかに倒すか?」という作戦会議を始めている。
あの強大なバケモノを倒すには、今の俺たちには圧倒的に破壊力が足りない。
「さて、新たな手札をどうするか……」
バルドが木の幹に寄りかかりながら、腕を組んで口を開いた。
「俺は単純だな。今の瞬発力に特化させている身体強化の出力を調整して、今度は膂力(腕力)そのものを極限まで引き上げる。アルはどうするんだ? 景気よく、ドデカい爆発魔法でも用意するか?」
「それもロマンがあって嫌いじゃないが、交戦の痕跡が派手になりすぎるし、何より獲物の素材がダメになる。今の俺の魔法版CQCスタイルにも合わないしな」
俺は地面の土を指先で弄りながら、首を横に振った。
「俺は、今の狙撃を強化する」
「へぇ……まあ、お前なら可能だろうが、どうやる? 単純に破壊力を上げるなら、弾頭を重くするか?」
「いや、単純に質量を増やすのは悪手だ。運動エネルギーの法則(E= {1/2}{mv^2})に従えば威力は跳ね上がるが、その分、俺の手首にかかる反動も指数関数的に増大する。あのバケモノを殺すほどの質量の岩弾を撃てば、撃った瞬間に俺の右腕が吹き飛ぶ」
「なるほどな。……なら、質量は今のままで、弾の形状を針のように極限まで細く鋭くするか? 貫通力は劇的に上がるぞ」
バルドの的確な指摘に、俺は頷きつつも否定した。
「対人戦においては非常に有効だ、隠密性も更に向上するだろう。だが、相手は体長数メートルの巨体だ。細い針で風穴を開けたところで、脳幹や心臓をミリ単位で正確に撃ち抜かない限り『トゲが刺さった』程度にしか感じないだろうな。致命的な破壊が足りず、出血死を待つ間に激昂した巨獣に俺たちがミンチにされて終わる」
「じゃあ、どうする?」
「俺の9歳の細腕で耐えられるギリギリの質量を維持しつつ、分厚い装甲を貫通し、内部を完全に破壊する弾頭を作る。……魔力変換の段階で、ダイヤモンドに匹敵する硬度の鉱物成分をイメージし、極限まで圧縮した『超高密度の徹甲弾芯』。そして、そこに流体力学を利用した極めて暴力的な『ジャイロ回転』をかける」
俺は指先に土を集め、弾頭の側面に螺旋状の溝を刻み込んだモデルを作って見せた。
「推進剤の爆発エネルギーがこの溝に沿って流れることで、弾頭に強烈な自転がかかる。回転は弾道を安定させるだけでなく、装甲に激突した瞬間にドリルとなって肉と骨を抉り開け、内部組織を無残にミキサーにかける最悪の弾丸になる」
「……相変わらず、えげつない事を考える頭だな」
バルドは呆れたように笑った。
「バルドこそ、膂力を強化する方法に具体的な目算はあるのか?」
「俺の方は、原理はこれまでの超加速と一緒だ。『足』の骨と筋膜で作っていたシリンダーを、『腕と背中』に切り替えるだけの違いだ。魔力で発生させた強烈な膨張圧を、ファルシオンを振り下ろす腕のベクトルに100%叩き込む」
バルドは腰のファルシオンの柄に手をやったが、すぐに小さくため息をついた。
「……と言いたいところだが、問題があってな。今日、お前が来る前に少し試してみたんだが、駄目だった」
「駄目だった? お前のセンスでも制御しきれなかったのか?」
「制御の問題じゃない。物理的な限界だ。あの巨大獣の装甲を砕くための最大出力を初動からかけると、遠心力と魔力のトルクに、この9歳の骨と関節が耐えきれない。肩が外れかけ、腕の骨からミシリと嫌な音が鳴った」
「……なるほど。エンジンの出力に、車体がついてこないわけか」
俺は納得した。どれほど完璧な魔力制御ができても、物理的な肉体の強度は9歳の子供なのだ。魔力操作による保護にも限界がある。規格外の力を振り回せば、敵を斬る前に己の腕が千切れる。
「ああ。だから、フルスイングは諦める。ファルシオンの刃を対象に押し当てた状態――つまり『ゼロ距離』でのインパクトの瞬間にのみ、腕と背中の筋肉で局所的な最大ブーストを引き起こす。いわば火薬式いや魔力式のパイルバンカーだ」
「理にかなってはいるが……それだと、敵が完全に『静止』していないと、正確な弱点に打ち込めないぞ」
「そこだ、アル」
バルドの目が、獰猛なハンターのそれへと変わる。
「俺たちの今の火力と膂力だけじゃ、あの巨大な獣の突進は正面から止められない。だから、森の地形と強靭なワイヤーを使って罠を張り、あいつ自身の運動エネルギーを逆利用して『自滅(拘束)』させる。完全に動きが止まった瞬間に、俺のパイルバンカーとお前のライフルを同時に叩き込む」
明確な戦術目標が定まった。
俺たちは顔を見合わせ、誰に聞かれることもない雑木林の中で、不敵な笑みを深くした。




