畑と相性の良い自動販売機
今、色々とお世話になっているキコユという雪精人の女の子がいるのだが……いや、急成長して大人の女性になったから女の子というのは違うのか。
でも、女性は何歳になっても女の子だって話を聞いた覚えもあるし。
ま、まあ、そのキコユから自分と同じく、日本から異世界転生した者がいる、との情報を得た。
それも普通の転生ではなく、な、なんと! 畑に転生したらしい⁉
あり得なさ過ぎるだろ! と思わずツッコミを入れたくなるが、俺の転生先が自販機だしなぁ。
異世界転生といえば、チート能力をもらって、なんなら美形に生まれ変わってモテモテチートハーレムというのがテンプレだと思っていたのだが、こちらの異世界は甘くない仕様らしい。
だけど、俺は自販機に転生して大満足だけどね! 何不自由なく暮らしているし! ……は、言い過ぎか。動けないし、ちゃんと話せないのはやっぱり不便だ。
キコユから聞いた話によると、畑は自力で動けるらしい。
畑が動く……?
その話を聞いたときは頭が?で埋め尽くされたけど、詳しく話を聞くと更に混乱した。
体から土の腕を八本出せるらしく、それで畑を持ち上げて八足歩行をするらしい。
……畑から生える無数の腕。それが脚となって巨大な畑を持ち上げて動く。
……変じゃね?
色々と思うところはあるが、会うのが益々楽しみになってきた。本物を目の当たりにしたら驚愕のあまり配線がショートしないだろうな。
そんな彼とは冥府の王との戦いの後に、ゆっくり日本の話でもする予定なのだが、どうせなら畑を喜ばせてやりたい。
日本の物が恋しいだろうし、色々と日本の製品を渡してあげたい。新聞や雑誌とか嬉しいんじゃないかな。ここだと日本の情報や日本語に触れる機会もないからね。
ただ、畑が喜ぶ品となると、やはりあれか。
農機具自動販売機‼
中古農機具を販売しているメーカーが作った変わり種自販機だ。
取りあえずフォルムチェンジっと。
爽やかな笑顔を浮かべる農夫と工具が描かれた、カラフルな体にチェンジした。
体が六つに区分けされていて、その中に商品が入っている。隣に設置されているガチャガチャの機械から番号札をゲット。その番号に応じたケースを空けて中身を取り出す、という仕組みだ。
「ハッコンさん、また変わった外見になりましたね」
不意に声を掛けてきたのは、噂の雪精人キコユだ。
銀髪に白い肌。以前と違って身長がぐんと伸びた美しい女性。
畑の欠片である丸い土の球で野菜を作り出して、それを売って商売をしている。
……仲間ではあるが、商売においては俺のライバルでもある。食料品の売り上げが落ちているのは、間違いなく彼女の存在が大きい。
商売が絡まなければ仲良しだし、彼女は優しくて畑想いな、よい子だよ。
いつものように、白ウナススのボタンと、三つの目に三つの脚を持つカラス、黒八咫をお供に引き連れている。
「えっと、触れても構いませんか」
「いらっしゃいませ」
彼女は相手に触れることで心の声を聞くことができる。
つまり、言葉足らずな俺と完全な意思疎通が可能なのだ。
「ところで、この……自動販売機? は、どのような物なのですか?」
えっとね、これは農機具がもらえる自動販売機だよ。
いつか畑と会えたときに喜んでもらえるかな、と思って試運転中。
「そうなのですか⁉ きっと大喜びしますよ!」
「クワッカー」
「ブフォオオオ」
手を打ち合わせて表情を輝かせるキコユの隣で、黒八咫とボタンも大きく頷いてくれている。
お三方の反応は上々だが、まだ商品を一つも見せていない。
よかったら、隣に設置したガチャ……は、通じないか。そのつまみを回してみてよ。
「いいんですか。じゃあ、小銭を用意して。ここに入れたらいいのですよね?」
「いらっしゃいませ」
心の声が通じているのだから、音声を出す必要はないけど、「いらっしゃいませ」は癖になっている。
「えいっ」
可愛らしい掛け声と同時にガチャのつまみを捻ると、中から丸いカプセルが転がり出た。
その丸いのを開いてみて。番号が書いてあるから。
「はい。えっと、三って書いています」
はいはい、三番ね。となると、これだな。
三の文字が書かれた蓋を開けて中身を取り出し、念動力でキコユの前へと運ぶ。
「これは……なんでしょう? 車輪があるので馬車? でも、馬はいないし……」
渡された品物を凝視して戸惑うキコユ。
異世界の人にはわからなくて当然だ。これはトラクターのミニカー。
実用性は全くないけど、畑ならきっと喜んでくれるはずだよ。
「そうなのですね。じゃあ、畑さんへのお土産にします。ありがとうございます」
畑が喜ぶと知った途端、表情が明るくなった。本当に慕われているのだな、畑は。
「おっ、面白そうな道具……模型か?」
駆け足でやって来たヒュールミが、キコユのゲットしたトラクターのミニカーをマジマジと観察している。
原型は地球の技術が詰まった機械なので、魔道具技師の彼女には宝に見えるのだろう。
「ハッコン、この他にも面白そうな品物があるのか?」
「いらっしゃいませ」
番号が書かれた紙が入っていた空カプセルを念動力で浮かせて、ガチャガチャへと誘導する。
「その道具にお金を入れて、つまみを回すとこの丸いのが出て、中身の番号で品物が変わるみたいです」
「なるほど、そういう仕組みか。じゃあ、俺もいっちょやってみっか」
ヒュールミはかなり乗り気のようだ。
まだ試運転中だけどお客が増えるなら喜ばしい。別の商品もまだあるからね。
農業グッズや農産物もあるし、トラクター以外の農機具ミニカーも入っているよ。
「うっし、回すぜ。……おっと、二番だな」
二番となると、おっ、これは当たりだ。特にヒュールミにとっては。
蓋を開けて商品を彼女の元へと運ぶ。
「もしかしてこれは……工具か!」
そう、農機具などをメンテナンスするための工具。スパナやドライバーやその他諸々。
魔道具技師のヒュールミにとっては宝も同然の品だ。
「これいいな! これを活用すればもっと面白い物が作れそうだ。ありがとうな、ハッコン。早速使ってみるぜ」
工具を小脇に抱えたヒュールミがスキップ気味の小走りで去って行く。
そこまで喜んでもらえるなら、自動販売機冥利に尽きる。
この農機具自動販売機は農業が盛んな土地なら馬鹿売れしそうだな。畑が拠点としている防衛都市は近年農業都市として名を馳せているらしい。
ふっふっふ、これは大儲けの予感がする。
「どうしたんですか。急に点滅をして」
おっと、心の動きが明かりに連動しているのだった。落ち着け、落ち着け。
「そういえば、ハッコンさんは皆さんからの相談を受けて解決してくれる、という話を聞いたのですが、本当ですか?」
キコユが眉根を寄せて、少し困り顔をしている。
確かにお悩み相談を聞いて、自販機で対応できる場合はなんとか工面している。人には話せない相談事も自販機である俺には話せる、なんて人が結構いるのだ。
意思の疎通は可能だけど、外見はただの自販機、無機物だからね。人間相手には緊張する人でも気楽に接することができるようだ。……ミシュエルみたいに。
「いらっしゃいませ」
「では、相談に乗って頂けますか。畑さんが作る農作物は普通のものより日持ちがするのですが、それでも限界がありまして。私の冷気を操る力で冷やせばしばらくは大丈夫なのですが、そうなると私が離れられなくなりますし」
なるほど。畑の分身でもある土の球が生み出した農作物の数々は品種改良が施されているそうで、干ばつにも強く少しの肥料でもすくすく育つらしい。
採取後も鮮度が衰えないらしく、この朝晩の温度差が激しい灼熱の砂階層でも数日は問題ない。
とはいえ、日持ちしにくい野菜や果物も存在する。フードロス問題か。
となると、あれかな。フォルムチェンジ。
農機具自動販売機から今度は白いボディーの自販機へと変身した。
さっきと違い小分けされた部屋が幾つもあり、扉はガラスになっていて中が覗ける仕様だ。
「小さなお部屋がいっぱいありますね。中には何も入っていないようですけど」
キコユ、黒八咫、ボタンが覗き込んでいるので、近くにある扉の一つを開いた。
「わっ、ひんやりした空気が」
これは、野菜用自動販売機。
その名の通り、野菜を販売するための自動販売機だ。このロッカー型の自動販売機はすべての小部屋に冷房を完備している。まあ、冷蔵庫のように鮮度を保てる仕組みだね。
「つまり、この中にお野菜を入れておけば、長い間、鮮度が保たれるということですね」
「いらっしゃいませ」
うんうん、理解が早くて助かるよ。
この自販機は縦、横五列あるので、二十五種類置くことが可能。結構多くの野菜を並べられる。
「では、今日売れ残った、これと、これと、これと、これと、これと……」
後ろの荷台から次々と野菜を取り出してくる、キコユ。
そして、俺の扉を開けて素早い動作で野菜を入れていく。黒八咫も三本の脚で手伝っているな。
あっという間に小部屋がすべて埋まり、キコユが満足げに何度も頷いている。
「では、今日から野菜の販売をお願いしますね」
「いらっしゃ」
あっ、あああああああああああああっ⁉
しまったー! キコユは仲間だけど、商売に関してはライバル同士の関係性だった!
野菜が売れたら、それはキコユの利益になるじゃないか! おまけに野菜用自動販売機に成っている間は俺の商品を売ることができない!
ま、まさか、この展開をすべて予想して誘導したというのか⁉
俺の驚く心の声が丸聞こえのキコユは、ニヤリと笑う口元を手で覆い隠した。




