三日後 深い絆
その後、残すは、帰りの会のみとなっていた。
一昨日、昨日とは違い、今日は、取り立てて何事もない一日だった――。
そんな気分でいたが、しかし、一寸先は闇というものである。
摩希と梨瑠香が、トイレから教室に戻ってくる時のことだった。
教室の引き戸が開き、中から、偶然、西園寺秋乃さんが顔を出した。
「あ、いた! 待った待った待ったぁぁっ」
秋乃さんは、なにやら、摩希と梨瑠香を押し留め、そうして、やや離れたところへと誘導した。
仲良しグループの三人だけで話すべき、喫緊の話題があるという様子だ。
実のところ、その時点で、摩希は、胸の内に暗雲が垂れ込めるような、そんな仄暗い予感を抱いたのだった。
「ねえねえ、さっき、諭羅くんと友彦くんが、雫をグループに入れたの見て、どう思った?」
秋乃さんは、さっそく切り出した。
「どうって……」
摩希は、やや考えさせられる。
率直に、雫ちゃんに嫉妬した、などと言えば、妙な目で見られるに決まっている。だから、当たり障りのない答えを返すしかなかった。
「――二人とも、かっこいいな、って」
「まあ、あたしも、そんなところです」と、梨瑠香。
「だよねー? でも、だよ――? もちろん、友彦くんも、いい男なんだけど、やっぱり、諭羅くんは、もう別格だよね? なんていうか、なんていうか、存在そのものがっ!」
秋乃さんは、勢い込んで言う。
「また始まった」と、摩希は苦笑する。
「だってさ、だってさ――。顔は、奇跡の産物みたいに美形だし、背は、見上げるように高いし、頭がよくて、サッカーが上手で、おまけにぃ――、家は、お医者さんだしっ――。
おいおい、きみって、この世の王様になるために、生まれてきたんじゃないの? って言いたいよね?」
藤沢諭羅くんのこととなると、秋乃さんは、大人びた理知的な少女の仮面が剥がれ、恋に焦がれた乙女の顔を、はしたないくらい露わにしてしまう。そんな有様だから、少なくとも、女子生徒たちの間では、秋乃さんが、諭羅くんに対して恋心を抱いていることは、すでに、公然の秘密となっていた。
梨瑠香も、その話は聞き飽きたとばかりに、
「むしろ、高等部の女子で、諭羅くんに憧れてない人なんて、いないくらいじゃないですかね? 今日の、グループ決めの件で、さらに、好感度アップしましたし」
と、さも詰まらないことのように指摘した。
「それなのよねえー。で、聞いてほしいんだけど、諭羅くんのいいところを、見つけるたび、嬉しくなる反面、あたし、怖くもなってくるっていうか――。
ただでさえ、完全無比だと思ってた、諭羅くんが、まさか、雫みたいな子のことも気にかけて、グループに入れてあげるほど、優しいだなんて……。まさか、予義也も、一瞬で打ち倒しちゃうくらい、強いだなんて……。
なんだか、諭羅くんが、どんどん、遠い存在になっていくように感じるんだっ。それなのに、ここで、追いかけるだけの行動力もないんだったら――、このあたしらしくないよね? そう思わないっ?」
摩希は、返答に困り、「うーん」と唸るだけにしておいた。
「あたしは――、あたしらしくありたいから、もう、待つのはやめた。自分の存在意義を確かめるためにも、勝負に出る」
ん?
「えっとぉ――」
梨瑠香が、いち早く口を開いた。
「――つまり、それは」
「そっそぉ――。あたし、諭羅くんに、告ることにした。決行は、今度のキャンプファイヤーの時。つまり、あと四日後、あたしは、決戦の舞台に立つ」
やはり、予感は当たった。
摩希は、ぐらりと目まいを起こし、卒倒しそうな境地におちいった。
「――てなわけで、応援してよねっ。あたしたち、家族より深い絆で結ばれた、一生の友達だろっ。なあなあ、なあっ――」
秋乃さんは、摩希と梨瑠香の首を、両脇に抱え込むようにして、がっしりと肩を組んできたのだった。




