三日後 注意
駄菓子屋さんが見えてきた。
その横に置かれた青いベンチに、今日は、耕治郎おじさんの姿がなかった。
摩希は、胸を撫で下ろすような気持ちになる。
昨日、交番で、お願いしたとおり、佐伯巡査が、耕治郎おじさんに、注意してくれたのだろう。その最後通告を受けた時の、耕治郎おじさんの怯えぶりが、目に浮かぶようで、ついつい、くすっとしてしまう。
ひょっとすると、耕治郎おじさんは、秩序維持条例違反の罪で逮捕され、そのまま、収容所へと送られたのかもしれない。もしくは、問答無用で射殺され、死体は、片付けられた後だという可能性もある。
いずれにせよ、耕治郎おじさんの顔など、金輪際、見たくなかったので、摩希としては、嬉しい限りだった。
それから、しばらく歩き、交番に、いつも通り、佐伯巡査が立っているのを確認する。
まもなく、佐伯巡査と目が合った。
「おまわりさん、おはようございますっ!」
摩希は、声を弾ませて挨拶をした。
「おはよう、摩希ちゃん。今日は、一段と元気だなあ――。
どうした? いいことでも、あったのかい?」
「だってぇ! あの迷惑極まりない、耕治郎おじさんが、今日は、姿を消してたんですもんっ! あたし、ほっとしちゃいましたよぉっ!」
「ああ、ああ――、耕治郎おじさんな。昨日、おれのほうから、しっかりと注意しておいたんだ。だから、今後、登校する際は、安心していいよ、摩希ちゃん」
佐伯巡査は、上機嫌な猫みたいな笑顔を浮かべる。
が、摩希は、やや肩透かしを食った気分になった。
注意、か――。
「でも、おまわりさーん。耕治郎おじさんって、酔っ払った勢いで、村の人たちに、次々と絡むような人間なんですよお? なので、次、外で泥酔してる姿を発見したら、厳しく処罰してくださいねっ?」
「わかった、わかったっ」
その投げやりな返事からすると、ちゃんと受け止めてくれているのか、甚だ疑問なのだけれど――。
「あ、こうしちゃいられないっ。今日は、朝、友達と、大事な話があるんだった! 行ってきまーす!」
摩希は、駆けるように慌てて歩きだした。
「行ってらっしゃーい」
佐伯巡査が、毎度のごとく、穏やかな声を投げかけてくる。
それにしても、摩希自身、耕治郎おじさんの存在を、これほどまでに忌み嫌っている自分の心理状態が、多少、不思議にも思えるのだった。けれど、自分は、間違ってなどいないと、声を大にして言いたい。
なにしろ――、高等部の女の子、それも、東堂さんいわく――、非の打ち所のない美少女である、このあたしに対し、耕治郎おじさんは、ストーカーまがいの行為を働いたのだから――。
可能ならば、収容所に隔離するくらいの処罰を望む。




