二日後 ファンとの握手
それから、およそ一時間後、グネルド教の教会を出た。
帰路に就き、しばらく進むと、ふと、誰かが後ろを付けてくるような気配を感じ、摩希は、何気なく振り返った。
あっ――、と思う。
グネルド教の教会に通っている男性、二人の姿が目に映ったのだ。
一人は、先ほど、「選ばれし人になりたいのですが――」と、東堂さんに質問した、巨体の男性だ。もう一人の男性は、そんな彼とは、見事なくらい対照的な体格で、背が低く、病的にやせ細っているのがわかる。
怪訝に思い、摩希が立ち止まっていると、二人の男性は、おどおどした様子で、こちらに歩いてくる。大柄な男性のほうが、その、ぬぼーっとした顔に、照れ笑いのような表情を浮かべ、
「あっ、あ、あのおーっ。選ばれし人の、青村さんっ。ぼく、ファンです。あ、握手――、してもらえませんかぁぁっ?」
と、こちらに両手を差し出してくる。
「はあ……」
摩希は、かなり戸惑いを覚えたものの、まあ、握手くらいなら、と両手を伸ばした。
すると、握手、というより、その分厚い大きな手で、ぎゅうっと握られてしまい、手の甲が、腫れそうなくらい圧迫される。が、それは、一秒かそこらで終わったので、どうにか助かった。
「――あ、ありがとうございますぅっ」
大柄な男性は、ひどく恐縮しているらしく、首をすくめるようにして頭を下げた。
今度は、その彼の背後から、小柄な男性が、すーっと前に出た。
「ぼ、ぼくも、ずっと前から、青村さんのファンだったんですっ。ぜひ、握手、お願いします……」
年齢は、二十代の後半だろうか。その媚びるような目の光を見るに、なんとなく、大柄な男性とは、違った意図があるのではないかと感じるが、片方だけ、拒絶するのも、悪いかなと思った。
なので、摩希は、小柄な男性とも握手する。
が、その直後、彼が、にやっと、いかにも卑しげな笑いを見せた。
しかも、なかなか手を離そうとしないので、摩希は、いよいよ強い不快感を覚え、さっと両手を引っ込めた。間を置かず、くるりと身を翻し、足早に去っていく。
自宅に向かって歩きながら、摩希は、ふうっ、とため息をついた。
帰ったら、まず、しっかりと手を洗おう――。
幾分、気分を害されたが、しかし、今日、抱え込んだ厄介事について、もう、頭を悩ませる必要はないことを思うと、胸のつかえが取れたような心持ちになる。
それにしても、同じ大人である、母と東堂さんに、同じ内容の相談をしたのに、こうも正反対の意見が返ってくるとは、予想もしなかった。むろん、どちらが正しいことを言っているのかは、考えるまでもなく明白である。
だから、家では、母による小うるさい説教が待っているだろうが、そんなものは、右から左へ聞き流せばいいのだ。
そして、明日は、心を鬼にして、雫ちゃんを突き放してしまおう――。




