二日後 母への相談
今日の夕食は、母と二人で食べることになった。
時間が早いので、父も兄も、まだ仕事から帰ってきていないのだ。
ちゃぶ台の上のおかずを口に運びながら、摩希は、雫ちゃんの件を打ち明けようかどうか迷っていた。
だが、昨日、母から、困ったことがあるのなら、相談してほしい旨、告げられたことを思い、意を決して切り出した。
「ねえ、お母さんに、相談なんだけど――」
「ん? どうしたの? なんでも言ってごらんなさい」
正面に座っている母は、柔和な眼差しで、こちらを見る。
「今度の日曜日、あたしたち、キャンプファイヤーがあるじゃない? それで、明日、そのグループ決めをするんだけど、あたしは、親友の梨瑠香と、ペアを組むつもりなの。
でも――、あの、雫ちゃんっていう子のこと、前に話したでしょう? 読書が好きな子」
「うんうん、憶えてるわ。摩希の友達よね」
そう、友達――。
「実は、その雫ちゃんが、あたしたちのところに、入れてほしいらしくって……」
母は、きょとんとした顔になる。
「それなら、三人で、グループを組んだらいいじゃないの」
「でも……、でもさあ――」
摩希は、言い淀んだ。
「何が、でも、なの?」
母は、理解不能だという様子である。
「雫ちゃんって――、こういう言い方は、なんだけど……、陰気なところがある感じで、そのせいか、しょっちゅう、たちの悪い男子たちから、嫌がらせを受けるようなタイプの子なのね。
で、そういう子と、グループを組むとなったら、梨瑠香は、きっと、いい顔をしないだろうなって思って――」
「入れてあげなさい」
気づけば、母の目には、鋭い光が宿っていた。
摩希は、やや怯みかかるも、話を続ける。
「んーと……、あたしも、雫ちゃんとは、時々、本のことで喋ったり、その程度の距離感がよくて……、キャンプファイヤーの時まで、一緒に行動するとか、そういうのは、ちょっと違うっていうか……、正直なところ、なんていうか……、周りの目が気になって、恥ずかしいな、って――」
「何が恥ずかしいのぉぉぉっ!? この、大馬鹿者ぉぉっ!」
母の怒鳴り声に、摩希は、びくりとし、箸を取り落としそうになった。
「昔っから言ってるでしょう!? 困ってる子がいたら、自分が、身を挺してでも、真っ先に救いの手を差し伸べなさい、って! それが、できないっていうのはねえ、いじめっ子も同然なのよ!」
とてもじゃないが、雫ちゃんとグループを組んだら、クラスの一軍である、あたしたちの格が下がりそうだから、などと言える空気ではない。
「見損なったわよ、摩希――。毎日、図書館に通うのは、けっこうだけどねえ、心理学? フロイト? なんだか、年齢不相応な本を読んでるなと思ってたら……、あんた、そういう本から、おかしな影響でも受けてるんじゃないの? あーっ、忌まわしいっ」
さすがに、その物言いには、摩希も、かちんと来た。
「まったく、お母さんは、学校のことなんて、何もわかってないくせに、偉そうに言わないで!」
食事を終えてはいなかったが、構わず立ち上がる。
そのまま、玄関に移動し、スニーカーを履いた。
「摩希! どこに行くつもりなのぉっ!?」
「教会」
「待ちなさい! 摩希!」
母の制止を無視し、摩希は、ドアを開けて家の外に出た。
こんなことなら、最初っから、グネルド教の司祭である、東堂さんに、悩みを打ち明ければよかった――。
そう強く感じながら、教会へと向かっていく。




