二日後 ソフトテニス
給食の時間こそ、負の感情に囚われた摩希だったが、その後の体育では、いつものように、溜まったフラストレーションを吹き飛ばした。
体育の授業で行う競技は、小等部、中等部、高等部ごとに決まっていた。高等部では、男子がサッカーで、女子がソフトテニスだ。なので、男女とも、それぞれのウェアに着替えて、校庭に移動する。
摩希は、元々、フィジカルに自信を持っていたため、どちらかというと、コンタクトスポーツであるサッカーのほうに、興味を惹かれた。サッカーをプレーできる男子を、羨ましくも思ったものだ。
とはいえ、ソフトテニスの奥深さを知り、勝敗にこだわり始めてからは、あっという間に、トップ争いに食い込む実力者となった。
テニスコートは二面あり、その両方を使って、毎回、シングルスのトーナメントを行っている。五セットマッチ、つまり、三セットを先取した側が、勝ち上がるという仕組みだ。
はっきり言って、現在、体育でのソフトテニスは、三年生の西園寺秋乃さん、それに、摩希と梨瑠香という、この仲良しグループの独壇場だった。そんな摩希たちのプレーに、周囲の女子生徒たちは、大いに沸き立ち、時には、ファンさながら、黄色い声援を送ったりもする。
いわゆる、一軍、二軍、三軍といった、クラス内での序列付けを、摩希は、正直、極めて不快に思っていた。とはいえ、こういう時に限っては、自分が、ちょっとした人気者であることを、否応でも認識させられる。
結局のところ、今回も、決勝は、摩希と秋乃さんの対決となった。
そして、どうやら、サッカーの試合のほうが、早く終わったらしい。男子生徒たちが、三々五々、テニスコート付近に集まってきた。ソフトテニスの女王の座に就くのは、どちらなのか、興味津々の様子である。
当然ながら、摩希は、血の騒ぎを覚えた。しかし、負けられないという気持ちが、より強いのは、秋乃さんのほうだ。最高学年としてのプライド。いや、それ以上に、あの、藤沢諭羅くんの面前である、というシチュエーションが大きいはずだ。
摩希も、そんな秋乃さんの胸中を、充分すぎるほど理解していた。
秋乃さんのサーブから、試合がスタートだ。
「フゥゥワァァァイィッ!」
サーブと同時に発せられる、その猛然としたかけ声からして、気合いの入りようが、びんびんと伝わってくる。
摩希は、しかし、そのボールを落ち着いて打ち返す。
試合は、言うならば、秋乃さんの突きつける情熱の矛と、摩希の構える冷徹の盾とが、ぶつかり、交錯し合うようにして、一進一退の攻防となり、セットカウントは二対二、という状況になった。
すなわち、最終セットに突入したのである。
ボールは、はっきりと見える――。
どのコースにボールが返ってくるかも、だいたい予測がつく――。
秋乃さんの弱点も、とっくに把握している――。
もう、勝利は目前だという、確信めいたものが芽生えた。
が――、死に物狂いにラケットを振る、秋乃さんのその姿を前に、摩希は、百パーセントの力を出し切ることに、いくばくか、ためらいを持ってしまった。そのため、終盤でイージーミスを連発し、惜敗するに至った。
男子生徒たちの間から、ちらほらと声が聞こえてくる。
「やっぱり、最後に勝つのは、お決まりの秋乃さんかあーっ。あの人、ここしばらく、ずっと優勝し続けてんじゃね?」
「でも、摩希ちゃんも、かなり惜しかったし、そろそろ、王者交代が起きそう」
「梨瑠香さんも、相当、巧いらしいっすよ。相性とかもあるし、今度、秋乃さんと梨瑠香さんの対決も見たいかも」
「いったい、なんなの? あの、エリート三人組は」
摩希と秋乃さんは、お互いに、中央のネットに歩み寄り、がっちりと握手する。
「さすが、ソフトテニスの女王だけありますねっ、秋乃さん。完敗です」
「いやいや、今回は、本当に危なかったよ。勝敗を分けたのは、あたしのほうが、スマッシュの精度だけは高かった点かなっ」
秋乃さんは、晴れ晴れとした笑顔を見せた。




