第二話
「それで、状況はどんな感じなの?」
冒険者ギルドから出た四人は、人目がつかないところに集まって、こそこそと会議を始める。
「メッセージで伝えた通りです。ヴォルが今パーティーを仕切っているのですが、内部はめちゃくちゃ。ヴォルに同調した一部のメンバーがヴォルについて、その他は脱退、残っていたとしてもパーティーに顔は出していません」
「テルは大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ヴォルは暴力的で、やりたいことしかやらない。ダジルさんは苦手なことにもちゃんと取り組んでいましたが、ヴォルは全部放置しているので、俺が代わりにやってるんです」
「……なんか、ごめん」
テルは苦笑する。
きっとその言葉以上の大きな負担になっているのだろう。その顔には疲れが見える。
「いいんですよ。俺がどうしてもパーティーを壊滅させたくないってだけなんで。評判は落ちていますが、他のパーティーも似たような状況なので、二人が思ってるより大丈夫です」
「テルは……その、ヴォルに酷い事されてない?」
「俺の能力を忘れましたか? 一応、ヴォルでも妙な真似は出来ません」
小さくため息をついて、テルは真剣な表情を見せる。
「それよりも、ヴォルに従いながら、厄介事をヴォルに押し付けられている人のほうが危険です」
「その人達はなんでヴォルに従ってるんだ」
行動を縛られているわけでもなさそうだし、わざわざヴォルに従う理由はないだろう。
「その人達は、自分を強者だと思っている弱者ってことなんじゃないですか」
横からメグが口を挟む。
「……まぁ、そういうことですね」
テルは苦い顔で肯定する。
つまり、ヴォルに従っている人達は、自身が有能だと思いこんでいるのだろう。
ヴォルの言うことを聞かなければ、無能という烙印をヴォルに押されてしまうから、従うしかない。
しかし、逃げることはプライドが許さない。
何となく、想像が出来る話ではある。
「そういうのが一番厄介なんですよね。ギルドでもよく、不相応の依頼を受けるって言うことを聞かない人は一定数います。自分の弱さを理解しておらず、理想だけが高い。自分が見上げていることにも気づかず、同じ高さに立っていると思いこんでいるんです」
メグの鋭い指摘に、瑞希は苦笑する。
ダジルは強がりで理想が高いが、ちゃんとその理想に近づく努力はしていた。
多分、ヴォルの周りにいるのはダジルの良いところを抜いたような、不快感だけが残る性格の持ち主が多いのだろう。
「取り敢えず、これからどうするか決めましょう。話が脱線しちゃってるわ」
「……そうですね。副リーダーはダジルさんの頭を治すって言ってましたけど、治せるんですか?」
「知らないわ。試してみるだけ」
「なるほど」
テルは顎に手を当てる。
リンナは意外と即断即決タイプだ。テルもそれを知っているからか、特に驚いている様子はない。
「それなら、ダジルさんの方へ先に行きますか?」
「いいえ、ヴォルが先よ」
「いいんですか?」
「今、ダジルに会ったら私、何するかわからないわ」
リンナの顔が険しくなる。
「確かに、すごい大喧嘩して出ていきましたもんね……」
「喧嘩したの?」
二人の会話に思わず口を挟むと、「ミズキは知らなくていい」とリンナに軽く睨まれる。
たまに二人が喧嘩することはあったが、口喧嘩だけで、殴り合いなんかをしていた記憶はない。
しかし、テルが大喧嘩と表現する程とは、かなり酷い喧嘩だったのだろうか。
少し気になるが、更に話が脱線してしまいそうなので黙っておく。
「わかりました。では、俺が先にヴォルへ会いに行くので、安全そうだったら連絡します」
「そうね。……ありがとう。迷惑かけるわ」
「いえ、副リーダーが戻ってきてくれて嬉しいです。ミズキさんも」
テルの安心したような笑顔に、「これが終わったら、この街から出るつもりだけど」とは言えなかった。
◇
テルと別れてから、四人はギルドから離れた小さなカフェで一息つく。
「キュアとメグはどうする? 無理に一緒に行く必要はないよ」
「私はもちろんついていきます!」
「私も、ついていきます」
すぐに返事が返ってきて、思わず苦笑する。
事務所はかなり広いから、多少大人数で行っても問題はないはずだ。
「ヴォルって人、かなり凶暴みたいですね」
「そうみたいだね」
「そうみたい、ってなんか他人事ですね」
メグが訝しむようにミズキを見る。
「だって、僕とヴォルに接点はほとんどないからね。殴られたのも意味がわからないし」
会話をしたことはあるかもしれないが、記憶にないということは、深い関係だったわけではない。
そう思うと、ヴォルがミズキをあそこまで嫌っていたのかはかなり不思議だ。
リンナがため息をつく。
「ダジルの性格は悪いけど、実力はあるの。だからダジルの表面しか知らない人が、ダジルの言葉を真に受けてミズキのことを馬鹿にしてたのよ。一部の人はそのせいでミズキと接点を持たなかったの」
「ダジルさんは、ミズキさんのことを馬鹿にしてたんですか?」
「馬鹿にしてると言うか……」
リンナの言葉を補足する為に口を開きかけるが、その前に瑞希は苦笑する。
「ダジルはさ、全部、悪口みたいに変換されちゃうんだよ。優しさや気遣いで言った言葉も全部、ね。だから僕みたいなのは戦う必要がないって言いたいのに、『お前みたいなやつは戦いの場に立つ資格がない』みたいに言ったりね」
そう言うと、メグは嫌そうな顔をする。
「面倒くさい人ですね」
「理解が速いわね。その通り、面倒な奴よ」
リンナはダジルの口の悪さをよく指摘していたが、改善することはなかった。
それでも子供の頃に比べたら多少はマシになったのだが、知らない人からしたら性格が悪いと思われても仕方ない。
「でも、悪い奴じゃない」
結局のところ、ダジルは本心を伝えるのが苦手なのだ。
メグは呆れた表情を見せる。
「つまり、ダジルさんは周りの優しさに甘え続けてるってわけですね。テルさんしかり、ミズキさんしかり」
「ふん、ムカつく奴だわ」
リンナはムスッとした表情のまま、飲み物を飲む。
相当ダジルには不満があるようだし、そろそろ話題を変えるべきだろう。
「まあでも、ダジルは今のところ家にいるみたいだから、問題はヴォルだ」
「私も、ヴォルとはあんまり接点がないわ。ダジルへつきまとうようになったのも最近のことだし」
「そういえば、ヴォルが女と話しているのを見たんだよね」
キュアは「うん」と小さく頷く。
「直ぐに離れちゃったからあんまり見てないけど、協力してるみたいだった」
「じゃあ、そのヴォルって人をとっ捕まえたらいろいろ話が聞けそうですね」
そこまで考えて、「これって僕たちがやることなのかな」と瑞希は呟く。
「無理そうだったら警備隊に言えばいいわ。でもヴォルのやっていることはパーティーのことだから、一応の始末を付けておいたほうがいいでしょう」
冒険者パーティーの揉め事は、その内部で解決する。それが冒険者パーティーの決まりだ。
出来ることは全てやってから警備隊に引き継いだほうがいいだろう。
小さく音が鳴って、リンナが自分の通信時計を確認する。
「ヴォルと話せそう。大体の人が出払ってるみたい」
「……時間だね」
「……別に、ミズキが会う必要はないと思うわ」
「僕はヴォルの話を聞きたい」
瑞希としては正直、ヴォルに会いたくない。理不尽な暴力はかなり心身ともにきつかった。
だが、ミズキだったら、怖くても不満をぶつけると思う。
今は瑞希の意思が強いから少し怖いが、ここで待っているだけでは絶対に後悔する。
リンナは心配そうな顔で瑞希を見つめる。
「私、ミズキのことを守るから」
横を向くと、キュアの真剣な瞳と目が合う。
そして、キュアは持っていたカバンからガサガサと何かを取り出す。
机に並べられたのは小さな缶のような容器。カラカラと軽やかな音が鳴る。
「あのね、私、針使いっていう能力を持ってるの。今日のためにいろいろ用意したから、私に任せて」
すると、これは麻痺させる針で、これは眠る針で……と容器から針を取り出し、説明を始める。
急に物騒な説明を始められてぽかんとしていると、メグの「こ、こわ」という声が聞こえてキュアが止まる。
「えっと、危険だったら使うってだけ。だから安心して。死なないし」
「う、うん……」
キュアは仕立て屋だから、その能力に疑問はない。
しかし、意外と攻撃的なキュアに困惑しつつ、苦笑する。
「私、絶対にミズキを守るから!」
キュアはキラキラと瞳を光らせて、真剣な表情でじっと瑞希を見つめる。
冗談ではなさそうだし、確かに、そんな武器があるなら少しは安全だろう。
少し緊張気味だった場の空気が緩み、ぎこちない空気が流れる。
「あ、ありがとう?」
驚きすぎて少し素っ頓狂な声になりながら、瑞希は返事をした。




