第一話
「もうそろそろ、マウントの街に入りますね」
宿で一日休んでから、四人は朝から出発した。
今日の席はミズキとキュアが隣、リンナとメグがその前に座っている。
席を変える必要はなかったが、メグが気分転換だと言うので、仕方なく変更した。
「メグはマウントの街に行ったことはあるの?」
「ないです! だから結構楽しみなんですよね」
「それなら、ちょっとだけ気をつけたほうが良いかもね」
メグは瑞希の言葉に首を傾げる。
「あんたがいたリバーの街と違って、こっちはよく乱暴な輩がうろうろしてるってこと。あんたみたいな余計な事をペラペラ言うような人は、すぐに目をつけられて身ぐるみ剥がされるわ」
「余計なことってなんですか。私はリンナさんと違って、必要なことしか喋りませんよ!」
「それが余計なことって言ってるのよ!」
リンナが説明し、それに返事をするメグは、コントのようで少し面白い。
二人の相性は、思ったより悪くなさそうだ。
「ふふっ」
隣から笑い声が聞こえて、瑞希はキュアと目を合わせる。
「二人、姉妹みたいだね」
「そうかも」
笑い合っていると、コホンとメグの咳払いが響く。
「それで、マウントの街に到着したら、どこに行くんですか?」
「まずは冒険者ギルドに行ってみるわ。それで大丈夫そうだったら、『銀の覇者』の所有する建物……事務所に行く」
「冒険者パーティーって事務所とか持ってるんですね。初めて聞きました」
「人が多いから仕方なくよ。冒険者ギルドの中で、大人数を引き連れて我が物顔で居座るわけにはいかないでしょ」
「そういうものなんですね」
ふうんとメグが相槌を打つ。
すると、リンナが瑞希をじっと見つめる。
「ミズキはどうするの? 無理に行く必要はないわ」
「いや、僕も一緒に行くよ。皆に任せっきりにはできない」
「……わかった」
リンナは少し納得いかないといった表情で頷く。
「大丈夫だよ。皆もいるから」
ただ、ヴォルが徒党を組んでいたら困る。
この中で一番体格が大きいのは瑞希だが、ミズキの体はかなり頼りない。だからといって、他の皆も割と華奢な見た目だ。
(そういえば、キュアとメグの能力は何だろう)
何となく、攻撃系ではなさそうだ。
メグの仕事は事務系だろうし、キュアも仕立て屋ということはその関連の能力を持っているのだろうか。
「リンナさんはパーティーの中で人望があったんですか?」
「副リーダーだからね。リンナはダジルに物怖じしないから皆から頼りにされてたよ」
メグの疑問に答えつつ、そう言えば今、他のメンバーはどうなっているのだろうかという疑問が浮かぶ。
「へえ。でもリンナさん、勝手にパーティーを脱退して、ミズキさんを追いかけちゃったんですよね。皆から嫌われてるんじゃないですか?」
メグの指摘に瑞希が黙ると、リンナは苦々しい顔で「否定できないわね」と呟く。
そんなことはないと思ったが、リンナの表情を見るに、誰にも言わずにリバーの街へ向かった可能性がある。
「他のメンバーから連絡は来てないの?」
「一応来てるけど、多くが脱退か活動を休止して他の事をしているみたい」
その言葉に少し安堵しつつ、他のメンバーにかなりの迷惑をかけているのだろうと、眉をひそめる。
「じゃあ、今残っている人はそのヴォルって人に同調してるってことなんですかね」
リンナの言う通りなら、ヴォルの意見に同調していない人はとっくに見切りをつけている可能性が高いだろう。
それなら、事務所に乗り込むのは危険じゃないのだろうか。
「……テルが残ってくれているみたい。なんとかパーティーを終わらせたくないって。それで今はダジルを部屋に閉じ込めているみたい」
「じゃあ今、ダジルは家にいるの?」
「多分ね」
メグの「そのテルって人はいい人なんですか?」という問いに、リンナは続ける。
「テルは初期メンバーになったでかい男よ。ダジルが昔、一人で魔物狩りをしていた時に助けたらしいわ。『豚』だの『デブ』だの悪口ばっかり言われてるくせにダジルを崇めてる変人よ」
「うわぁ、ダジルさんって本当に性格が悪いんですね」
「ええ、そのくせ泣き虫の面倒くさいやつよ」
「よく二人とも友達でいられましたね」
メグの言葉に苦笑する。
確かに、幼馴染じゃなかったらとっくに終わっていた関係かもしれない。
「ギリギリ、口だけが悪いからね」
「えー、私だったら絶対耐えられません!」
「まあ、顔がいいってのもあるかも」
「うわ、ミズキさんってそういう考えなんですか?」
ほとんど冗談だが、ダジルはイケメンだ。どちらかと言うと女性的な顔も相まって。
「ダジルはちょっとメグと雰囲気が似てるかも」
「ミズキ……?」
リンナの困惑した声に「似てると思わない?」と続けるが、「やめてちょうだい」とリンナはその表情に嫌悪感を滲ませる。
「なんか複雑です」
「冗談だよ、でもダジルが可愛い寄りの顔なのは事実」
ダジルはゴツゴツとした男らしい方じゃなくて、どちらかと言うとアイドルみたいな雰囲気のイケメンだ。
「ちょっと気になりますけど、顔が可愛かったところで心根が可愛くなかったら台無しですからね」
リンナは「あんたのことね」とメグを見て鼻を鳴らす。
「私はリンナさんみたいにいちいち嫌味ったらしいこと、言わないので」
「嫌味ったらしい事を言ってるのはどっち? ああ、嫌味じゃなくて子供のわがままってことね。まあ、子供っぽい可愛さならあるかもしれないわ」
「それが、嫌味ったらしいんですよ!」
また言い合いを始めてしまった二人。ふと横を向くと、キュアと目が合う。
(それを言うなら、この場で一番可愛いのはキュアってことになるんじゃない?)
そう思ったが、口にするとまた変なことになりそうで黙る。
そんな事を考えていると、なぜか顔に熱が集まっていくのを感じて、瑞希はとっさにキュアから視線を逸らす。
(まさか)
まさかの感情が頭に浮かんだが、言葉にするとそれを認めることになりそうで、瑞希は急いで首を振った。
◇
マウントの街に入り、四人は馬車から降りる。
「なんか、ピリついてますね」
街の雰囲気はこれまでの場所と比べて少し緊張しているように感じる。
ミズキの記憶と比べても、少し違和感がある。
「取り敢えず冒険者ギルドに行くわよ。テルと待ち合わせをしてるから、まずは話し合いをしましょう」
リンナを先頭にして、四人は歩き始める。
その道中、街に入ってから感じていた緊張感がどんどん強まり、リンナの表情が険しくなる。
冒険者ギルドに入っても、緊張感は消えず、むしろもっと強くなる。
いくつか訝しむような視線を受けるが、その多くはリンナに向けられているものだ。
幸いなことに、暴れたり、暴言を投げられることはない。
想像していたより静かなギルド内に少し呆然としつつ、リンナの後を歩いていると、メグに袖を引かれる。
ちらりとメグに視線を向けると、周りの様子を見て心なしか怯えているように見える。
「副リーダー……」
しばらく歩いていると、声を掛けられる。
テルのようだが、ミズキの記憶のテルとは少し様子が違う。
「久しぶり。痩せた?」
「……お久しぶりです。そりゃあ、今は忙しいですからね。少し痩せたかもしれません」
「悪いとは思ってるわ。今日は落とし前をつけに来たから。ダジルのおかしくなった頭をどうにかしてみる」
テルは、ミズキの記憶より少し痩せている。といっても、少し肥満気味なのは変わりない。
「ミズキさんも、久しぶりです。いろいろ聞きました。ヴォルが貴方にやったことも。俺が言うことじゃないかもしれませんが、すみません」
「……テルが謝ることじゃないよ。僕も怒ってるわけじゃない。この異常な事態をどうにか出来たらって思ってるだけ」
テルはその言葉に「そうですか……」と返し、ミズキの後ろを見る。
「お二人は?」
「伝えたでしょ、なぜか付いてきたの」
その言い方だと誤解してしまうだろう。瑞希は「僕の友達」と付け加えておく。
「そうなんですね」
テルは二人……というよりメグを見ている。
ちらりと見て、視線を逸らして、またちらりと見る。
「はじめまして。私、メグって言います!」
「キュアです」
「て、テルです」
テルは頬を少し赤く染めながら自己紹介する。
(メグみたいな人が好きなのかな)
確か、記憶が正しければ、テルは今年で二十歳だったはずだ。
ダジルといると、どうしてもテルの方が年上に見えてしまうが、ちゃんと年相応な表情を見せている。
なんとなく、ずっとダジルを崇めていたテルの意外な一面を知って少し複雑な気持ちだ。
「少し話せる場所に移動しましょうか」
ここでは人目が多すぎる。四人はテルの後に続いた。




