第十話
夜が明け、朝になり、ついに出発の時。
「……おはよう」
瑞希が準備を終えて下に降りると、準備万端なリンナとメグ、そしてキュアがいた。
「おはようございます! どうですか?」
メグはそういうと、ひらりとその場で回る。
「今日も似合ってるね」
メグは、薄い黄色のワンピースを着ている。
相変わらず肩のあたりは隠れていて、全体的に綺麗な印象に収まっている。
「キュアさんも、可愛いですよね!」
「そうだね」
キュアは薄いピンク色のワンピース。今までの服とは少し違っているが、いつもと同じピンク色。一体何着持っているのか不思議なくらいだ。
キュアと目が合い、微笑むと、キュアも笑顔で返してくれる。
「じゃあ、行きましょう!」
メグはそう言うと振り返って歩き始める。
「その、リンナも似合ってるよ」
歩き始める二人をキョロキョロと目で見つめるリンナ。
リンナも珍しく、肩のあたりが少しシースルーの紺色のワンピースを着ていて、いつものスポーティーな雰囲気とは違っている。
二人に似合っていると言って、リンナにだけ言わないのは仲間外れみたいでよくないだろう。
「ふ、ふん……」
リンナは瑞希の言葉に小さく鼻を鳴らすと、そそくさと歩いて瑞希の前に行ってしまった。
「そう言えば、何に乗って向かうの?」
道中はリンナが手配すると言っていたので全てお任せだ。
「ババルルを借りようって言ってたんですけど、ミズキさんはババルルが苦手って聞いたので、馬車を借りました」
少し歩いて見えてくるのは、小さめの馬車だ。
でも馬とは違うし、ババルルでもない。馬に近い見た目だが、微妙に何かが違う。
やっぱり馬車と呼ぶには少し不自然な気がする。
「しかもこれ、めちゃくちゃ速いらしいですよ! なんか特別な馬だって言ってました」
「へえ」
中に入ると、二人掛けの椅子が二つある。
「うーん、ミズキさんは誰の隣が良いですか?」
「……別に誰でも良いよ」
「じゃあ、私の隣で!」
メグがそう言うと、リンナが「駄目よ!」と声を出す。
「ミズキは私の隣」
「ええ~、なんでですか?」
「あなたが隣だとうるさくしそうだから。あとミズキに迷惑かけるでしょ」
「じゃあキュアさんでもいいじゃないですか」
メグはちらりとキュアを見る。
「私はミズキの前がいいです!」
キュアは満面の笑みでそう返す。
(カオスだな)
メグは多分リンナをからかいたいだけだろうし、キュアの考えていることはよくわからない。
「はぁ、じゃあ、ミズキさんはリンナさんの隣ってことですね」
メグは諦めたようにため息をついて、椅子に座る。
瑞希も椅子に座るが、妙にキュアからの視線を感じて少し気まずい。
「そういえばさ、馬車っていうけどこれ引っ張ってるの馬?」
なんとかこの気まずい空気をどうにかしたくて口を開くが、皆から変な顔で見られてしまった。
「何言ってるんですか? 馬車だから馬に決まってるじゃないですか」
「そ、そうだよね」
そう言われて確かにそうだと納得するが、なぜかしっくりこない。
(おかしいな)
ミズキは馬車というのに違和感を持っていただろうか。
また頭が痛みだし、首を振る。
(これは馬車……)
そう考えたら、ミズキは特に不自然に思っていなかったような気がする。
きっとミズキの記憶がまだ完全に思い出せないことの弊害なのだろう。
目を閉じると、ふわぁと欠伸が出る。一週間分の疲れが蓄積しているようだ。
(眠い)
まだまだ目的地にはだいぶ遠い。瑞希は少し眠ろうと目を閉じた。
◇
「起きなさい!」
頬を叩かれる感覚に目を開けると、リンナと目が合う。
「あれ?」
眠っていたのだろうか。口を拭うが、よだれは出ていないようだ。
「今日の宿よ。アースの街の宿に泊まるから」
リンナの後に続いて馬車から降り、ぼんやりとしたまま三人についていくと、綺麗な建物に入っていく。
「二人ずつ二部屋ですから、私とミズキさん、リンナさんとキュアさんですね!」
「そうね」
リンナはあっさりと頷く。メグが「いいんですか?」と聞くと「あんたは男でしょ」とリンナが返す。
「ふぅん。まあ私もそのつもりだったんですけど!」
メグはむうと唇を尖らせる。男と一緒は嫌なんじゃないかと思ったが、その表情から見るに、思ったような反応が返ってこなくて拗ねているだけに見える。
「ミズキさんも、いいですか?」
「うん」
空いている二人部屋はそれぞれ少し離れたところにあるらしく、リンナとキュア、瑞希とメグはそれぞれ別れた。
◇
「疲れましたね、って言ってもミズキさんはぐっすり寝てましたけど」
「うん。気を使わせたかな」
「リンナさんが『うるさくしたらミズキさんが起きちゃうでしょ!』って言ってたから、みんな静かにしてました」
「なんかごめんね」
「良いですよ、私も寝てましたし。でもお昼の時間もずっと寝てたんで心配しましたよ。一応起こしたんですが、むにゃむにゃして全く起きなかったんで、ちょっとかわいかったです」
そう言えば朝からすっかり記憶が飛んでいる。
ずっと眠っていたからこんなに身体が硬いのかと、荷物を置いて、伸びをする。
すると、ごぉ、と獣の鳴き声みたいな音が瑞希の腹から聞こえてくる。
「ご飯を食べに行きましょう!」
朝ごはんも簡易的なものしか食べていなかったから、かなりお腹が減っているみたいだ。
二人はクスクスと笑いながら、急いで準備をした。
泊まる宿にはご飯のサービスがないみたいで、一行は近くの食堂へ向かった。
「ここはロックの街に近いですから、ロックの街のご飯もあるみたいですね」
いろんな種類の中から瑞希が選んだのは、ラーメンのような食べ物。
どうやら一人一つの小さめな主食と、何人かで副菜を分けて食べるのがここら辺の食べ方みたいだ。
皆でワイワイと決めるのは少し楽しい。
「ちょっと香辛料がきついけどおいしいわ」
メニューには赤いものが多くて、中華料理みたいな雰囲気の物が多い。
瑞希はできるだけ赤くないものを選んだが、それでも全体的に辛い味付けの物が多い。
「うっ」
目の前に座るキュアが小さな肉の塊を食べて顔をぎゅっとしかめる。
なんだろうと思って瑞希もそれを口に含むとあまりの辛さに目を見開く。
「あはは、二人とも変な顔!」
キュアの隣に座るメグが、瑞希とキュアの顔を見て笑う。
「だって、辛いよこれ」
「二人とも大袈裟ね」
リンナもそれを食べるが、なんともない顔で平らげる。
「お二人は辛いのが苦手なんですね」
「そうだね。キュアも?」
「……うん」
思いがけないキュアとの共通点に目を合わせて微笑む。
「うわ、リンナさん怖い顔」
メグがそんな事を言うので横にいるリンナを見ようと視線を動かすと、顔を背けられる。
仕方ないので顔を前に向けて辛くなさそうな食べ物を選ぶ。
「昼の分まで食べなきゃ倒れるわよ!」
ゆっくり吟味しているとリンナはそう言い、瑞希の皿にどんどんおかずを入れていく。素早く入れていくのに、そのどれもが赤くないものだ。
やっぱり母親みたいだなと思いながら、瑞希は一つ野菜を口にした。
◇
ご飯を食べ終わって、明日も早いから休もうと、それぞれの部屋に戻る。
「絶対、絶対、私の方を向かないでくださいね!」
部屋に備え付けられている風呂に入って、出てきたメグは、顔を覆って叫ぶ。
「わかったよ。朝まで見ないようにすれば良いんでしょ」
「はい! 絶対、約束を破っちゃだめですから!」
可愛くないから、という理由ですっぴんはNGらしい。別にどんな顔でも気にしないが、メグの意思を尊重して顔を背けておく。
ごそごそと、少しの物音がして、それが止んでから、「もういいですよ!」とくぐもった声が聞こえてくる。
瑞希も風呂に入らなければいけない。振り返ると、メグは布団を頭まで被っていた。
「じゃあ、お風呂にいってくるね」
「はい。私はもう寝るので。おやすみなさい」
「おやすみ」
布団をかぶっているとまるでミノムシみたいだ。少し面白くて、瑞希は声を出さないように小さく微笑んだ。




