第九話
六日目のバイトは、朝から武器の搬入をして、午前中までに殆ど終わってしまった。
リンナも着いてこようとしたが、メグと話をした後、「ちょっと今日はやめておく」と二人で何処かに行ってしまった。
「うーん、確かに、友人もそんな事を言ってたな」
昼食を食べながら、冒険者パーティーで起きていることをジンにも伝えると、眉を顰められた。
「ちょっと心配だな。でも治るかもしれないんだな?」
「まあ、それは僕の推測でしかないんですが」
「いや、それならまだどうにかなるかもしれん。どのパーティーにもだいたい治癒系の能力をもってるやつがいるだろ? 他のやつが見放しても、パーティーメンバーなら手を差し出す奴もいるだろう」
ジンはため息をつく。
「まあ、いつかは起きることだと思ってたんだ」
「なにか知っていたんですか?」
「いや、そういうことじゃなくてだな。冒険者パーティーでは能力が使えるかどうか、かなりその判断が厳しいよな。べつにその害力持ちが原因じゃなかったとしても、いずれ起きていたことだと思うぞ」
能力のことで苦労したジンの言葉には説得力がある。
「根本的な意識を改善する必要はあるが……俺には難しい話だ。冒険者の依頼を受けなくなってから、一気に交友関係が切れちまったからな」
「そうなんですね」
「俺もミズキについていきたいが、マリの傍を離れるのは無理だから、ここから応援させてもらう」
「ありがとうございます。多分またすぐにこっちに来ると思います」
「こっちに引っ越すのか?」
「今のところはそのつもりです」
「あの嬢ちゃんはいいのか? 幼馴染なんだろ」
そう言われて、一昨日のことを思い出す。
「何かあったか?」
ニヤニヤしているジンに苦笑しつつ、「いえ」とはぐらかす。
「はは、ミズキみたいなぼうっとしてるやつは、皆、世話を焼きたがるんだよな」
「僕、ぼうっとしてますか?」
「ああ、顔もどっちかっていったら可愛いほうだし、世話焼きな性格のやつから好かれやすいだろ」
「そう、ですかね」
顔が可愛いなんて、ミズキとして言われたのは初めてだ。
少し恥ずかしくて、瑞希は顔に熱が集まるのをごまかすようにご飯を食べた。
◇
午後には用意していた武器の陳列が終わり、帰る頃には店として殆ど完成した状態になった。
「じゃあ、今日で終わりってことだな」
「はい。すみません。こっちの都合で早めてもらって」
昨日、早めに帰りたいと伝えると、快く承諾してくれた。「なんならすぐに向かったらいい」とまで言ってくれたが、出来るだけの事はやりたいと告げると、「なら早く終わらせよう」とかなり急がせてしまった。
とは言いつつ、元々まだ武器自体の用意は途中までだったらしく、揃っていないものも多々ある。
「気にするな。またこっちに来たら、一緒に飯でも食いに行こう」
「ええ」
せっかくだからと、ジンと連絡先を交換する。
「じゃあ、またいつか。何かあったら頼ってくれていいからな。直接は助けられんが、屈強な友人ならマウントの街に何人か居るから」
「はは、そうならないように気をつけます」
「おう!」
帰り際、ジンに「マリに会っても、マウントの街に行くことは言うなよ」と笑いながら言われた。マリなら好奇心で着いていきそうだからと言っていたが、確かに言いそうなことだ。
瑞希は馬車の中で、ぼうっと外を眺める。
(明日、出発だ)
多分一日か、長くても二日ぐらいでマウントの街には帰ることが出来るはずだ。
(心配だな)
ダジルもそうだが、その周りも心配だ。
ヴォルが仕切っているとしたら、パーティーが崩壊している可能性もある。
ダジルはあの性格だから、かなり交友関係が狭い。ミズキも友達は少ない方だったが、ダジルよりはマシだった。
(プライド、高いもんな)
ダジルの両親は小さい頃に亡くなって、ダジルは祖父母に育てられていた。
しかも、ダジルの祖父母はかなりダジルに似た性格で、違うのは外面がいいということぐらいだ。その上、祖父母はかなり古い価値観の人で、ミズキがちょっとでも女みたいな言葉遣いをしたら、「なよなよしてんじゃないよ!」と叫ぶこともあった。
悪い人ではないが、クセの強い人達だ。
一度だけ、ダジルはミズキに「俺は誰からも必要とされてなんかない」と弱音を吐いたことがある。
他人を傷つけることで、自分を守る。ダジルはそんな奴だ。
瑞希の記憶があるからか、ミズキはどうしてもダジルのことを嫌いにはなれなかった。
ピコンと通信時計が鳴る。キュアからのメッセージだ。
『メグの返信につい乗り気で返しちゃったんだけど、よかったのかな』
瑞希は少し苦笑する。
『別にいいよ。そっちこそ気を使ってない? 無理に一緒に行く必要はないんだよ』
『私も一緒に行きたい』
『それならいいんだけど』
ふと、キュアは本当にマウントの街出身なのだろうかと疑問に思う。
最初はああ言っていたが、今考えると少し怪しい。
(まあいいか)
どっちにしろ、それで何かが変わるわけではないのだから。
◇
宿に戻り、夜、出発の準備をしているとドアがノックされ、リンナと目が合う。
「何か用でもある?」
「ちゃんと準備してるか確認しにきた」
「流石に準備してるよ」
いつもはギリギリにしか行動しないが、流石に今回はそういうわけにはいかない。
しっかりと荷造りをして、カバンも買った。帰り際、ジンに教えてもらった店で買ったから、頑丈で大容量だ。
「ミズキは、もしダジルが自分の意志であなたに酷いことをやったんじゃないって言ったらどうするの?」
「どうするって?」
「許すの?」
「許すというか、そもそもそこまで怒ってないよ」
「本当?」
リンナは疑惑の目を向けてくる。
「なんか、追放されてから変わったわね、ミズキ」
「……そう?」
瑞希の記憶が再び入ってきたからだろうか、と考えるが、口に出すことは出来ない。
内緒にしたいわけじゃないが、ミズキが隠していた以上、隠したほうがいいのだろう。
「だってミズキなら、『もう我慢ならない!』って怒りそうだと思ってた」
「……そうかな」
ミズキだったら、そう考えていたのだろうか。じゃあ、今思考しているのは瑞希?
そんな考えが頭に浮かんできて、頭がピリピリと痛む。
「大丈夫?」
「……うん。ちょっと疲れたみたい」
「それならいいけど、ちゃんと休みなさいよ」
「うん」
瑞希とミズキ、この二人は果たして別人なのか。もし別人だとしたらミズキはどこに居るのだろうか。
(駄目だ、考えられない)
その事を考えようとすると、頭がオーバーヒートしたかのように悲鳴を上げる。
まるで、考えてはいけないと誰かから圧力をかけられているようだ。
でも、ミズキとして振る舞うのが苦痛なわけではない。
まだ二人分の記憶を処理できなくて頭が混乱しているだけなのだろう。
リンナは「ちゃんとゆっくり休んでね」と言うと、さっと部屋から去る。
(明日、帰るんだ)
正直、ヴォルに会うのは結構怖い。
(大丈夫、皆いる)
リンナ、メグ、キュア、そしてジンさんだって頼りになる友人だ。
一応、リンナはヴォルなんかに会う必要はないと言っていたが、リンナだけを行かせるのは違うだろう。初期メンバーとして最後ぐらい何かやるべきだろう。
(これは、ミズキの意志だ)
許すとか許さないとか、そんな話じゃなくて、もっと根本的にそうしなければならないと感じる。
荷造りが終わって、瑞希は眠りにつく。体を動かしたおかげか、すぐに意識が落ちていった。




