第八話
「その、シルヴァって女の人が、怪しいんですね」
「うん。僕以外に目撃情報はないみたいだから確証とは言えないけど」
「私、その人知ってるかもです」
「本当?」
「はい。でもミズキさんと同じく確証があるってわけじゃないです。一緒に服を買った時に言ってたじゃないですか、『シルヴァって人が怪しい』って。それでいろいろ調べたんですよ」
メグはそう言うと、ご飯を口に運んで「はあ」とため息をつく。
「せっかくの休みなのに、仕事の話をしてくるなんて、ミズキさんは鬼畜ですね。虐めるのが好きなタイプですか?」
「語弊がある言い方はやめて。でもごめん」
「いいですよ、別に。明日は休みなんで、ここでゆっくり寝てご飯を食べて寝るだけの生活をする予定ですから」
悪いとは思いつつ、メグの話の続きを聞きたい。じっとメグを見つめると、「続き、聞きたいですか?」と微笑まれる。
「さっさと喋りなさい」
「うわ、リンナさん、怖い声出さないでくださいよ」
「ムカつくわね、話をしなさい、メ・グ・坊」
リンナの言葉に、メグの手が止まる。
「なんですか、その呼び方は」
「何って、ビルさんが言ってたわよ、メグ坊は昔、みかんみたいだったって。写真も見せてもらったわ」
「な、なな……」
メグの顔がどんどん赤くなっていく。
リンナはカウンターの方を指さして、ふん、と鼻を鳴らす。
「だって、あそこに置いてあったじゃない」
「リ、リンナ……」
隠しているわけじゃなくても、多分その過去を知られたくないのだろう。メグは真っ赤な顔でリンナを睨む。
「あれは私じゃない! 忘れてください!」
「はあ? 楽しそうに映ってたじゃない、なんでそんなこというのよ!」
リンナの言っていることが間違ってるとは思わないが、少し良くない気がする。
とは思いつつ、メグがその格好をしている理由が分からないから、何と声を掛ければいいか悩む。
「二人とも、ちょっと声を落として」
周りに居る人がちらりとこちらを見て複雑な表情を見せている。
また喧嘩をしてディナに迷惑をかけるわけにはいかない。
「リンナ、メグの気持ちを尊重してあげて」
きっと恥ずかしいのだろう。メグは「かわいい」に相当なこだわりがあるようだし。
リンナは理解できないといった顔を見せるものの、瑞希の言葉に渋々頷いた。
「ふん、『好き』一つ言えないくせに無神経なことはズバズバ言えるんですね」
「な」
せっかく落ち着きそうだった雰囲気の中、なぜかメグが言い返してしまい、二人が睨み合う。
「メグも、ちょっと落ち着いて」
リンナも顔を真っ赤にさせるが、言い返さず、じっと睨みつけるだけだ。
「ミズキさんに免じて、これぐらいにしてあげます」
実は「好き」はもう言われたんだけど、と言いそうになったが、これ以上混乱させるのは良くないだろう。
「はあ、それで、メグはシルヴァを知ってるんだっけ?」
とにかく話を元に戻そうと話を無理やり転換させる。
「知っているというか、調べた時に見つけたんです」
メグはちらりと周りを見回してから小声で続ける。
「『シルヴァ』『イア』この二人の名前を犯罪者リストで見つけました。二人は若い女性、そしてそのどちらも『害力持ち候補』の記載があったんです」
「なるほど」
「その中でも、シルヴァっていう方は身元がはっきりしているみたいで、いろんな訳ありな子供達が暮らしている孤児院で育ったみたいです」
「それ、僕達に伝えていいの?」
「別にいいですよ。多分、申請したら誰でも見られるものですから」
個人情報……と思いつつ、情報を整理する。
「イアっていうのは?」
「シルヴァとイアは、二人で行動しているみたいなんです。ミズキさん、他に怪しい女の人を見かけませんでしたか?」
「いや、僕が見たのはシルヴァだけだったよ」
もしやヴォルがイアなのだろうかと考えるが、ヴォルは「若い女性」ではない。多分、メグの見た記載は第三者が書いたものだろうから、それは不自然だ。
「ミズキさんの説明通りなら、治癒できるかもしれないんですね」
「まあ、推測だからわからないよ」
「一応上司に伝えておきます。それで、ミズキさんはマウントの街に向かうんですよね」
「うん、明後日に戻るよ。ちょっと早めに友達の様子を確認したいからね」
「明後日ですか?」
メグはうーんと唸ったあと、「わかりました」と微笑む。
「私もついていきます」
「え?」
「だから、ついていくって言ってるんです。私もマウントの街の様子を確認したいですし、ミズキさんが心配なので!」
疲れている様子のメグにそんな事をしてもらう必要はない。でもその表情から察するにむしろ行きたがっているようにも見える。
「あんたがいなくても、私がいれば充分よ」
「ええ~、リンナさんは鈍感ですから、ミズキさんを守るにはちょっと頼りないと思います!」
また二人が睨み合うので、ミズキはため息をつく。
「わかった。メグがいいなら付いてきていいよ」
リンナは「なんでよ!」と文句を言うが、逆に駄目な理由が見つからない。
(いや、一緒に行ったら道中が面倒くさいことになる?)
リンナとメグがずっとこの調子だったら疲れてしまいそうだ。
すると、メグは「あ!」と声を上げる。
「キュアさんにも言って、四人で向かいましょう!」
「え」
「私が連絡します!」
そう言うと、止める間もなくメグはさっと通信時計を開いてメッセージを送り始める。
「だ、駄目よ」
「なんでですか?」
「だって、あの女は……」
リンナはそこで言葉を止めてふん、と鼻を鳴らす。
キュアも連絡したら付いてきそうではある。少し待っていると、メグの通信時計がピコンとなり、もう返信がきたようだ。
「キュアさんも行くって言ってます!」
嬉しそうに微笑むメグに対して、苦々しい顔のリンナ。
(厄介なことになるかも?)
騒がしい旅になりそうだと、瑞希は心の中で「どうか何も起きませんように」と呟いた。




