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TS転生? いいえ、元からでした?  作者: 在間 薙
三章 いざ出発の時

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第二話

「起きなさい!」

「ぅん?」

「起きなさい! 今日もバイトでしょ! 遅刻するわよ!」


 肌寒い感覚にぼうっと目を開けると、体の上にあったはずの布団を持ったリンナと目が合う。


「……リンナ?」

「そうよ、私よ、目が覚めたかしら」

「……うん」


 昨日のことを思い出して、少しの気まずさにリンナから目を逸らす。


「何辛気臭い顔してんのよ、ぼさっとしてないで起きなさい!」


 しかし、リンナはいつもと同じ様子で、昨日の事など、何もなかったかのようだ。

 ぼうっと寝惚け眼をこすっていると、「早くしなさい!」と急かされるので、瑞希は急いでベッドから降りる。


「おはよう。別に起こしてくれなくてもいいんだよ」

「……別に、私が勝手にやってるだけだから」


 リンナは頬を少し赤らめて視線を逸らす。


(なるほど)


 今まで気が付かなかったが、確かにこれは自分が鈍感すぎる。


「ちゃんと準備しなさい」

「はいは……はい」


 途中で睨まれて、瑞希は思わず背筋を伸ばして返事をする。

 欠伸をしながら、取り敢えずぼうっと立っていると、リンナは机を挟んで瑞希の前に座る。


「リンナは今日、どうするの?」


 部屋から出る気配がないので瑞希も座って話を振ると、リンナは少し真剣な顔になる。


「いろいろ情報を集めてみるわ、ミズキの言ってたシルヴァって女、ちょっと気になるのよね」

「なにか思い当たることでもある?」

「……思い出したことがあるの。昔、パーティーメンバーが『害力持ちの人に襲われかけたことがある』って話をしていたのを聞いたことがあって、確か、その時『綺麗な女に騙されかけた』って聞こえたのよ」

「ふうん?」


 確かにシルヴァは綺麗な女だったが、それだけでは証拠としては弱い。


「綺麗な女と待ち合わせをしていたけど、その翌日、仕事で怪我をして治療を受けたら、その待ち合わせがおかしいことに気がついた。その待ち合わせを約束する時にその女は『あなたの能力を使って、復讐をしましょう』と言っていた」

「よく覚えてるね」

「うろ覚えだったのを頑張って思い出したのよ」


 リンナはじろりと瑞希を睨む。

 いや、正確には睨んでいるわけじゃない。元々の目つきが鋭いから、少し見つめられるだけで圧を感じてしまうだけだ。


「それがシルヴァだったとしたら、逮捕とかされてないのかな」

「冒険者なんてする自尊心の高い人達が、そんなことで警備隊に通報すると思う?」

「確かに」


 全員がそういうわけじゃないが、冒険者は強がりな人が多い。自業自得という価値観が強くて、「出来る限り自分で問題を解決するのが一人前」という考えの人も少なくない。

 ダジルも例に漏れず、かなり強がりだ。


「着替えたいんだけど」


 話を聞きたいのは山々だが、準備をしなければいけない。

 

「見ないわよ!」


 どうするのか目線で尋ねると、リンナは体ごと後ろを向く。

 別に、見られて嫌というわけじゃない。服を脱いだって見えるのは貧相な体だけだ。

 瑞希は昨日用意しておいた服を手にとって、着替えを始める。


「……復讐ってなんだろう」


 リンナの言っている人がシルヴァだとしたら、彼女はなんらかの復讐の為に、何かをしているということなのだろうか。


「そのパーティーメンバーは以前、能力で不当な扱いを受けていたそうよ」

「なるほど?」

「……納得できないことは多いけど、私、ジンさんの言っていることは理解できたの。それを踏まえてちょっとだけ、気になることがあるの」

「なに?」

「ちゃんと分かってから教える」

「わかった」


 着替え終わったのを伝えると、リンナは立ち上がって瑞希の方を向く。


「だから今日は遅くなるかもしれない。遅くなりそうだったら連絡するわ」

「うん。……あ」

「なによ」


 言葉を止めた瑞希を、リンナは不思議そうに見る。


(キュアと会うこと、言ったほうが良いのかな)


 リンナは「何かあるならハッキリ言って!」と腕を組んで真っ赤な髪を揺らす。


「今日の夜、キュアが会いに来るんだけど……」


 そう言うと、リンナは眉を顰めて「は?」と低い声で唸る。


「だから、キュアが……」

「なんで会いに来るのよ、まさかミズキが呼んだとか言わないわよね」

「……キュアと話す必要があるんだよ。大丈夫、キュアがここに来るから、危険なことはないよ」

「ああそう、それで、ピンク女はいつ来るの?」

「僕が帰ってからだから、七時ぐらい?」

「それまでには帰るわ」

「別に……」


 リンナがいなくても大丈夫だよ、と続けようとするが、睨まれてしまい、瑞希は口を閉ざす。


「ほら、朝ご飯食べなきゃいけないんだから、さっさと顔洗ってきて!」


 少し気まずい雰囲気が流れる中、リンナに背中を押され、瑞希は洗面所へ向かう。

 顔をタオルで拭き終わって振り返ると、「早く行くわよ!」とリンナは瑞希の手を引っ張った。


 ◇


 四日目のバイトは店内を掃除することからはじまり、昨日の残りを綺麗に片付けてから、什器の搬入が始まった。

 何らかの能力を持っているのだろう、大柄な配達員が次々とその身体よりも大きな荷物を持って来る光景は少し面白い。


「身体は大丈夫か?」

「はい。意外と重くないので大丈夫です」


 次から次へとやって来る荷物が一段落し、また次の荷物を待つ間、瑞希とジンは一息つく。


「それならよかった。まあ、まだまだ荷物はあるんだが……」

「まだまだ平気です」

「わかった。でも体が痛くなったりしたらすぐに言えよ?」

「はい」


 棚やテーブルなどの大きな荷物は、配達員がある程度のところまで運んでくれた。そのおかげで動かす距離が短くて済んだし、大きな荷物を持った時は殆どジンがその重さを引き受けていた。

 それに、台車みたいな形をした便利な道具もあって、一人で荷物を運んでも身体が悲鳴をあげることはない。


「予定より早く終わりそうだな。もうちょっとゆっくり進めていこう。ミズキも楽に給料が欲しいだろ?」

「……まあ、そうですね」


 ジンは瑞希の返答に豪快に笑う。

 お金が急遽必要だということはないが、貰える分は貰っておきたいし、それが楽なら尚の事。


「そういえば、どんな武器を売るんですか?」


 ミズキは一切の武器を持っていなかった。一度剣を買おうかと考えたこともあったが、使う機会はないだろうと買うのをやめた記憶がある。

 武器屋には付き合いで行ったことしかなく、興味もなかったからあまり印象に残っていない。


「やっぱりマリが斧を使うから……ってミズキに言ってないよな」

斧豪(ふごう)能力(スキル)を持ってるんですよね」

「あれ、言ってたか?」

「友達が教えてくれました。有名だって言ってたんですけど……すみません、良くなかったですかね」


 冒険者はその能力(スキル)を隠すか隠さないかを選択するのが結構極端だ。リンナみたいに治癒系の能力(スキル)を持っている人は特にその傾向が強い。

 能力(スキル)で多くの人の注目を得るのは、必ずしも良いことばかりではない。執拗な勧誘に遭ったり、嫌な事を言われることもある。


「いや、マリは別に能力(スキル)を隠しているわけじゃないからいいんだ。それなりに有名な冒険者の一人でもあるし。まあ、だから斧にはこだわって仕入れをしてるんだが……斧を作る鍛冶屋が、かなり偏屈なのばっかでな。マリもどちらかというと偏屈な性格だからか、かなり変わった武器が揃いそうなんだ」

「変わった武器、ですか」

「ああ、棒の先に玉っころが鎖で繋がっていて、それをぶん回す武器とか、でっかいハサミみたいなやつとかな」

「危なそうですね」

「その通りだよ。ちなみに俺は剣を使ってるから、剣もいくらかこだわってるんだ」


 確かに、ジンの手はゴツゴツしていて、胼胝(たこ)のような膨らみがあった。いわゆる剣ダコというものだろう。ダジルにも同じようなものがあった。


「ここ数年はその剣をちょっとちっさくして二刀流を極めてたから、そっち方面にも力を入れて、幅広く取り扱う予定だぞ」

「なんか、かっこいいですね」

「お、ミズキもわかる口か」


 ジンはニヤリと笑う。二刀流と言えば「宮本武蔵」なんかが瑞希の記憶でも有名だ。生涯無敗で「剣豪」なんて呼ばれていたその武勇伝は日本人なら誰でも知っているだろう。

 瑞希の兄は昔から漫画が好きで、ジャンルを問わず、ひたすら漫画を読み続けていた。特に歴史なんかは殆ど漫画で覚えていたぐらい膨大な量を読んでいて、その影響で瑞希も歴史漫画などは馴染み深いものだ。


「やっぱり、二刀流って剣を使う人でも憧れるものなんですか?」

「そりゃあ当たり前だろ。だって剣自体がかっこいいのに、それが二つ。単純に二倍かっこいいってわけだ。まあ後は一人で攻めやすいってのがあるな」


 後者の方が理由としては大きいのではと考えていると、ジンが「でも、大抵のやつが二刀流をしてイマイチだったってその考えが消えるってわけさ」と続ける。


「あれ、パーティーは組んでなかったんですか?」


 冒険者パーティーを組んでいたら防御と攻撃で分担できる。

 だが、ジンと会話をしていると、誰かと一緒に戦っている様子が全く浮かんでこない。有名な二人ならパーティーに勧誘されることも多そうではあるが……。


「パーティーは考えたことがないな。マリについて来られる奴はいても、すぐにその破天荒ぶりに諦める奴が殆どだし。俺だって何回も絶望しかけたさ」

「ジンさんは諦めなかったんですか?」

「死ぬ気でついていったんだ。マリについていけるほどの力があれば、能力(スキル)なんて使わなくても冒険者で生きていけるってことだろ? 俺はそれを自分自身で証明したかったんだ」


 そう語るジンの表情は、どこか嬉しそうな雰囲気だ。


「なんというか、いい話ですね」

「実際は汗と泥にまみれながらマリにあちこち連れ回されて、極限状態って感じだったんだがな」


 アハハ、とジンは笑い飛ばす。


(そんな状態から、恋愛に発展するもんなんだ)


 なんとなく、二人の恋の馴れ初めが気になったところで、次の荷物がやって来て、瑞希とジンは受け取りに向かった。

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