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王女殿下はお兄様が大嫌い!

王女殿下はお兄様が大嫌い!

「……ベラ?」

王宮の庭園に設けられたお茶会の席。

友人たちとのおしゃべりを終えたヴィクトリアは、先ほどまでイザベラが座っていた椅子を見つめていた。

いない。

ついさっきまで、ここで待っているように言っておいたはずなのに。

「……どこに行ったのかしら」

ヴィクトリアは周囲を見回した。

菓子の並ぶテーブルにも、色とりどりの花が咲く東屋にも、あの淡い桜色の髪は見当たらない。

「ねえ、ベラを見なかった?」

近くに控えていた侍女に尋ねると、侍女は恭しく頭を下げた。

「イザベラ様でしたら、先ほど王太子殿下とご一緒に庭園の奥へ向かわれました」

「……お兄様と?」

ヴィクトリアは露骨に顔をしかめた。

よりによって、あのお兄様。

ベラのこととなると、途端に気持ちの悪いほど甘ったるくなる兄の顔が浮かぶ。

「……そう」

ヴィクトリアの声が、すっと冷えた。

「どちらへ行ったのか、教えてくださる?」

その声は、いつもより少しだけ低かった。

侍女が庭園の奥を指し示すと、ヴィクトリアは礼を言って歩き出した。

白と深紅のドレスの裾が、勢いよく翻る。

「……お兄様ったら」

せっかく今日は、ベラに見せたいものがあるというのに。

お母様にお願いして作っていただいた、とっておきのお人形。

きっと、ベラも喜んでくれるはずよ!

そう思って、ずっと楽しみにしていたのだ。

「人がいない間に連れていくなんて……!」

ヴィクトリアは小さな拳を握りしめた。

絶対に文句を言ってやる。

そう決意して、銀色の髪を揺らしながら庭園の奥へと向かった。


庭園の奥へと続く小道を進んでいたヴィクトリアは、ふと足を止めた。

色とりどりの薔薇が咲く花壇の向こうに、見慣れた淡い桜色の髪が揺れている。

「あっ、ベラ!」

思わず声を上げると、少女がこちらを振り返った。

「ヴィーお姉様!」

イザベラの顔が、ぱっと明るくなる。

その笑顔を見た途端、ヴィクトリアの頬も自然と緩んだ。

「もう! 探したんだから!」

小走りに駆け寄ると、ヴィクトリアはイザベラをぎゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい、お姉様」

「いいのよ。ベラが無事なら!」

ヴィクトリアはイザベラの頬を両手で包み込み、その愛らしい顔を満足そうに眺めた。

「んもう、本当に可愛いんだから!」

「えへへ!」

嬉しそうに笑うイザベラに、ヴィクトリアも満面の笑みを返す。

けれど。

その隣に立つ人物へ目を向けた途端、笑顔が消えた。

「……お兄様」

「やあ、ヴィー」

アレクシスは涼しげに微笑んだ。

その微笑みは、どこからどう見ても非の打ちどころのない、優雅な王太子そのものだった。

ただし、紫水晶の瞳には、笑みの欠片もない。

せっかく愛しい婚約者と二人きりで過ごしていたというのに。

実に、邪魔な妹である。

「……何かご用かな?」

穏やかな声音とは裏腹に、その言葉には、さっさと立ち去れと言わんばかりの圧が込められていた。

ヴィクトリアの額に、ぴきりと青筋が浮かぶ。

「ご用も何も! わたくし、ベラを探していたんですの!」

「そう。それはご苦労様」

アレクシスは涼しげな微笑みを崩さないまま、ヴィクトリアに抱きしめられているイザベラへ視線を落とした。

「ベラ、おいで」

「うん!」

イザベラが嬉しそうに両手を伸ばすと、アレクシスはその小さな身体を軽々と抱き上げた。

「ちょ、ちょっと! お兄様!?」

突然腕の中からベラを奪われ、ヴィクトリアが声を上げる。

「何かな?」

「ベラを返してくださいませ!」

「どうして?」

アレクシスはにっこりと微笑んだ。

「ぼくの婚約者だよ?」

「わたくしの大切な妹分ですわ!」

「そうだね。でも、妹分と婚約者なら、ぼくのほうが少し近いかな」

「近いとか遠いとか、そういう問題ではありません!」

「じゃあ、どういう問題?」

「お兄様が意地悪だという問題ですわ!」

「それは困ったね」

まるで困っていない顔で、アレクシスはイザベラを抱き直した。

「ヴィーも早く、自分だけの大切な人を見つけるといいよ」

「余計なお世話ですわ! わたくしにはベラがいますもの!」

「うん。だから、ぼくの婚約者なんだけどね」

「もうっ!!」

ヴィクトリアは頬を膨らませた。

何を言っても、兄は涼しい顔で言い返してくる。

しかも、肝心のベラはといえば。

アレクシスの腕の中で、にこにこしながらその紫水晶のような瞳をじっと見つめていた。

兄妹がこうして言い合うのは、イザベラにとって珍しいことではない。

「……ベラ?」

視線に気づいたアレクシスが、優しく問いかける。

「アレク様のおめめ、きらきらしてる」

そう言って、イザベラは嬉しそうに微笑んだ。

アレクシスの表情が、たちまち甘く緩む。

「……ありがとう、ベラ」

その変わり身の早さに、ヴィクトリアは思わず身震いした。

まったく、どうしてベラはこんなお兄様がいいのかしら。

「……お兄様」

「何かな?」

「今日は、わたくしとベラのお茶会だったんですの!」

「母上のお茶会だよ」

「そういうことを申し上げているのではありません!」

アレクシスは涼しい顔で微笑んでいる。

ヴィクトリアは深く息を吐いた。

まったく、この兄とまともに言い合っていたら日が暮れてしまう。

それよりも、今はもっと大切なことがある。

「……そうでしたわ!」

ヴィクトリアはぱっと顔を上げた。

「ベラ! わたくし、あなたに見せたいものがあったの!」

イザベラがアレクシスの腕の中から顔を向ける。

「見せたいもの?」

「そう! お母様にお願いして、とっても可愛いお人形を作っていただいたのよ!」

「お人形!」

イザベラのエメラルドグリーンの瞳が、きらきらと輝いた。

「見たい!」

「ふふっ、でしょう? きっと気に入ってくれるわ!」

ヴィクトリアの表情が、嬉しそうに緩む。

今日のために用意した、とっておきのお人形。

ベラが喜ぶ顔を想像しては、何度も完成を楽しみにしていたのだ。

「さあ、ベラ。わたくしのお部屋に行きましょう!」

そう言って手を差し出そうとした、そのとき。

「……ああ、そうだ」

アレクシスが穏やかに口を開いた。

「ぼくも、ベラに渡したいものがあるんだった」

ヴィクトリアの手が、ぴたりと止まった。

……嫌な予感がする。

この兄が、こんなにも楽しそうに微笑むときは、決まってろくなことがない。

「ちょうどよかった。ベリアル」

「はい、殿下」

一歩後ろに控えていた黒髪の従者が、恭しく頭を下げる。

「例のものを」

「かしこまりました」

ベリアルは控えていた侍従へ合図を送った。

ほどなくして運ばれてきたのは、美しい装飾が施された箱だった。

アレクシスはイザベラをそっと地面に下ろし、その前に箱を置かせた。

「アレク様、これなあに?」

「ベラへの贈り物だよ」

「わたしに?」

「うん。開けてごらん」

イザベラは期待に胸を膨らませながら、小さな手でそっと蓋を持ち上げた。

「……わあっ!」

イザベラが歓声を上げた。

その隣で、ヴィクトリアは息を呑んだ。

箱の中には、二体の愛らしい人形が並んでいた。

一体は、ふんわりとした銀色の髪を持つ王子様の人形。丁寧に仕立てられた衣装には繊細な刺繍が施され、小さな飾りボタンまで美しく作り込まれている。

もう一体は、淡い桜色の巻き髪を白いリボンで結んだ少女の人形。アイボリーのドレスには小さな花々が刺繍され、幾重にも重なった裾には繊細なレースがあしらわれていた。

どちらも抱いて遊べるほど柔らかな人形でありながら、その瞳には本物の宝石が嵌め込まれている。

王子様の人形には、澄んだ紫色に輝くパープルサファイア。

少女の人形には、瑞々しい緑色を宿したエメラルド。

陽光を受けて煌めく宝石の瞳は、まるで人形たちに命が吹き込まれているかのようだった。

その精巧さと贅沢さは、もはや単なる玩具の域を超えている。

ヴィクトリアは、目の前の光景が信じられなかった。

お人形。

二体のお人形。

しかも、自分とベラではなく、お兄様とベラ。

……どうして。

どうして、よりによって、お兄様なの。

今日までずっと楽しみにしていた。

ベラが喜ぶ顔を想像しながら、お人形のドレスも、髪の色も、リボンの形も、一生懸命考えたのに。

それを。

それを、お兄様が。

先に。

「アレク様と……わたし?」

イザベラが大きな瞳を丸くした。

「そうだよ。ぼくとベラ」

「すごい! そっくり!」

イザベラは嬉しそうに二体の人形を見比べた。

「おめめまで一緒!」

ヴィクトリアは動けなかった。

ああ、ベラが喜んでいる。

あんなに嬉しそうに。

自分が見たかった笑顔を、今、お兄様が独り占めしている。

「気に入ってくれた?」

「うん! とっても可愛い!」

アレクシスは、その笑顔を満足そうに見つめた。

「それならよかった」

ヴィクトリアの胸に、何かがすとんと落ちた。

もう、何もかも遅かった。

お人形はまだ、自分の部屋にある。

ベラに見せるために、大切にしまってある。

けれど、最初にあの笑顔を引き出したのは、自分ではなかった。

「…………お兄様」

ようやく絞り出した声は、ひどく低かった。

「何かな、ヴィー?」

アレクシスはいつもどおり、涼しげに微笑んでいる。

「……わたくしも、お人形を用意していたんですけれど?」

「そうなんだ」

「……そうなんだ、ですって?」

「うん」

アレクシスは、イザベラの嬉しそうな顔をちらりと見た。

それから妹に向かって、にっこりと微笑む。

「偶然だね」

その口元には、実に満足げな笑みが浮かんでいた。

「……偶然、ですって?」

ヴィクトリアは、兄の顔を睨みつけた。

「そうだよ。驚いたな」

「そのお顔のどこが驚いていらっしゃるんですの!?」

「顔に出ない性格だからね」

「ベラの前ではいつもだらしなく緩んでいるくせに!」

アレクシスはわずかに眉を上げた。

「ヴィー。ぼくは王太子だよ?」

「存じております! だからこそ、そのお顔を何とかしていただきたいんです!」

「ベラは喜んでくれているみたいだけど?」

「ベラは優しいからですわ!!」

アレクシスは愉快そうに目を細めた。

「そうだね。ベラは本当に優しい子だ」

「……っ!」

何を言っても、結局はベラの自慢になってしまう。

ヴィクトリアは、ますます腹を立てた。

「お兄様は、わたくしがどれだけ楽しみにしていたか、ご存じないのでしょう!」

「うん。知らなかったよ」

「でしょうね! お兄様はいつもベラのことばかりですもの!」

「ヴィーだって同じじゃないか」

「わたくしはお兄様ほどではありません!」

「そうかな?」

アレクシスはちらりとイザベラを見る。

「ベラ。ヴィーは今日、ぼくのことを何回嫌いって言った?」

「んー?」

突然尋ねられたイザベラは、少し考え込んだ。

「……まだ言ってない!」

「そう。今日は珍しいね」

「お兄様ぁっ!!」

ヴィクトリアの声が庭園に響いた。

アレクシスは楽しそうに笑っている。

その余裕たっぷりの笑顔が、ヴィクトリアにはどうしようもなく憎らしかった。

「……お兄様は、ずるいですわ」

「何が?」

「わたくしだって、ベラに喜んでもらいたかったのに……!」

ヴィクトリアはぎゅっと拳を握りしめた。

今日までずっと楽しみにしていた。

自分とベラのお人形を並べて、二人で遊ぶつもりだった。

そのために、お母様にもお願いして、何度も仕上がりを確かめたのだ。

「ヴィーのお人形も、ベラはきっと喜んでくれるよ」

アレクシスは穏やかに言った。

「……そんなこと、お兄様に言われなくてもわかっていますわ!」

「そう。それならよかった」

「よくありません!」

ヴィクトリアは兄をきっと睨みつけた。

「わたくしが先に見せたかったんです! ベラが一番最初に喜ぶ顔を、わたくしが見たかったの!」

「……そうだったんだ」

アレクシスは少し考えるように首を傾げた。

そして、にっこりと微笑む。

「でも、ベラが最初に喜んでくれたのは、ぼくのお人形だったね」

「……っ!」

ヴィクトリアの顔が、かっと赤く染まった。

「それに、ぼくとベラのお人形、とてもよく似ているだろう?」

アレクシスはイザベラの抱える人形へ視線を落とした。

「こうして並べると、本当にお似合いだね」

「……お兄様……!」

ヴィクトリアは、唇が切れそうなほど強く噛みしめた。

「ヴィーのお人形も楽しみだな。ベラのお人形は、ぼくのと並べて飾ってもいいかもしれないね」

その瞬間、ヴィクトリアの中で何かが切れた。

自分とベラのお揃いのお人形。

二人だけのお人形だったはずなのに。

それさえも、兄は自分のものと並べるつもりなのか。

どこまでベラを独り占めすれば気が済むのだろう。

ふと、イザベラが大切そうに抱えている二体の人形が目に入った。

銀色の髪の王子様と、桜色の髪の少女。

寄り添うように並んだその姿が、今はどうしようもなく憎らしい。

「……そんなものっ!」

怒りに任せて、ヴィクトリアの手が振り上がった。


ぱしん、と乾いた音が響いた。


イザベラの腕から、二体の人形が弾き飛ばされる。

石畳に落ちた人形が、ころりと転がり、小さく硬い音がした。

桜色の髪をした人形。そのエメラルドの瞳の片方が、わずかに欠けている。

アレクシスの顔から、すっと血の気が引いた。

「……おめめが……」

イザベラが呆然と呟く。

次の瞬間、大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「ベ、ベラ! わたくし……!」

ヴィクトリアが慌てて手を伸ばす。

けれど、アレクシスはその手を遮るようにイザベラを抱き上げた。

「……触るな」

低く、鋭い声だった。

ヴィクトリアが凍りつく。

「お、お兄様……?」

アレクシスは妹を見下ろした。

そこには、いつもの優雅な微笑みなど欠片もなかった。

冷えきった紫の瞳が、ヴィクトリアを射抜いていた。

ヴィクトリアの唇が震えた。

「わ、わたくし、そんなつもりじゃ……」

「そんなつもりがなければ、何をしても許されるのか?」

その一言に、ヴィクトリアの顔が青ざめていく。

「……ヴィクトリア。今すぐ、ぼくの前から消えろ」

「……っ!」

イザベラを抱く腕に、わずかに力がこもる。

「アレク様……」

涙声で呼ばれた途端、アレクシスはイザベラへ視線を落とした。

「大丈夫だよ、ベラ。お人形は必ず直すから」

その声音も眼差しも、先ほどまでの冷たさが嘘のように優しかった。

「……ベラ……」

ヴィクトリアは、兄の腕の中にいるイザベラを見つめた。

頬にはまだ涙が残っている。

つい先ほどまで、あんなに嬉しそうに笑っていたのに。

自分が、その笑顔を消してしまった。

「……ごめんなさい、ベラ……」

震える声で謝ると、イザベラが小さく顔を上げた。

「……おねぇ……さま……うっ……」

ヴィクトリアは思わず一歩踏み出した。

けれど。

「下がれと言ったはずだ」

アレクシスの冷たい声が、その足を止めた。

「……っ」

ヴィクトリアは唇を噛んだ。

いつもなら、どんなに兄に意地悪をされても言い返せる。

けれど、今は違った。

自分が悪い。

それだけは、わかっていた。

「……わたくし……」

言葉が続かない。

アレクシスは妹を一瞥すると、後ろに控えていた従者へ声をかけた。

「ベリアル。人形を」

「かしこまりました」

ベリアルは静かに人形を拾い上げた。

欠けたエメラルドの瞳を確かめ、慎重に二体を箱へ戻す。

その様子を、ヴィクトリアはただ見つめていた。

アレクシスはイザベラを抱き直すと、踵を返した。

「……お兄様!」

ヴィクトリアが思わず声を上げる。

けれど、アレクシスは振り返らなかった。

「……ベラ……!」

その声に、イザベラが兄の肩越しに顔を向ける。

潤んだ緑の瞳が、ヴィクトリアを見つめた。

ヴィクトリアは何か言おうとして、結局、何も言えなかった。

アレクシスはそのまま、イザベラを連れて歩き去っていった。


アレクシスは、腕の中のイザベラをそっと抱き直した。

小さな身体が、時折しゃくり上げるたびに震えている。

「……ベラ」

優しく名前を呼ぶと、イザベラが涙に濡れた顔を上げた。

「……アレク、さま……」

「もう大丈夫だよ」

アレクシスはそっと頬を拭い、柔らかな桜色の髪を撫でた。

欠けたエメラルド。けれど、その胸の奥では、先ほどの光景が何度も蘇っていた。

石畳に転がった人形。

そして、涙をこぼしたイザベラ。

ただの人形だ。

壊れたのなら、直せばいい。

そんなことは、わかっている。

それでも、あの緑色の輝きが欠けた瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚が消えなかった。

二度と、あんな顔を見たくない。

二度と、あの涙を見たくない。

アレクシスは腕の中の少女を、そっと抱き寄せた。

「……ベラ」

「……ん……?」

「ぼくが、ちゃんと守るからね」

イザベラはまだ少し涙の残る瞳でアレクシスを見上げた。

それから小さく頷くと、アレクシスの首に両腕を回し、ぎゅっと抱きついた。

「……うん……!」

アレクシスは一瞬目を見開き、それからようやく、ほんの少しだけ微笑んだ。


一方、庭園に残されたヴィクトリアは、しばらくその場から動けなかった。

やがて、近くから小さな囁き声が聞こえてきた。

「……今の、ご覧になった?」

「王女殿下が、イザベラ様のお人形を……」

「王太子殿下が、あんなにお怒りになるなんて……」

お茶会の席から様子を見に来た令嬢たちが、顔を見合わせていた。

その視線が自分に向けられていることに気づき、ヴィクトリアははっと顔を上げた。

「……何を見ているの」

少女たちは慌てて頭を下げた。

けれど、その表情には戸惑いと、わずかな怯えが浮かんでいた。

ヴィクトリアはぎゅっと拳を握りしめる。

別に、ベラが嫌いなわけではない。

そんなはずがない。

誰よりも可愛くて、大切な妹のような存在なのに。

どうして、こんなことになってしまったのだろう。

ヴィクトリアは、二人が去っていった小道をじっと見つめた。

「……ベラ……」

もう一度呼んだ声は、誰にも届かなかった。



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