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王太子殿下、お友達にも嫉妬する

王宮の庭園には、柔らかな陽光が降り注いでいた。


色とりどりの花々が咲き誇る庭園の一角。白い柱に蔓薔薇が絡む東屋では、王妃ジュリエットが主催する子どもたちのお茶会が、まもなく始まろうとしていた。


「ベラ! こっちよ!」


弾む声とともに、銀色の髪がさらりと揺れた。


ヴィクトリア・ヴァレンティア、六歳。


父である国王マクシミリアンから受け継いだ銀髪は、陽の光を浴びて絹糸のように輝いている。背中まで伸びた髪は丁寧に梳かされ、真珠をあしらった小さな髪飾りで留められていた。


ぱっちりとした瞳は、母ジュリエット譲りの鮮やかな赤。


すっと通った鼻筋に、薔薇色の小さな唇。母親によく似た華やかな顔立ちは、まだ幼いながらも人目を引く美しさを備えていた。


白と深紅のドレスの裾を揺らしながら、ヴィクトリアは嬉しそうに手を振っている。


「あっ、お姉様、待って!」


その声に応えたのは、淡い桜色の髪を持つ少女だった。


イザベラ・アルヴェイン、五歳。


柔らかな桃色の髪を白いリボンで結び、アイボリーのドレスに身を包んでいる。長い睫毛に縁取られたエメラルドグリーンの瞳が、楽しそうに輝いていた。


先に歩き出したヴィクトリアを、イザベラは慌てて追いかけた。小さな手でドレスの裾をそっと持ち上げると、淡い桜色の髪がふわりと揺れる。


「今日はわたくしの隣に座るのよ!」


「うん!」


「それから、あとで新しいお人形も見せてあげるわ。お母様にお願いして作っていただいたの!」


「ほんと? 見たい!」


二人は顔を見合わせて、楽しそうに笑った。


幼い頃から王宮へ足を運んでいるイザベラにとって、ヴィクトリアは親しい姉のような存在だった。


そしてヴィクトリアにとっても、イザベラは可愛くて仕方のない妹のような存在である。


「ごきげんよう、ヴィクトリア王女殿下。イザベラ様」


柔らかな声とともに、優雅な礼を取ったのは、ベルローズ伯爵夫人オデットだった。


社交界の華と称される美しい伯爵夫人は、今日も華やかな装いに身を包み、その立ち居振る舞いには少しの隙もない。


その傍らには、母親のドレスの裾を小さな手で握りしめた少女がいる。


柔らかなシャンパンブロンドの髪は、毛先がくるりと巻かれ、淡い水色のリボンで飾られていた。長い睫毛の下には澄んだ青い瞳が隠れているが、少女は俯いたまま、なかなか顔を上げようとしない。


「セレスティーヌ。ご挨拶なさい」


母親に優しく促され、少女の肩がぴくりと跳ねた。


「あ……ご、ごきげんよう……」


消え入りそうな声だった。


ヴィクトリアはわずかに眉を寄せた。


「……それで、ご挨拶のつもり?」


オデットはすぐに娘へ目を向けた。


「セレスティーヌ、きちんとお顔を上げて」


けれど、セレスティーヌは母親のドレスを握りしめるばかりだった。


「申し訳ございません、王女殿下。娘はひどく緊張しているようで……」


オデットが丁寧に頭を下げる。


ヴィクトリアはまだ不満そうだったが、イザベラがそっと袖を引いた。


「お姉様」


「……なあに?」


「次のお客様が待ってるみたい」


ヴィクトリアはちらりと後ろの令嬢たちを見た。


「……そうね」


それ以上は何も言わず、次の招待客へ視線を向けた。


その後も、招待された令嬢たちが次々と挨拶に訪れた。


ヴィクトリアは小さな王女らしく、一人ひとりの挨拶を受けている。


やがて招待客が揃い、賑やかだった会場が少しずつ落ち着きを取り戻した頃。


「国王陛下、王妃殿下のお成りでございます」


侍従の声が響いた。


その場にいた貴族たちが、一斉に頭を下げる。


姿を現したのは、銀髪に紫の瞳を持つ国王マクシミリアンと、艶やかな黒髪に鮮やかな赤い瞳を持つ王妃ジュリエットだった。


二人はぴったりと寄り添い、マクシミリアンは愛おしげに妻へ視線を向けている。


「皆様、ごきげんよう。今日は楽しんでいってちょうだいね」


ジュリエットが微笑むと、会場の空気がぱっと華やいだ。


「今日は子どもたちのためのお茶会だ。どうか堅苦しくならず、楽しんでほしい」


マクシミリアンも穏やかに言葉を添える。


挨拶を終えると、マクシミリアンはごく自然な仕草で妻の手を取った。


ジュリエットも当たり前のようにその手を握り返し、二人は寄り添いながら会場をあとにした。


***


それからしばらくの間、お茶会には穏やかな時間が流れていた。


色とりどりの菓子が並ぶテーブルでは、幼い令嬢たちが楽しそうに言葉を交わしている。


ヴィクトリアもイザベラと並んで座り、他愛のないおしゃべりに興じていた。


「ベラ、わたくし、あちらの子たちともお話ししてくるわ」


ヴィクトリアは少し離れたテーブルに目を向けた。


「うん、お姉様」


「すぐに戻るから、待っていてね!」


そう言って席を立ったヴィクトリアは、軽やかな足取りで歩き出した。


ところが、その行く手に一人の少女が立っていた。


先ほど挨拶に訪れた、ベルローズ伯爵家の令嬢、セレスティーヌだった。


「あら、あなた。そこを通りたいのだけれど」


声をかけられたセレスティーヌは、びくりと肩を震わせた。


「あ……は、はい……」


慌てて脇へ寄ろうとするものの、目の前に立つ王女の姿に緊張して、足が動かない。


「……聞こえなかったの?」


「ご、ごめんなさ……」


ヴィクトリアの眉がぴくりと動いた。


「あなた、先ほどもきちんとご挨拶できなかったわよね?」


「……っ」


「今度はわたくしの行く手をふさぐなんて、どういうつもり?」


セレスティーヌは必死に首を横に振った。


「ち、違……わたし……」


「何が違うの?」


ヴィクトリアは腰に手を当てた。


「わたくしは王女なのよ? 王女の前でそんな態度を取るなんて、無礼にもほどがあるわ!」


「……っ、ひっく……」


とうとうセレスティーヌの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


ヴィクトリアは不愉快そうに眉を寄せた。


「泣けば許されるとでも思っているの?」


セレスティーヌは何も答えられず、ただ小さく首を横に振った。


「だったら、きちんとお答えなさい!」


「ヴィーお姉様」


そこへ、柔らかな声が響いた。


振り返ったヴィクトリアの目に、淡い桜色の髪を揺らしたイザベラの姿が映る。


「ベラ?」


「そんなに怒らないで」


「だって、この子が無礼なのよ!」


「でも、わざとじゃないと思うの」


「どうしてそう思うのよ?」


「きっと、緊張しているだけよ」


「緊張?」


「お姉様は、とても立派な王女様ですもの。初めてお会いする方は、どきどきしてしまうのよ」


ベラは優しく言葉を続けた。


「わたしは小さい頃からお姉様と一緒だから平気だけれど、セレスティーヌ様は今日が初めてでしょう?」


ヴィクトリアはちらりとセレスティーヌを見た。


「……だからって、許されることではないわ」


「そうかもしれないけど……」


イザベラは少し困ったように眉を下げた。


「わたし、お姉様が怖い王女様だと思われたら悲しいわ」


「……ベラ」


「だから、もう怒らないで。お姉様、お願い」


ヴィクトリアはしばらくイザベラを見つめていたが、やがて頬を膨らませた。


「……もう! ベラはずるいわ!」


そう言って、ヴィクトリアはぷいっと顔を背けると、そのまま友人たちのもとへ歩いていった。


その背中を見送ったイザベラは、セレスティーヌへと振り返った。


「セレスティーヌ様」


「……は、はい」


「よかったら、少しお庭を歩かない?」


セレスティーヌは驚いたように顔を上げた。


「……お庭、ですか?」


「うん。あっちに、とっても綺麗なお花が咲いてるの」


イザベラが指さした先には、色とりどりの薔薇が咲く小道が続いていた。


「わたし、あのお花が大好きなの。一緒に見に行かない?」


そう言って、イザベラはセレスティーヌに小さな手を差し出した。


セレスティーヌは差し出された手と、イザベラの顔を交互に見つめた。


少しためらったあと、おずおずとその手を握る。


「……はい」


「ふふっ、行こう!」


イザベラが嬉しそうに笑うと、セレスティーヌの表情もほんの少しだけ和らいだ。


***


二人は手をつないで、花々の咲く小道へと歩き出した。


薔薇の咲く小道を抜けた先には、小さな白いベンチが置かれていた。


イザベラはそこに腰を下ろすと、隣をそっと空けた。


セレスティーヌも少しためらいながら、ベンチの端にちょこんと座った。


二人の前には、色とりどりの花々が咲き誇っている。


柔らかな風が吹くたびに花びらが揺れ、甘い香りがふわりと漂った。


しばらく、二人は何も話さなかった。


イザベラは楽しそうに花を眺め、セレスティーヌもその隣で、じっと花々を見つめていた。


やがて。


「……きれい……」


小さな声がこぼれた。


イザベラが隣を見ると、セレスティーヌは花を見つめたまま、ぽつりと続けた。


「……お花……好き、です……」


イザベラは隣の少女に微笑んだ。


「わたしもお花、大好き」


セレスティーヌは少しだけ顔を上げた。


そして、また花に視線を戻す。


「……お母様も……お花が好きで……」


セレスティーヌは膝の上で小さな手を重ねた。


「お屋敷にも……たくさん、咲いているんです」


「ほんと? 今度見せて!」


イザベラが嬉しそうに顔を向けると、セレスティーヌは少し目を丸くした。


「……はい」


「……でも、わたし……」


そこで言葉が途切れる。


イザベラは何も言わず、隣に座っていた。


「……人が、たくさんいるところ……苦手で……」


セレスティーヌは俯いた。


「お母様みたいに……上手に、お話しできなくて……」


しばらく沈黙が続いた。


そよ風が二人の髪を揺らす。


「……わたしも、苦手なことあるよ」


イザベラがぽつりと言った。


セレスティーヌは驚いたように顔を上げる。


「……イザベラ様も?」


「うん。できないこと、いっぱいあるもん」


そう言って、イザベラは少し照れくさそうに笑った。


セレスティーヌはしばらくその顔を見つめていたが、やがて小さく頷いた。


「……はい」


二人はまた、並んで花を眺めた。


しばらくして、セレスティーヌが小さく口を開いた。


「……あの……」


「ん?」


「……さっきは……ありがとうございました……」


イザベラが隣を向くと、セレスティーヌは膝の上でぎゅっと手を握っていた。


「……助けて、くださって……」


イザベラはにこっと笑った。


「ううん、気にしないで」


「……でも……」


セレスティーヌは顔を上げかけて、また俯いた。


「……とっても、嬉しかったんです……」


その言葉に、イザベラは少し驚いたように目を丸くした。


それから、嬉しそうに微笑んだ。


「そっか。よかった!」


セレスティーヌも、つられるように小さく笑った。


ほんの一瞬だったけれど、それはお茶会が始まってから初めて見せる、セレスティーヌの笑顔だった。


***


「ベラ」


背後から聞き慣れた声がした。


「あっ、アレク様!」


ぱっと顔を輝かせたイザベラが振り返る。


淡い桃色の髪がふわりと揺れた。


その一歩後ろには、従者のベリアルが静かに控えている。


「こんなところにいたんだね」


「はい! セレスティーヌ様とお花を見ていたんです」


イザベラが隣を振り返ると、セレスティーヌは突然現れた王太子に驚き、慌てて立ち上がった。


「あ……あの……」


緊張のあまり、言葉が出てこない。


アレクシスは少女に一度だけ視線を向けると、再びイザベラを見つめた。


「ベラ、楽しく過ごせている?」


「うん!」


「それならよかった」


イザベラの笑顔に、アレクシスも嬉しそうに目を細めた。


「アレク様も、お茶会に来たの?」


「ベラに会いに来たんだよ」


「わたしに?」


「うん。会いたかったから」


「……わたしも会いたかった!」


イザベラはぱっと笑顔を輝かせると、アレクシスの胸に飛び込んだ。


アレクシスは慣れた様子でその小さな身体を受け止め、愛おしそうに抱きしめ返す。


「嬉しいな、ベラ」


「えへへ」


満足そうに笑うイザベラの頭を、アレクシスがそっと撫でた。


しばらくして、アレクシスはセレスティーヌへ向き直った。


「セレスティーヌ嬢。ベラを少し借りてもいいかな?」


突然声をかけられ、セレスティーヌはびくりと肩を震わせた。


「……っ、は、はい……!」


小さく頷くのが精いっぱいだった。


「ありがとう」


アレクシスは短く礼を述べると、イザベラへ向き直った。


イザベラはセレスティーヌに振り返った。


「セレスティーヌ様、今日は一緒にお花を見られて楽しかった!」


「……わ、わたしも……」


「またお話ししようね!」


セレスティーヌは小さく頷くと、今度は少しだけ顔を上げた。


「……はい。わたしも、またお話ししたいです……」


「うん! またね!」


イザベラが手を振ると、セレスティーヌも小さく手を振り返した。


アレクシスはその様子を見届けると、傍らの従者へ静かに声をかけた。


「ベリアル、セレスティーヌ嬢をお茶会の席までお願いできるかな」


「かしこまりました、殿下」


ベリアルは一礼すると、近くに控えていた侍女に目配せをした。


侍女がセレスティーヌのもとへ歩み寄り、丁寧に頭を下げる。


「ベルローズ伯爵令嬢様、こちらへどうぞ」


セレスティーヌは小さく頷き、侍女に付き添われて歩き出した。


***


それを見届けたアレクシスは、イザベラへと手を差し出した。


「行こうか、ベラ」


「うん、アレク様!」


イザベラは嬉しそうにその手を取った。


「ベラは、もうお友達ができたんだね」


「うん! セレスティーヌ様、またお話ししてくれるって!」


「そう。よかったね」


「今度はね、一緒にお花の絵を描きたいの!」


「楽しそうだね」


アレクシスは微笑んだ。


「セレスティーヌ様は、お花が大好きなんだって!」


「そうなんだ」


「うん! わたしも大好きだから、きっと仲良くなれると思う!」


弾む声に耳を傾けながら、アレクシスは小さな婚約者の手を握り直した。


「ベラ」


「なあに?」


「今度、お友達と遊ぶ日が決まったら教えてくれる?」


「うん! どうして?」


「ぼくも、ベラと遊ぶ日を決めておきたいから」


「ほんと!? じゃあ、また絵本を読んでほしい!」


「もちろん。新しい絵本も用意しておくね」


「やったあ!」


イザベラは嬉しそうに笑った。


その笑顔を見つめながら、アレクシスは少しだけ目を細める。


「……ぼく以外にも、そんなに可愛い顔を見せるんだね」


小さく落とされた呟きは、イザベラには届かなかった。


けれど、後ろに控えるベリアルには、はっきりと聞こえていた。


「ベリアル」


「はい、殿下」


「来週の予定は、もう決まっていたね」


「はい。剣術や歴史の講義のほか、王太子としてのお勉強もございます」


「そうだったね。じゃあ、再来週の予定を確認しておいて」


「再来週でございますか?」


「うん。ベラと過ごせる時間を、もう少し増やしたいんだ」


「……かしこまりました」


ベリアルは一礼したものの、念のため尋ねた。


「何か、ございましたか?」


「ベラにお友達ができたからね」


アレクシスは穏やかに答えた。


「それは喜ばしいことでございますね」


「もちろん。ベラが楽しそうで嬉しいよ」


「では、何かご心配でも?」


「ううん。ただ……」


アレクシスは少し考えるように視線を落とした。


「ぼくと過ごす時間が減るのは困るなって」


「……なるほど」


ベリアルは静かに頷いた。


「殿下。それは嫉妬というものでございますよ」


「うん。知ってるよ」


ベリアルは口元に微かな笑みを浮かべた。


やはり、この方は実に興味深い。


婚約者に友人ができたことを心から喜びながら、その友人に向けられる笑顔にまで嫉妬なさるとは。


しかも、当のご本人は、それを隠そうともなさらない。


さて、この小さな独占欲が、今度はどのような行動につながるのだろう。


ベリアルは、口元の笑みが深まるのを抑えられなかった。


「でも、お友達も大切だからね。ベラが楽しく過ごせるなら、それが一番だよ」


「ごもっともでございます」


「だから、ぼくの予定を調整すればいいでしょう?」


「……左様でございますね」


「ベラに無理をさせるわけにはいかないから」


アレクシスは、何でもないことのように付け加えた。


「ぼくの方で時間を作ればいいんだ」


実に合理的なお考えである。


婚約者に友人ができたことは喜ばしい。


その友人との交流を妨げるつもりもない。


ただし、ご自身と過ごす時間が減ることだけは、どうしても受け入れがたいらしい。


「……殿下」


「なんだい?」


「念のため申し上げますが、お身体を休めるお時間も必要でございます」


「うん。わかってるよ」


アレクシスはにっこりと微笑んだ。


「じゃあ、無駄な時間を減らそうか」


「…………」


ベリアルは、主君の穏やかな横顔を眺めた。


さて。


再来週の予定表を、どこから見直したものだろうか。


***


ベリアルは、仲睦まじく歩く二人の後ろに付き従いながら、その姿に目を向けた。


陽光を受けて煌めく銀髪に、気品を湛えた紫の瞳。


王太子アレクシスは、まだ七歳にして、すでに国王譲りの端正な美貌を備えている。


そして、その隣には。


柔らかな桜色の髪に、澄んだエメラルドグリーンの瞳を持つイザベラ。


花がほころぶように笑うその愛らしさは、王太子の隣にあっても少しも霞むことがない。


なんと素晴らしい光景だろう。


王家の気品と、公爵家の可憐さ。


異なる美しさが寄り添い、しかも互いを心から慕っている。


これほど見事な組み合わせを、日常的に鑑賞できるとは。


ベリアルは、王太子の従者という己の立場に、改めて深い満足を覚えた。


「アレク様、見て! あのお花、とっても綺麗!」


イザベラが指さした先で、色とりどりの花が風に揺れている。


「本当だね」


そう答えながらも、アレクシスの紫の瞳は、花ではなくイザベラに注がれていた。


「……アレク様?」


不思議そうに首を傾げるイザベラに、アレクシスは優しく微笑みかける。


「どんな花よりも、ベラのほうが綺麗だよ」


そう言って、淡い桜色の髪をひと房すくい、そっと口づけた。


「もう、アレク様! お花も見てください!」


イザベラはくすぐったそうに笑い、今度はアレクシスの手を引いて花壇へ駆け寄った。


アレクシスも楽しそうにその後を追う。


ベリアルは、その光景に静かな感動を覚えていた。


なんと贅沢なひとときだろう。


美しいものは、ただそこにあるだけでも価値がある。


しかし、その表情がくるくると変わり、互いの存在によってさらに輝きを増すとなれば、話は別だ。


……実に、眼福である。


ベリアルは口元に上品な笑みを浮かべ、二人の後ろを悠然と歩き続けた。

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