第7話:言葉にならないもの
違和感は、すぐに消えるものではありません。
むしろ、言葉にしようとした瞬間に、
うまく掴めなくなることの方が多いのかもしれません。
私は、歩いているはずだった。
足は止まっていない。
それでも、
さっき見たものだけが、
頭から離れない。
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「……」
気づけば、
視線が戻っていた。
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あの場所。
縄で繋がれた人たち。
膝をついたまま、並んでいる。
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さっきと、何も変わらない。
声も出さない。
動きもしない。
それが当たり前みたいに、そこにある。
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「……変だと思う」
また、口に出ていた。
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九条は振り向かない。
「どこがだ」
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「……分かんない」
即答だった。
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「でも、変」
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言葉にならない。
何がどう変なのか、説明できない。
それでも、
確かにある。
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足が、止まる。
自分でも気づかないまま、止まっていた。
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視線が、一人に引っかかる。
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目が合う。
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何も言わない。
何も求めてこない。
ただ、そこにいる。
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「……」
胸の奥が、わずかに揺れた。
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そのとき、
指が動いた。
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無意識だった。
何かを掴もうとするみたいに。
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でも、
掴めない。
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止まる。
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「……何と比較している」
九条の声が落ちる。
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「それが“変”だと判断する基準はどこにある」
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「……分かんない」
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考えようとして、止まる。
言葉が出てこない。
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「でも……」
続かない。
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代わりに、
指がもう一度動く。
さっきよりも、少しだけ強く。
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掴もうとして、
掴めないまま止まる。
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――基準が存在しないだけだ。
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「……ねえ」
視線を外さないまま、言葉が落ちる。
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「これ、普通なの?」
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小さな声だった。
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九条は何も言わない。
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ただ、一瞬だけ、
その指を見ていた。
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「……行くぞ」
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短い言葉。
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一歩、前に出る。
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でも、
足が動かない。
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「……待って」
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意味はない。
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それでも、
止まっていた。
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何かが違う。
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確かに、違う。
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でも、
それ以上が分からない。
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「……行くぞ」
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もう一度。
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今度は、
足が動いた。
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振り返らない。
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それでも、
あの光景だけが残っている。
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消えないまま。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
言葉にしようとした瞬間に、
形を失ってしまう違和感があります。
それでも、それは確かにそこにあるものです。
次回、その違和感は“言葉”ではなく、
別の形で現れます。




