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第6話:普通という言葉

日常の中にある「当たり前」は、

疑問を持たない限り、何も変わらない。


そんな話です。


目的は終わった。


次に向かう場所として、市場は妥当だった。



市場は賑わっていた。


売り声が重なり、笑い声がそれに混ざる。

色とりどりの果物と、焼けた肉の匂い。


どこにでもある、ありふれた光景。


——何もおかしくない。



その隣で、人が売られている。



縄で繋がれ、膝をついたまま並ばされている。

首元には札が下げられていた。


値段が書かれている。



「安いな」


「今は数が多いからな」



通りすがりの男たちは、足を止めることもなく言った。


視線だけを向けて、すぐに外す。



「……あれ、変じゃない?」


セレナが足を止めた。



「どこがだ」


九条は視線を向けないまま返す。



「だって……人、だよね」


言葉が続かない。


何がおかしいのか、自分でもうまく言えないようだった。



「そう定義されている」


九条は短く言う。



「定義……?」



「“奴隷”という言葉で区切られているだけだ」



理解しようとした瞬間、

何かが噛み合わない。



一人の男が足を止めた。


並んでいる奴隷の前に立つ。


札を見る。

腕を掴み、軽く引く。



「立て」



命令は短かった。


それだけで、奴隷は立ち上がった。


迷いも、遅れもない。



「……」


セレナは、その様子を見たまま動かない。



無意識に、指がわずかに動いた。


何かを止めるように。


何かを掴もうとするように。


だが、それが何を意味するのか、

本人も理解していない。



「……でも、嫌じゃないのかな」


小さくこぼれる。



「おかしいと思うか」



「……うん」



九条は、初めてそちらを見た。



「だが、ここでは正常だ」



その声は、何も変わらない。


肯定でも否定でもなく、

ただ事実を述べているだけだった。



「疑問を持たない限り、それは壊れない」



市場の喧騒は続いていた。


笑い声も、呼び声も、何も変わらない。



変わっていないはずなのに、


何かがずれている。



セレナは、もう一度だけ振り返った。



そこには、変わらない光景がある。



ただ、


それを“変だ”と思ってしまった自分だけが、

元に戻らなかった。



誰も疑問を持たない。


だから、それは壊れない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


「普通」とは何か。

それが少しでも揺らいでいたら、この話は成功です。


次から、少しずつ世界が動き始めます。

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