第15話:確かめるという行為
“知ろうとすること”と、
“壊すこと”の境界は、
思っているよりも曖昧です。
浅い水が張られている。
濁り、底は見えない。
その中に、
ローブの男は押さえつけられていた。
「……離せ……」
声が震えている。
ルイは肩口を押さえていた。
水に触れていない側。
靴も、地面も乾いている。
「……チッ」
皮膚の奥に、
嫌な感覚が残る。
レオナが低く言う。
「……雷系統の魔術ね」
「だが、発動が崩れている」
魔術師は息を荒げる。
「違う……」
「雷は……」
言葉が続かない。
理解しようとしている。
だが、
形にならない。
九条がしゃがみ込む。
水面と接触点を見る。
人ではない。
反応を見ている。
九条は足元を濡らさない位置に立っていた。
「水に触れるな」
短く言う。
ルイが顔をしかめる。
「最初から言えよ」
九条は答えない。
濡れた手で、
魔術師の肩に触れる。
——バチッ
光が走る。
「ッああああ!!」
身体が跳ねる。
水が揺れる。
焼ける匂い。
ルイが一瞬だけ力を緩めかける。
だが、
離さない。
魔術師は声を上げる。
「……違う……」
「こんなはずじゃ……」
もう一度、
力を込めようとする。
「もう一度だ」
九条が言う。
魔術師の指が震える。
理解していない。
それでも、
従うように力を込める。
——バチッ
絶叫。
自分で、
自分に雷を流している。
レオナの呼吸が乱れる。
「……やめなさい……」
だが、
止めない。
止められない。
魔術師は理解しようとしていた。
何かが違う。
だが、
何が違うのか分からない。
もう一度、
発動を維持しようとする。
——バチッ
声が途切れる。
膝が崩れる。
それでも、
止まらない。
維持しようとしている。
だが、
維持できていない。
九条が呟く。
「水に電気を流せば、自分にも返る」
「だが」
「こいつは、魔術とやらを攻撃の手段としか認識していない」
魔術師の身体が跳ねる。
肌は焼け、
ケロイド状に爛れている。
声は出ない。
身体だけが震える。
セレナの指が動く。
ゆっくりと、
同じ軌跡をなぞる。
完全に一致している。
九条がそれを見る。
わずかに頷く。
「……やはりそうか」
ルイが睨む。
「何がだよ」
九条は答えない。
ただ、
魔術師を見る。
レオナの目が揺れる。
否定できない。
理解もできない。
九条が立ち上がる。
「……もう一度やれば、どうなるか見てみたい」
その一言で、
空気が凍る。
ルイが吐き捨てる。
「……ふざけんな」
だが、
その言葉に力はなかった。
目の前の現実が、
それを許さなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
“確かめる”という行為は、
必ずしも安全なものではありません。
それが誰に向けられているのかで、
意味は大きく変わります。
次話では、その行為を止めようとする側の視点が入ります。




